ありありて詩

全100篇の詩集です。ありありて幻想。

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ハチャメチャオモシロトンデモ設定SF

 この冷蔵庫には
  この冷蔵庫にはぁ
   野望があるんです
  野菜室のお菓子を
  ボコボコにしたい
  ボコボコにしたい
  ボコボコにしたい
   欲望があるんです
  でもこの冷蔵庫は
   動けないんです
   冷蔵庫だから

いきなり
どうした
冷静だな
冷蔵庫に
入ったか

   この冷蔵庫は
     この冷蔵庫はぁ
       マイノリティで
         抑圧されていて
          でも翼が生えてきて
         飛行を繰りかえして
        野菜室のお菓子を
      粉々にするんです
    冷蔵庫でも
     
なるほど
みなさん
少数派は
未来永劫
報われず
幸せなど
とんでも
ない

2021年8月27日

殻破り空回り

腐ってはいけない
しかし
外側がいくらかたくなでも
冷蔵庫は依然として存在し
わたしも依然として存在し
たまごも依然として存在し
内側からだめになってゆく

そして
賞味期限が一ヶ月前の
たまごが
残り九個

わたしは平たい皿に
黄身だけを四つ投入し
床に落ちていた砂糖をまぶし
割りばしで混ぜ
トロトロとした黄色い液に
ホットケーキをつくる粉を入れ
粉と黄色い液が混ざらず
たまごを追加し
割りばしで混ぜ
電子レンジでチンしてできた
味のしない
蒸しパンケーキを食べている

努力することが
あきらめないことが
現実にあらがうことが
こんなことなら
偉くなくたっていいや

2021年7月28日

分割するやつ分割する

つづく

最後まで完走しようと心に決めて
いきなり目の前の道が伸びてゆき
思っていたより道のりは長いぞと
短距離のつもりの息をととのえて
さあ今度こそゴールだと喜んだら
はいはいまた最終地点が動いたと
息苦しく足が希望のためではなく
外部の理由から動かされる蝶番に
それでもここでやめてしまったら
今までの感想が嘘になってしまう
途中だけを切り取ってわかるとは
言えないから言うために走り抜け

つづく(未完)

分割するやつ分割する(完)

2021年8月30日

サード・パーティ・ロジスティクス

そうです、あの強烈な打球です、グラブから弾けて手ごと吹き飛ばされる可能性からふっと気を失い、譫妄のうちに掴んで投げる、あの白昼夢です、流れるように完成する併殺、瞬く間に死んでゆき、攻撃と守備がいれかわり、死んでゆき、試合が終わっている、あの強烈な土埃です、われわれの勝利は思ったようにうれしく、敗北は思ったよりくやしく、しかしどこかで失念している自分、自動的に捕球し機械的に処理をする自分、その裏でホームランを打ってヒーローになる自分、遠くで上がっている煙とともに立ちのぼる自分がいて、球場にいないことがある、私です、本日はパーティに招待いただき、誠にありがとうございます、同じポジションを守る方々とこうしてお会いできて光栄です
(パーティに集められたサードは第三者によってロジスティクスにされました)

2021年8月5日

読んだかなリチャード・ブローティガン

買取の集荷に備えて
さあ詰めて
手が止まる

『愛のゆくえ』
『芝生の復讐』
『アメリカの鱒釣り』

読んだかなリチャード・ブローティガン
どれかは途中で
諦めたような
ような
ような

たしかそういえば
さあ動いて
手が止まる

『西瓜糖の日々』

読んだかなリチャード・ブローティガン
これは電子書籍で
読んだような
ような
ような

堕胎したよな
『愛のゆくえ』
復讐したっけ
『芝生の復讐』
鱒を釣ったね
『アメリカの鱒釣り』
西瓜糖の日々
『西瓜糖の日々』

2021年8月27日

ある私はある青

ある小説は
ある問題を抱えた少年が
ある体験をもとに執筆したミステリ小説
という体裁で書かれている

彼は素数にこだわりがあるので
章の数字には素数をつかう

彼はとても論理的だから
論理的な文章を書く

彼はジョークがわからないため
本文にはジョークがない

彼は映像記憶が得意で
どこまでも細かく書ける

彼はほんとうのことを言う
彼は家族が家具を動かすと怒る
彼は空気を読めない
彼は暴力をふるう
彼は笑わない
彼はさわられるといやがる
彼は黄色と茶色が嫌い

著者は発達障害の人たちと働いたことがあり
訳者はこの小説が評価された理由を
著者の理解と愛情が注がれているからと書く

私は
私をまったく知らない人が
私の物語を書こうとして
私への理解と愛情をもって

私は非論理的で
私は感情を大げさにあらわし
私はピンク色が好き

と書いたとして
私は違うのだと
非論理的でも大げさかもしれなくても
ピンクより青が好きだと
抗議できるだろうか

あなたがたが理解と愛情をもって
教科書どおりの
ある存在として私を扱うとき
言えるだろうか

私は人間で
私はあなたと同じ人間で
私はピンクより青が好き

2021年6月30日

廻る寿司フォーエバー

しょうゆ皿を探して
回転している寿司の上にある台の上の皿を
つかんでおろしたら
ふつうの皿
課金皿

嗚呼今更もとには戻せない
すでにさした醤油をみて
ここにたまごがあったマグロがあったと
店員は想像もせずに数え上げる
一枚二枚三枚四枚……

嗚呼今更やり直せはしない
すでにさした醤油につけ
たまごやマグロの皿をきれいに保っても
店員は想像もせずに数え上げる
五枚六枚七枚八枚……

嗚呼さらさら憎む気はない
すでにさした醤油をみて
己の過ちをおもんぱかってもらおうとは
貴方は見える分だけ数えていい
九枚十枚フォーエバー

2021年9月10日

クエン酸

水あか掃除にはクエン酸がいいと聞いて
お掃除コーナーの陳列棚の前で立ち止まる

「混ぜるな危険」

えっあっえっ
そそそそそそれもそうか酸だから
クエン酸だから酸だから酸性だから
塩素系とは混ぜてはいけないんだ

次の日
飲み干したジュースのラベルを見て止まる

「クエン酸」

えっあっえっああっええっあっえっあっえっじゃじゃじゃじゃあ
ここで塩素系を飲んだらどうなっちゃうんだ

もしかしたら
もう危険の真っ最中
混ざり合ったものを
分離などできなくて
わたしの胃のなかで
塩素ガス好評発生中

みんな知っていたのか
クエン酸が酸性だって
わたしは知らなかった
クエン酸が酸性だって
知っていたなら助けて
わたしの危険を助けて
ほかの人たちも助けて
無知を罪と笑わないで

水あかはきれいに落ちた
ジュースはおいしかった

2021年9月5日

足りそうだ人生

引越しだ
業者からもらった段ボールで箱詰めだ
本や皿は小さくて軽いけど集めると重いから
Sサイズの箱にぎっしりしない態度で入れる

背よりすこし低い本棚の本
背よりだいぶ低い本棚の本
三段のカラーボックスに入った本
三段のカラーボックスの一段に入った本
を一冊一冊ねこそぎに箱のなかに平積みに

「足りるのか段ボール」
部屋から減る本と増える箱
「足りそうだ段ボール」
白い本棚の白い背板の若さ

私の青春の小っちゃなもんよ
お墓にだって入るんだもんな

2021年8月29日

院外処方

受付にはふたりの男女がいる……
まず女性から声をかけられる……
処方箋を渡して長椅子に座る……
受付の奥には広い部屋がある……
男がパソコンを操作している……
受付の男性が話しかけてくる……
記入した問診票を男性に渡す……
受付の奥から薬剤師が現れる……

そんなに人いるのかな
ひとりふたりさんにん
そうだよ人がいるんだ
かけがえのない存在だ
本当は受付に百人いてもよかった
奥の部屋に五万人いてもよかった
だれもが大切な人間だ
みんな一生懸命なんだ
むだなことなんてない

2021年9月10日

乗換案内

泳ごうと思って
きれいな海のある場所に
旅行にでかけて
バスにゆられて
バスにゆられて
波にゆられて
さあバスに
ホテルまでの帰り道を
確認しようとして
開いた端末のバッテリー残量が
残り六パーセント
鞄から充電器を探して
ない
ないんだ
画面を最大限に暗くして
調べた結果
バスに乗り
バスを降り
一分で移動して
四分だけ待って
バスに乗り
バスを降りれば
あとは歩くだけ

それを信じて
バスに乗り
バスを降り
一分で移動した
バス停に貼られている
「このバスは○○には向かいません」
の文句
ならどこだ
一分で移動できる場所は
近くにいるタクシーの運転手
「先だよ先!」
前に進め!
でもバス停がない
前方の信号を渡った先にあるけど
一分で移動できる距離ではない
向かい側のバス停に行く
違う!
当たり前だ逆方向に向かうんだ!
タクシーの運転手が
私をじっと見ている
バスはもう来る時間
どこにも見当たらず
とぼとぼと
前方の信号を渡った先の
時刻表を
見たら違った
ここでもなかった
どこでもなかった
乗りたいバスが停車するバス停がなかった

タクシーの運転手は
もう消えていた
どうせなにもかも違うなら
信じてやればよかった

2021年7月19日

スローモーション

シュノーケルを楽しみながら
防水ケース越しに撮った
魚と珊瑚の動画が
スローモーションになっている

はじめは通常のスピードで始まる動画も
スローモーションになっている

インカメラで自撮りの動画になっている
スローモーションにもなっている

親子連れが泳ぐ動画になっている
スローモーションにもなっている

溺れて空を仰ぐ動画になっている
スローモーションにもなっている

充実している時は
ひとつひとつが鮮明に
小さくても大きく
高解像度に
目の前に広がっている

そんな時も
束ねて
連ねて
充実している時間になると
あっという間に過ぎ去ってしまう

動画は本当で
現実も本当で
スローモーションは本当ではなくて
でもスローモーションは本当で
過ぎ去った時間も本当で
でも現実にないから本当ではないかもしれなくて
綺麗だった
そう思っていた私は不明瞭で
撮影に失敗した
そう思っている私だけがいる
スローモーションでいる

2021年7月30日

背後関係

「苦しんでいる人たちの前で楽しかったと言えますか」

私たちは
暴れて
みなの迷惑になるからと
教室のすみっこに
ついたてで
机ごと囲われた
クラスメイトを背に
授業を受けていた

 だれかが騒いで
 だれかが死にそうになったから
 だれかは騒いで
 だれかが騒いだから
 だれかが死んだ

楽しかった
ついたてで隠して
前に見えることしか考えていないから楽しかった


彼は
元気で
つねにあさっての方を見て
でも一生懸命で
ついたてで
机ごと囲われて
クラスメイトたちを前に
授業を受けられなかった
 
 だれかが騒がなくても
 だれかは死にそうになった
 だれかが騒がなくても
 だれかが死んだのに
 だれかを殺した

悲しかった?
ついたてで隠して
前に見えることしか悼んでいないから楽しかった?

2021年8月15日

カレンダーの底力

カレンダーが浮いている
天を画鋲でとめたカレンダーの底が
壁との間で指を包みこむけなげさで
浮いている

カレンダーが浮いている
壮大な写真を載せた上部と機能の下部との
思想の違いが目に見えるように
浮いている

私は
闘わなければならない
ちっぽけなことでも
繊細すぎることでも
どうでもよいことでも

カレンダーを浮つかせる人間に
だれの真剣を獲得できるものか

カレンダーの下部
カレンダーの底に
マスキングテープを貼って
壁から離れないようにおさえて
とどまれ
時も日も月もとどまれ
べろべろ
ぺらっん
ふわふわ
カレンダーの底力に負けた

敷金の悪魔に魂を売った
下部の穴に画鋲をさした
このめざましい勝利によって
われわれはもっと真剣でいられるだろう

2021年9月26日

いつも明るいほうへ

内見で入った部屋の壁紙には
廊下から室内まで
赤や青や黄色のぐるぐるが咲いていた

不動産屋曰わく
前の住人は部屋をふたつ借りることを条件に
小さなお子さんとふたりで十年暮らしていた

あとでクリーニングが入るからと
土足で踏み入れただれかの生活のあと

想像できる
想像させられる
それでも
どちらにでも転べるなら
いつも明るいほうへ

きっとずっと幸せだった
これからもっと幸せになる
その余韻をわたしに借りさせてください

2021年8月25日

生きるための音楽

安定や安心のために
首輪をつけない
そう言い切ったきみは
真のアーティスト
本物のクリエイターだったね

でも本当は
守られたかったんだね
安定や安心のために
毎月お金をもらいたかったんだね

陸地でせっせと働くのは馬鹿らしいと
大海原に飛び出したきみ

でも実際は
雨風なんていやだったんだね
こんな家族とはいられないと
仕送りで旅行をしたかったんだね

2021年8月27日

規格外のポストカード

やーいおまえ
ポストカードホルダーに収納できないポストカード
微妙にでかい
ポストカード

さも
おれはあいつらとは違うって態度のでかさで
待て待て
たかがプリントされた厚紙だぞ
わきまえろ分を
個性なら内容で示せ
サイズで目立つな
足並みそろえて抜きんでろ

でも
もう存在しちまっているから
仕方なく
しょうがなく
壁にぺたぺた貼ってやるよ
やったよ

そうしたら
ポストカードホルダーを開くより
おまえを見る機会のほうが
だんぜん多いんだ
ずるいやつだよ
ほんと

2021年9月27日

粗大ゴミ

退職で社宅を出る
九畳から六畳にうつる

椅子を買って机に向かうようになって
こたつを捨ててから
広い部屋の中央に残されていた
赤い座椅子を持ち上げて
狭いキッチンの床に置いて
粗大ゴミの日の前夜は
電気もつけずに
座椅子に座った

ぴったりと合った
リクライニングの傾斜
初めて会ったときから
最後に別れるときまで
頬ずりをした

粗大ゴミの日の朝は
各地で大雨が降って
川が氾濫して
土砂がくずれて
生活圏が水に浸った

雨のなか
ゴミ置き場に
座椅子を置いて
しぼるように触れたら
頬ずりできない重さをまとっていて
後戻りできないと知った

環境は変わってしまう
わたしたちは野ざらしで
変わりたくなくても
変えられてしまう
流されてしまう
とどまりたいと祈る
それでも進まないといけないと思う

2021年8月15日

共通運命

カツ丼はおいしかったが
セットのうどんはまずかった

狭い店にはテーブルが三台
「いらっしゃいませ」
背後で椅子をひく音
メニューを選ぶ上向いた声
「どうしようかな……カツ丼……」

セットはやめとけ
セットはまずい
セットが選ばれてしまうと
セットが存続してしまう
 
 同じ方向に走っているだけで
 遠くから見たとき仲間に見える
 当事者としても仲間だと思う
 
「はい、カツ丼ですね」
被害者がひとり減った
お店の売上も減った
だけど運命は変わった
 
 このままひとりひとりが
 まずいことを避けてゆけば
 仲間の選択肢は洗練される

 かなしいことはきっとなくなる

「あっすみません。やっぱりセットで」
ゆっくりふりむく
「そばセットでお願いします」
そばならいいや

2021年10月26日

フロテロ

ホテルの浴槽は
わたしが寝られるぐらい
浅く広く長く横に伸びている

遠くにみえる天井に思い浮かべる
このまま水を出しっぱなしにして
眠ってしまったら
どうなるだろう

わたしはあっけなく水びたしになって
ぽこぽことやすらかに沈むだろう
そのうち水はふちをのりだして
シャワーカーテンをのりこえて
床をひたひたにして
扉のすきまから部屋にこぼれて
いっぱいに満ちて
廊下にまで流れてゆき
下の部屋にも染みだして
仕事のつづきをしていた人
テレビを見ながらくつろいでいた人
明日の予定をたのしみに眠っていた人
全員に等しくふりそそぐだろう

わたしは期待しながら眠るのに
彼らはこれに何の意味があったのか
考えることも思うこともなく溺れてゆく

だからわたしの犠牲・わたしの覚悟・わたしの勇気は
けっしてだれかの平和とつりあうことなく
とりかえることはできないのです

2021年10月25日

所属詩誌喪失

所属詩誌ってなんだろう
インターネットで検索しても出てこない

「所属詩誌とは」
「所属詩誌 意味」
「所属詩誌 理由」

所属詩誌ってなんだろう
調べてもわからなかった

「所属団体」
「所属部署」
「所属サークル」

うすうすと知っている

「所属詩誌」

はっきりと知らない

「所属詩誌を記入してください」

所属詩誌ってなんだろう
氏名や年齢や職業や住所のように
知っていて当然の情報なのかな

所属詩誌ってなんだろう
氏名や年齢や職業や住所のように
一個人を識別する情報なのかな

氏名や年齢や職業や住所を書くように
個人情報を求められたときに差し出せる
所属詩誌を取り戻したい

2021年9月29日

読まなくていい本

体系的に学べと言われても
知りたいことだけ知りたいな

なんで空は青いのかなんて
ひまだから思っただけで
そこまで知りたくないや

あの人がどうしてああなったか
知ることができないのに
五百年前の歴史を知ってもな

知らないとできないより
知らなくてもできるほうが
未来だよね

読まなくていい本を書いてある本に
「ぜんぶ」って書いてあってほしい

2021年11月3日

ねちがえ

寝て起きたら
世界が変わっていた
カーテンを開けただけだが
おそらく戦争が始まったことは間違いなかった

地盤はゆるんでいた
豪雨で流されていた
風が吹き荒れていた
火山が噴火していた
暴徒が密集していた
薬がよく売れていた

森羅万象に
なにかが
あった

なにもかも変わっていたのに
わたしは動けなかった

そのとき
人の役に立ちたいという
高潔な思いが生まれた

世界でいちばんの権力者になって
ひとりひとりにわたあめを配分し
甘いものが嫌いならかんぴょうを
元気を出せよと励まして歩くんだ

わたしは動けなかった

2021年9月29日

ここだけ嵐か

海を仕切って作られたプールで
ペンギンショーが始まろうとしていた
 
天候は大雨
ステージの背景で荒れ狂う日本海
空にはウミネコが飛び回り
ペンギンは飼育員の指示を無視して
飛び越えられるはずのハードルの横を歩く

階段式の観客席ではだれひとり座らずに
傘をさして立っている
 
強風で私の折りたたみ傘がひっくりかえる
ペンギンが滑り台から歩いて降りる
観客は拍手をしている
 
ここだけ嵐か
私にしか見えないのか
打ちつけて上がる白い飛沫
傘ごと吹き飛ばそうとする風
乱入した一羽のカラス
 
ジャンプ台を無視するペンギンを
笑っている観客のそばに来ている
人の数だけ見えない嵐がある

ペンギンは何もできなかった
私も何もできなかった
打ちひしがれていると
アナウンスが流れてきた

「次のトドショーは高波のため中止いたします」

嵐はあった
どこも嵐だ

2021年10月26日

他責他罰バースデー

他人が
他人のことについて
怒っているよ

「あいつは他責的だ」
「あいつは他罰的だ」

ぽわぽわぽわん

 『きゃあ勝手にわたしのものを取らないでください』
 『被害者ヅラをするな』
 『てめえの頭もヅラだろうが』
 『ぎゃあ勝手にわたしのものを取らないでください』
 『他人を責めるな』
 『他人を罰するな』
 『自他の境界が曖昧になっている』
 『被害なんてない』
 『加害しかない』

ぽわぽわぽわん

「すごいね」
「魔法だね」

何もないのに
何もなかったのに
何かをうみだせる
なんて
妄想

2021年12月30日

すべての文字を大きくしたい

読めない たすけて
小さな字 よみもの
目が痛い よめない
小さな字 ちいさい
読めない わかんね
雑誌の字 むずいよ
読めない なんかい
字字字字 どっかい

だから
わたしは
考えた

まず
わたしだけ
文字を大きく書く

フォントサイズを
大きくして
印刷する

読んだ人に やった
慣れさせる これで
大きな字を よめる
慣れさせる らくだ
小さな字に わかる
疲れさせる すてき
大きな字が びっぐ
基本になる ぐっど

だから
まず
わたしだけでも
文字を大きく書く

2021年7月28日

特殊切手の穴

シール式の
特殊切手の
使い終わった穴の
白さ
無垢


元のかたちの大きさと数しかわからず
何があったかを思い出せない

穴の外側には
特殊切手の題材にふさわしい
あるいは切手の一部とつながっていた背景が
広がっている

背景の内側には
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
が広がっている

信じるしかない
届いていることを
信じるしかない
生きていることを

そこには確かにあった
今もある 今もあれ
無の対極に有があれ

2021年9月26日

大志

十字の網を張った柵のそばには
世界の広さなんて見向きもせずに
草を食んでいる羊たちがいた

だれにも案内されていない場所を歩くと
左右にちらばる大きな白い雲のすきまから
青のグラデーションが斜めに見える
まばらな紅葉を背景にして
建物の陰には入らずに
自らが淡い土色に濃い影を作っている
黄色のホイールローダが
木と地面で直角三角形を作るように
バケットをかぶせて休んでいた

あつらえた景色より
ちりぢりになって
見てみたい
くるくるくるくる
回転したい

迷ったわたしを
探し出さないで
わたしの肉は
次の勇気になり
わたしの骨は
宝の地図になる

2021年10月26日

人体のデテール

両手を失っても人間だ
視力を失っても人間だ
記憶を失っても人間だ

末端から少しずつ切り落として
最後にへそが残ったとしても
それは人間だ
死んでしまった人間だ

帝王切開で生まれても人間だ
試験管のなかで生まれても人間だ
人工子宮のなかで生まれても人間だ

だが
中心から少しずつ部分を張り合わせて
最終的に正しく動いたとしても
それは人間ではない
生まれてしまった物だ

あらゆる部品を組み合わせて
全体を作っても人間にならない
毎号揃えると完成する人間は存在しない

しかし
カプセルを用意して
部品を中に入れて
振っているうちに
人体が完成したら
たぶん人間になる

他者を人間と認めるのはいつも人の心である
驚きが生命の神秘と結びつくときに
はじめて物質を人間として見る

もしも
手に取るように心がわかると思ったら
人間のようには扱えない

2021年9月26日

いつもの通りの道

半袖の上にコートを着て自転車で
いつもの道を走ったら
長かった

いつもどおりの道なのに
いつもどおりの自転車なのに
長かった

いつも五分で目的地につくのに
いつまでもたどり着けないくらい
長かった

いつもより手が冷たくなり
いつもより体が震えて
長かった

いつまでいつもよりいつもどおりのいつもで
続けられると思う

いつもいつもどおりのいつまでもいつもより
続くと思う
思うけど続く
思いがけないほど続く

長かった
きっと雪の日は
もっと長くなる

2021年12月30日

キウイvsキーウィvsキングペンギンの雛

◎種類
 キウイ:果実
 キーウィ:飛べない鳥
 キングペンギンの雛:飛べない鳥

◎見た目
 キウイ:キーウィに似ている
 キーウィ:キウイに似ている
 キングペンギンの雛:キウイに似ている

◎形・大きさ
 キウイ:楕円形で小さい
 キーウィ:丸っこくて小さい
 キングペンギンの雛:縦に長くて太くて大きい

◎朝食
 キウイ:適している
 キーウィ:夜行性
 キングペンギンの雛:重すぎる


勝ち負けをつけることに
意味があることの
反例

2021年10月25日

誰かのためのデザイン?

部屋に備え付けの
白いテレビ付きドアホンの上部には
玄関先の映像がうつるモニターと
オートロックを解除するボタンがあり
下部には
玄関先と通話ができるスピーカーの穴
空いているから黒く見える丸(図1参照)

図1
  。。ooO○○◯●●●●◯○○Ooo。。
  。。ooO○◯●●●●●●◯○Ooo。。
  。。ooO○◯●●●●●●◯○Ooo。。
  。。ooO○○◯●●●●◯○○Ooo。。
  。。ooO○○○◯◯◯◯○○○Ooo。。
  。。ooO○○○○○○○○○○Ooo。。

何のため
貫通しない
白い穴
何のため
中央に向かう
大小のグラデーション
何のため
音の出ようがない
プラスチックのボコ

許したい
誰かのためのデザイン
尊重したい
誰かのためのデザイン
怒りたくない
誰かのためのデザイン
余裕をもちたい
誰かのためのデザイン
万物に意味がある
誰かのためのデザイン

2021年10月12日

模範の死

もしも死が
なかなか寝つけない夜の
あっなんかいつのまにか寝ていたわの朝の
朝がないバージョンだったら

寝られない
もう真っ暗なのに
はしゃぐ時間でもないのに
刻々と苦しくて
早く寝たい寝たいの夜が
死だったら

上に投げたボールが
永久に着地しない死だったら

好きなひとが間近で腐ってゆくより
ずっとずっと怖いんだろうか

どんどんくずれて
原型を失って
へんな臭いがして
病をまき散らし
みなに迷惑をかけ
だれにも惜しまれずに
消えてゆくところを
じっと見つめているだけの時間より
怖いんだろうか

そんなはずはない
好きなひとが腐ることより
怖いことはない

今までの生を裏切ることより
怖いことがあったら
怖すぎるからない

2021年10月25日

面白い冗談

目に見えるつながりを求めるのは
甘やかな愛かい
鳶色の疑心だよ

捨てられてしまうと思うから
首輪をほしがるんだ
見下されてしまうと思うから
組み敷こうとするんだ

想いが軽く見えるのは
あんたをずっしりと堪えていて
重さは相対的だから
 
想いが重く見えるとき
あんたが相手にしてやったことは
軽くて薄くてなんでもない

あんたの重さが
シーソーの向こう側にいたひとを
吹き飛ばして
頭から落下させてしまうのに
かわいそう
自分がかわいそう
冷たいひとね
冷たくなったひとに
面白い冗談

2021年11月11日

知らないことはいつも鏡

制服がパリパリしていたころ
となりの席の男子生徒が
大柄な男子生徒たちに囲まれて
連れていかれた

それから
ずっと使われない机
だれも座らない椅子

となりのとなりのクラスでは
一度も登校していない生徒が
いるらしい

親の仕事の手伝いをしているらしい

となりの席だった男子生徒は
ゲームをしているそうで
夜でも部屋に明かりがついているらしい

あるとき出会った人は
かつて不登校だったと
話してくれた

わたし知っていた
しかし知らなかった

この世に不登校の人間がいることを
ちっとも信じられなかった

保健室登校をしていたあの人も
性風俗産業で働いていたあの人も
親が離婚したあの人も
休職をしたあの人も
わたしに教えた
わたしは知らない
わたしはなにもわかっていない

知らないことが鏡になって
わたしの姿をうつしだす

らしいらしいの伝聞で
知った気になり弛緩した
だらしない頬が引き締まる

叔父が死んだらしい
子どもがいたのに
まだおさないのに

右手を動かして鏡のわたしが左手を動かして
うれしいだけのわたし

鏡の裏にいるあなたに
会いたくて
枠に手をかけて
そっと覗きこんでも
裏にはまた鏡がある

わたし知りたい
あなたを見たい

2021年10月28日

ふりふり

なにがおもしろいのか
川のそばに
等間隔で
人が座っている

倣ってみる
川に向かって足を投げるように
腕につけた時計をみる

忙しい人は
忙しいふりをしないだろうな

お金をもっている人は
お金をもっているふりをしないし

家族となかよしな人は
家族となかよしなふりをするわけないし

才能のある人は
才能のあるふりをする必要なんてないし

幸せな人は
幸せなふりをしない

隠してあるものは神秘的に見えるし
すぐ手にはいるものは安っぽく思う
だけど
とても
おそろしいことに

底が浅いと水面から見える

2021年10月28日

ミニミニ再生産

今回の付録は
あの文房具を模したポーチ
あのお菓子を模したポーチ
あの文庫本を模したポーチ

模した模した模した模した
ポーチポーチポーチポーチ

パロディ元が尽きるまで
尽きないと思っている
消費しかしていないのに
尽きないと思っている
減算しかしていないのに
尽きないと思っている

パロディのパロディの
パロディのパロディの
パロディのパロディの
続きのリメイクのリベイクの
リバイバルの新シリーズの
リニューアルのリスタートの
ミニミニミニミニミニ再生産

ポーチが増えたところで
いるものは増えない
いれたいものも増えない
増えないのに
尽きないと思っている
人が尽きない

2021年12月26日

泡を育てる

底に穴のある容れものを
洗剤をつけたスポンジで洗って
シンクに置いたまま水を注ぐと
泡が膨らむ
迫り上がる

容れものを持ち上げてシンクから離すと
泡は後退する
水だけ流れる

シンクに置いて水を注ぐ
泡が膨らむ
迫り上がる
シンクから離して
泡は後退する
水だけ流れる
シンクに置いて水を注ぐ
泡が膨らむ
迫り上がる
シンクから離して
水を注ぐ
水だけ流れる
泡が膨らむ
泡が膨らむ
水だけ流れる

育てた泡をなんとか流す
水泡に帰する ってない
だってぴかぴかになったから
燃やして抑制するよりきれいだったんだよ

2021年11月15日

雪原の丸焼き

駅前のベンチで鳩をみている
鳩はかわいい
まるっこくてちょこちょこと歩き
むね肉で

足で側面をつつこうとしたら
びゃあっと飛んでいった
でもほかにもいる
忙しいひとたちのあいだにいる

鳩の色ってあれだな
自分がいなかったらうまく回ったはず色
あいつとかあいつとか
もっと幸せになれたんじゃないかな

立つ鳥跡を濁さず言うけど
最初からいなきゃよかった
たぶん絶対くぼんじゃうし

平らな道に穴があったら
なんでだろうって思うよ
同じ色で綺麗に埋めても
たぶん微妙に違ってるし

ちょっと段差ができてしまって
だれかがあとからつまづくとか
穴があった記憶を思い出してさ
避けようとして転んじゃうとか

しかも人間って不可逆だし

鳩はさあ
鳩はさっき蹴られそうになったことも忘れて
こっちに近寄ってくる
鳩はかわいい
まるっこくてちょこちょこと歩き
むね肉で

2021年11月30日

日照権

日曜日
晴れ
見上げるマンションの窓のひとつが反射でするどい光を浴びせてくる大道沿いは一面陰
坂を上って出た広い公園には多くの家族連れ

晴れ
三時の日差しは麦の色
踏みつけている草の端々が黄金にはにかむ
紅葉をブランコで仰ごうとする子どもたち

晴れ
すでに落ちた葉までみなぎる
細く伸びる枝さえも生きている

晴れ
坂を下って出た大道沿いは一面陰
奪われる
日照権

2021年11月30日

表裏一体の親戚

あの子のペンとわたしのペンの成分は同じ。
きれいなカフェのきれいな内装のきれいな青いアンティークの扉はトイレ。
おめでとうのかたちをとったちくしょう。
頑張りたくないから頑張りたい一朝一夕。
整列しているように見えて、横から見たら少しずつずれて斜めになっている。

なんと、全員が、きみと同じ人間なんだよ。
マレーバクじゃない。
たとえ、名札にマレーバクと書いてあっても。
見えるものを信じるな。
マレーバクなんて存在しない。

2021年11月3日

薄いピザ

ポストを開けたら
町のピザ屋のチラシが一枚

 宅配&テイクアウトOK
 ハッピーアワーはLサイズピザが特別価格

裏面にはピザメニューがずらり

 ペパロニ 照り焼きチキン ミックス
 エビマヨ カルボナーラ シーフード
 ベーコン ハワイアン 四種のチーズ

しかも ある日は Lサイズピザ
何枚買っても お安い お値打ち

買わなきゃ損 資本主義 買わなきゃ損
安いうちに ガソリン代 安いうちに

一人暮らし Lサイズピザ 二枚 注文
カルボナーラと四種のチーズ
約四〇cmと約四〇cm

やったぜ来たぜフライデーの夜七時
重ねられた二箱を
ベッドに並べて開いたら
薄いピザ
不均等な一切れを持ち上げる
薄いピザ

うっすいうっすいうすいピザ
この世はシュリンクフレーション
まずしさを底上げ棚上げクリスピー
歯ごたえのない砂をかむように味だけはある
うっすいうっすいうすいピザ

四切れでおなかいっぱいになった
あとは冷凍して明日も食べる

2021年11月20日

太陽風

たとえばさ
「きみはお月様のようだね」って言われたら
たぶん
狂気的って意味ではない
そうではない
そうと信じない
信じたくない
よね

そうやってさ
相手の善良さを信じることは
悪いことではない
ないけど
あほばかまぬけ
言葉の裏を読めない
くそったれ
そう裏切られる
裏切られる
よね

あのさ
「きみは太陽風だね」って言われてさ
やったね
って喜んだ自分は
あほばかまぬけ
言葉の裏を読めない
くそったれかもしれない
ないけど
どっちかというと
有害なのは
てめえのほうだろ
地球ぶってんじゃねえよ
てめえは宇宙線
いなくなれ
なくなれ
しね

2021年12月26日

参考書への提言

忘却曲線の滑り台から落下する
彼らを救う
ひとつの提言

それは一冊のうちにくりかえすこと
一冊をくりかえさせるのではなく
一冊のうちにくりかえすこと

第一章で学ばせたことを
第五章でも学ばせること

第五章で学ばせたことを
第十章でも学ばせること

ページ数は増える
倍々に増える
本棚はいっぱいになる
重複する
でも無駄ではない

ひとりで反復するには
勇気と忍耐と必要性が必要で
ほんとうはだれも
同じことをくりかえしたくはない

だからあなたがくりかえしてあげる
くりかえさせるのではなく
何度も何度もくりかえし
言い聞かせて
教えてあげる

わたしは
きみを
愛しているよ!

2021年12月26日

選ばない悲しみ

「定期的に
 あなたのために
 選んでお送りします」

お花
お菓子
お酒
おつまみ
パン
チーズ
ケーキ
シャツ
えほん
おもちゃ
コーヒー
香水

まあ
なんてすてきなんでしょう

お金を払って
選んでもらって
知らないものを知ることができて

お金を貰って
選べて
好きなものだけを教えることができて

お金を払って
選べなくて
好きなものだけで生きることができなくて

時間を売って
手に入れた
選ぶ楽しみ

お金で買って
手に入れた
選ばない悲しみ

時間を買って
手に入れられた?
選ぶ楽しみ

2022年1月15日

ヒデリ・ヒトリデニ・ヒトリニ

ひとりで遊園地に行く
ひとりで夜景の見えるレストランに行き
ひとりで焼肉をする

遊泳客で濁る水のなかで
珊瑚に隠れるように泳ぐ
魚に癒やされる

あざやかな葉の下で
踏み散らされて砕けきっている
自然に癒やされる

パン焼き器によって
こねられる
パンのもとに癒やされる

しかし私は
魚や自然やパンのもとに
癒やしてくれと頼んだことはない

癒やさないことは悪だ
癒やさないことは傲慢だ
癒やさないことは放棄だ

そう
思うことはない

きみたちに
私を
癒やす義務はない

私に
きみたちを
癒やす義務はない

すべてのものに
きみたちを
癒やす義務はない

義務がないから
権利だってない

不幸なきみたち
勝手にひとりで
不幸になってろ

私はパンを焼く
勝手にひとりで
できたてのパンを
食べる

2022年1月5日

もちまち

感想は違ってしまう

今から始まる
三時間の映画

初めて観るから今はゼロ時間
二回目だったら三時間ゼロ分
三回目だったら六時間ゼロ分

スクリーンや
音響の設備は
無数ではない

わたしが座っている中央の席
わたしの前に見える前方の席
わたしには見えない後方の席

女が男に語り出す
小説が原作の映画

原作を知らなかったわたし
原作を読み終えていたひと
監督を追いかけているひと

感想は違ってしまう

わたしのとなりの空席に
わたしの影を座らせても
きっと違うところで泣く

それでも
映画が終わったとき
ふしぎと
だれもが同じ感想を
トイレで
長い行列をつくって
持ち待ち

2022年1月24日

ものが落下する理由

下から上に落ちないのに
上から下に落ちる理由を
重力で解決する人たちは
ただわかりやすい説明で
その場しのぎをしている
理解した気になっている
終わらせたつもりでいる

わたしは知っています
ものが落下する理由
それは支えを失ったから

あなたの大事にしていたものが
手から滑り落ちたのは
あなたの大事にしていたものが
手の支えを失ったから

見えないところで
ものが落ちたなら
見えないところで
支えがなくなった

わたしたちの立っている
この地面がなくなったら
わたしたちは落下します
ずっと燃えて消えるまで

浮いているように見えますか
じつは透明の支えがあります
落ちていないすべてのものに
見えなくても支えがあります

あなたが思うままに踏みつけ
好き勝手に暴れて叩きつけて
見えないからと壊したものを
支えとしていたものが落ちる

ばらばら
はらはら
ぽたぽた

あなたが奪った地面から落ちる
ずっと燃えて消えるまで落ちた
ものを支えに生きていたものが
落ちて落ちて落ちているけれど
あなたは物理学を言い訳にする
それで終わらせたつもりでいる

2022年1月15日

ひとのきもち

あいてのきもちが
つたわってきたらどうする
ぼくがきみを
きらいだったらどうする
それもぼくは
きみにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない

じぶんのきもちが
つたわっていたらどうする
きみがぼくを
きらいだったらどうする
それもきみは
ぼくにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない
 
ぼくらのきもちが
まちがっていたらどうする
じつはぼくら
すきどうしならどうする
なのにぼくら
ひとにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない

2022年1月13日

曇ったり曇ったり

今日の天気は なにかなー
晴れ時々曇り やったーー

美術館に行く いえーーい
晴れてはない がびーーん

ごみごみごみ 平日なのに
晴れてはない 心の話です

美術館を出る 疲れはてる
晴れてはない 外の話です

昼食をとろう 舌をやけど
晴れてはない 心の話です

次の美術館に 寒くて痛い
顔面に降る雪 顔が冷たい

こんこんこん 頭が痛いよ
晴れてはない 頭が痛いよ
曇りでもない 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ
今日の天気は 頭が痛いよ
曇り時々雪雪 頭が痛いよ
次の美術館に 頭が痛いよ
行けない雪雪 頭が痛いよ
曇りとは雪雪 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ

涙を凍らせる 頭が痛いよ
晴れてはない 頭が痛いよ
電車に乗ると 頭が痛いよ
車窓に広がる 頭が痛いよ
あざやかな青 頭が痛いよ
庭園に行こう 頭が痛いよ
電車から出る 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ

2022年1月24日

感動の食べ物

テレビをつけたら
なにかの選手が
一等賞を取った瞬間だった

はらはらと
こぼれる涙
感動した
何の競技かわからないけど
聞いたこともないけど
どれだけ血のにじむ思いをしたか
知らんけど
感動した
明日は頑張ろう
今日は頑張らない
感動する仕事をしたから

テレビをつけたら
なにかの選手たちが
負けてしまった瞬間だった

ぐつぐつと
沸いた怒り
失望した
何の競技かわからないけど
聞いたこともないけど
どれだけ血がにじむ思いをしたか
知らんけど
失望した
明日はもう無理
今日だってもう嫌
失望する仕事をしたから

だれかがテレビをつけた先に
今日を努力しない者は立たないから
わたしは大丈夫
わたしは食べる
糧や栄養や思い出になっているから
大丈夫

2022年2月22日

駐車監視モニター

暇を持て余していると
店内にテレビがあることに気づいた

身体をねじって斜め上のテレビを
見ているうちにあることに気づいた

あっ
これ
店の外の
カメラの映像だ

カメラの映像だ
店の外の
これ
なに

店員さんが
行列を
確認するために
用意したのかな

でも列は見えないな
道路がよく見えるな

なに
これ

テレビのようなモニターの近くにあった
張り紙にはこうあった

「店の前には駐車禁止です」

もしかしてこれ駐車監視モニター
テレビのような顔をして駐車監視モニター
おだやかな顔をしているあの人も
駐車監視モニター

2022年2月22日

コップの川流れ

店員に注文をする

「コップはテーブルの奥にあります」

はいはい
セルフサービスね
テーブルの奥に布で隠されている
コップを自分で取って
水を自分で注いで
水を自分でお飲みくださいってわけね
わかるよ
だって行列のできる人気店
営業時間ぴったりに来たのに
入店したら席がほとんど埋まっていた
天気が良いとはいえ
今日は平日で
そりゃ水を注ぐ時間もないでしょうよ
嗚呼パーティション
相席を区切る半透明の板の裏側から聞こえる
ズズズズズズズ
量はどれぐらいなんだろうな
自転車で来たから満腹にはなりたくない
帰りには坂道がある
行きに坂道があったから
くだった分だけのぼる
のぼった分だけくだる
まあいいか
水でも飲むか
コップはテーブルの奥にある
手にとる
机に置く
水を注ぐ
ちらりと見る
テーブルの上にコップが二個ある

意識の流れ、時は流れ、人生も川流れ

2022年2月22日

つからす

公園で
カラスを追いかけていたら
あいつらはぴょんぴょんと跳ねて逃げてった

近づきすぎたときは
ばさばさと飛んでいくが
あいつらは遠くまでは逃げていかなかった

だから
延々にカラスを追いかけ回すことができた

だけど
やがてカラスは公園灯に飛んでってしまった

カラスは
カアカア
と鳴いた

アホウアホウでもなければ
バカアバカアでもないのに
見下されたような気がした

今度はわたしがぴょんぴょんと
公園灯に向かって
垂直にジャンプをくりかえした

カラスは仲間のカラスと共に鳴き続けた

わたしはひとりで家に帰って詩を書いた

カラスは疲れただけだが
わたしは詩を完成させた

このように
地に足をつけて
一日ずつ
カラスに
勝つ

2022年3月21日

宛名にペンネームを書くなコンクール

言葉にしなければ伝わらないなら
言葉にすれば伝わるのか

だったら
ありとあらゆる言葉にしたい
ひたむきな気持ち
いつも思っていること

「宛名にペンネームを書くな」

全国の人から募集したい

●「宛名にペンネームを書くな」コンクール 募集要項
 テーマに沿った文芸作品を広く全国から募集します。
 
テーマ「宛名にペンネームを書くな」

優秀作品をまとめた作品集を発行したい
図書館に納本してデータベースから検索できるようにしたい

言葉にすれば伝わるから
表現の力は無限大だから
話せばわかりあえるから

「宛名にペンネームを書くな」「はい」
「宛名にペンネームを書くな」「はい」
「宛名にペンネームを書くな」「はい」

虫歯もそうやって根絶してきた
#宛名にペンネームを書くな

2022年5月23日

あとあじ

残虐な設定
哀れな子供
悲惨な家庭
苛酷な暴力
怒濤の展開
驚きの伏線
身内が犯人

(状況を解決する新設定登場)

話し合えば
きっと仲良く
ハッピーエンド

今の気分は
ステビア
サッカリン
スクラロース
アスパルテーム
アセスルファムK
アセスルファムK
アセスルファムK
アセス ファムK
アセス ファ K
ア ス  ァ K
ア      K
ア      ケ
       ケ

2022年4月19日

髪は財布なのか

財布がなくても
生きていけるとわかった

お金やカードがないと
生きていけないけど
財布がなくても
生きていける

人の皮膚がなくなっても生きていけるように

(皮膚がなくなったら生きていけない)

人の頭髪がなくなっても生きていけるように

(頭髪がなくなったら生きていけない)

生きることだけでは
吹きすさぶとき
さみしいから

生きていけるけど
生きているから
財布を買った

2022年4月19日

新しい人間

人間は栄光だけを欲しがり
怪物に陰を投げ出した

「これは、ワタシのシンジツではアリマセン
 脚色して誇張して大げさに表現しただけで
 才能によって人の感情を揺さぶっただけで
 ワタシは不幸せではアリマセン」

怪物は涎を垂らして考えた

 (わたしには語ることがない)

他人の同情を引いて生きやすくなるための物語が
だれかを誘って捕食するための歌詞の題材がない

「おまえの実話ではないなら
 わたしの実話にしてやろう
 おまえが嘘だと思いたい現実を
 わたしの現実の話だと嘘をつく」

人間には怪物の声が聞こえなかったが
怪物は人知れず人間と虚実を交換していた

(そして、おまえの実話を剥ぎとった今では
 真実を知っているおまえの存在はいらない)

(わたしの実話でおまえを歌って消してやろう)

「嗚呼、幸せな怪物が
 不幸について
 賢しらに語っているよ!」

新しい人間は怪物に石を投げ
決して投げ出すことはない

2022年2月22日

出会え割れサプリメント

ぬけがらのなかに
きいろのかけらが
おちていた

さかのぼること
七時間前
一口ではのみこめない
横に長いサプリメントを
中央にある一本の線に沿って
ぽっきりと折って
ぱくっとのみこみ
残り少ない水で流しこんだ

思ったら片側の食感しかなかった

わかれてしまった半分を
いくら探しても見つからず
一度あきらめて眠った夜

勝手にやってくる朝
しずかに眠っている
サプリメントの片側

これから口にいれて
それから水をのんで
今からやりなおすことはできる

あのときのみこめなかったものを
今になってのみこもうとは思えない

会いたいときに出会いたい
探しているときに見つけたい

必要なときにいないやつを
あとから必要とするほど
やわじゃない

2022年3月21日

エレベーターの床

ある日
エレベーターの床が
まだら模様であることに気づいた

わたしは上から下へ
あるいは下から上へ
移動することにだけ
注意を奪われて
エレベーターの床を
よく見ていなかった

黒色だと思っていた
エレベーターの床が
まだら模様だとして
だれも死なない
だれも傷つかない
けど

気づかないうちに死なせていた
傷つけていた
なくしていた
エレベーターの床がまだら模様の世界を失っていた

もう何も見落とさない
エレベーターから降り
意気揚々と飛び出した
エントランスの階段の
手すりにぶら下がった
エレベーターの
床マット

2022年4月13日

いっぱいいっぱいがいっぱい

カラスがいっぱいいる
そう思って指さした先
カラスが三羽

三羽っていっぱいかな
いっぱいじゃないかも
一羽を減らしてみよう
カラスが二羽
いっぱいじゃないかも
一羽を増やしてみよう
カラスが四羽
カラスがいっぱいいる

知らない町の路地の裏
カラスが三羽
カラスがいっぱいいる

広い公園だったらどう
いっぱいじゃないかも
明るい海辺でザブーン
いっぱいじゃないかも

カラスがもしも蟻なら
いっぱいじゃないかも
カラスがもしも象なら
象であたりがいっぱい

世界に何十億の人がいる
いっぱいいっぱいの人が
どれだけいたら
いっぱいいっぱいの人でいっぱい
になるんだろう

2022年5月2日

インクカートリッジ

モノクロ印刷をしていたら
動かなくなってしまった
プリンターさん
いかがなさいましたか
なになに
カラーインクがなくなって動かない
でもあなた
ずっとモノクロ印刷をしてきて
これからもモノクロ印刷をするのに
カラーインクがあるとかないとか
関係ないじゃありませんか
バンバン
横からプリンターを殴る
動かない
再起動してみる
動かない
カラーインクがなくなって動かない


モノクロ印刷に
カラーインクが


必要だって
どうすればいいの
モノクロ印刷しかしないのに
カラーインクが必要なんて
白黒つけたいだけなのに
いらないものが必要なんて
いるものだけではやっていけないのね
バンバン
横からプリンターを殴る

2022年5月2日

昨日からやる

人生はちくちく蓄積だ

 「明日からやるはだめだ
  今日からやるんだ」

たとえば
確定申告も
明日やるより
今日やったほうがいいことになる
確かに

たとえば
借金も
明日返すより
今日返したほうがいいことになる
確かに

たとえば
喧嘩したときも
明日ごめんねするより
今日ごめんねしたほうがいいことになる
確かに

早ければ早いほどいいということ

つまり
明日より今日より昨日やったほうが
もっとよかったということ

確定申告も返済もごめんねも
昨日やっておけばよかった

昨日の昨日の昨日の……昨日やればよかった

昨日からやれなかったから
今日はもういいです

2022年5月25日

審査員

審査員にはなりたくないな

おそらく
世界中の小学生に聞いても
なりたくないもの
第一位

たとえば
ここに三つのものが並んでいる

 ・友だちのもの
 ・知人のもの
 ・知らないひとのもの

友だちのものを選ぶとき
(友だちだから選んだのかな)
(友だちのものだから良いと思えたのかな)

知人のものを選ぶとき
(友だちは選べなかったのかな)
(知人だから選んだのかな)
(知人のものだから良いと思えたのかな)

知らないひとのものを選ぶとき
(友だちは選べなかったのかな)
(知人は選べなかったのかな)
(知らないひとだから選んだのかな)
(知らないひとのものだから良いと思えたのかな)

第三者や友だちや知人や知らないひとに本当によいと思えたかを疑われながら自分がよいと思えたことを本当によいと思えたかを自分で疑いながら友だちや知人や知らないひとがよいと思えたものを本当によいと思えるかを疑う生はいやだな

2022年5月25日

むきだしのぷりんぷりん

だれもが傷を隠して生きている
 傷を隠していないやつは死んでいるのか
むきだしのぷりんぷりん
 無防備にさらけだす
むきだしのぷりんぷりん
 生きていないことは取り繕わないことなのか
むきだしのぷりんぷりん
 おいそこのおまえ
むきだしのぷりんぷりん
 どうして燃やすと思う
むきだしのぷりんぷりん
 恥辱よ灰になってしまえ!
むきだしのぷりんぷりん
 そもそも隠されているのにいつ知った
むきだしのぷりんぷりん
 墓を掘り起こしたのか
むきだしのぷりんぷりん
 死後につけられた傷かもしれないぞ
むきだしのぷりんぷりん

だれもが傷を隠して生きている
 隠さなくていいだろう
むきだしのぷりんぷりん
 だれもがだれもが隠していると知っている
むきだしのぷりんぷりん
 だれもが同じ咎のなかにいる
むきだしのぷりんぷりん
 だれもがおまえが想像しているより
むきだしのぷりんぷりん

2022年6月30日

注ぎぐち

相手の気持ちに
なって
考えよう

あけぐちのなかにある
注ぎぐちの気持ちになって
考えよう

(わたしとわたしでは相手になれない)

(このとき
 わたしと注ぎぐちは
 まったくべつのものであるとわかる)

(さらに
 わたしはあけぐちとも
 まったくべつのものであるとわかる)

(つまり
 わたしは注ぎぐちでもあけぐちでもない
 と言える)

(また
 あけぐちも注ぎぐちも
 最後にぐちがつくので
 わたしにもぐちがつく可能性がある)

(たとえば
 今回は相手の気持ちとして
 注ぎぐちの気持ちを問われているから
 わたしは注がれぐちと考えられる)

(注がれぐちは注ぎぐちの気持ちになって
 考える……)

(コポッコポコポコポッコポッ)

2022年5月25日

綺麗な犯罪

車道で
逆走する自転車とすれ違う
逞しい男の腕だった
それから風で揺れるスカートだった
女は正面から見えないように
男の背中にじっと隠れていた

雲ひとつない青空の下
わたしは正道を走ってゆく
家に帰るだけのことだ
一人で暮らしている部屋に


部屋は「家」だろうか


自転車に乗って
どこに帰るのか
緩い坂を下って
どこに行くのか

聞こえてくる
男女のはしゃいだ声が
歩道を走って
わたしを追い越す
「ここだここだ」
二人はパン屋の前で
自転車から降りる

接触すれば共倒れする近さでなければ
気づけないことが
聞こえないことが
そのさびしさが
焼きたてのパンのにおいに偽装する
清潔に揺れていた
夏の日

2022年5月5日

ビーチエントリー

海が青いとき
波が白いとき
水が冷たいとき

先の見えない坂道を下るとき
倒木を自転車で乗り越えるとき
夜の交差点が雨で濡れているとき
和室で大浴場の広さを想像するとき
ぽつんとある大きな岩の陰で潜ったとき

救急車が先頭でお行儀よく信号を待っているとき横に並んだ少女のシャツがまぶしいとき男が持ち上げた三着のスーツをつつむビニールカバーがふかふかと膨らんでいるとき住宅地にたい焼きのにおいだけが存在しているとき砂浜で男女が寄り添って海を見ているときどこかでフグが海底にミステリーサークルを作っているときどこかで鐘が鳴らされているときどこかで新しい命が誕生しているときにスノーケルに水が入ったとき地震津波火事落雷雹竜巻公害事故暴力戦争疾病老衰憎悪血涙がときにときどきときとしてとどきどきどきしたときにだれにも知られぬまま死ぬときに生きるとき

風が冷たいとき
砂が白いとき
空が青いとき

2022年5月23日

仰向け対応

寝て起きたときは
引っこんでいる骨
起きているときは
飛び出てしまう骨

あなたはわたしが
仰向けになっている
ところしか見ないから

よい天気のようだ
空は青く
風は涼しく
だれもどこかで
死んでいないようだ
不自然な戦争だ

寝て起きたときは
引っこんでいる骨
起きているときは
飛び出てしまう骨

わたしはあなたが
起き上がっている
ところしか見ないから

悪い天気のようだ
空は青く
風は涼しく
みながどこかで
死んでいるようだ
不自然な平和だ

2022年6月28日

りすぐめ

色つきの目薬は
減っていることが
よくわかる

色つきの目薬は
減っていることを
よくわかられている

色つきの目薬は
減っていることが
よくわかっているのに
どうして乱獲を続けるのだろう
と思っている

色つきの目薬に
減っていることが
よくわかっているのに
どうして乱獲を続けるのだろう
と思われている

色つきの目薬は
減っていることを
よくわかられている以上に
よくわかっているのに
どうして抵抗をしないのだろう
と思っている

色つきの目薬は
減っていることを
よくわかっている
生まれたときから
減る運命であることを
減らされる運命であることを
よくわかっている
よくわかられている

2022年6月28日

冗ぎ

お元気ですか
じょうぎでわたしに顔をはじかれた先生
長いじょうぎで
それはそれは長いじょうぎで
バチーンと
はじいたときに
はじかれて
はじきだされた
今までの関係性
積み上げてきた信頼
バチーンよりもつよい音で
はじけてとんでいった

バチバチと爆ぜた
こいつに
長いじょうぎを持たせると
はじかれるかもしれないという可能性
脳のどこかで発火して
回路に書き込まれた
キケン
の三文字
あるいは
こいつキケン
の六文字

なにより
わたしが先生を憎んでいたと思われることに
はじかれております
ただわたしは
先生と仲がよくて
じょうぎで顔をはたいてやろうとしたら
バチーンと
はじいて
はじかれて
はじきだされた

人間の輪は
ちょっと殴ろうとする人に
厳しすぎる

それでも
厳しいことで
やさしい先生が
今もお元気でいられるのなら
幸い

辛い


2022年6月30日

反社会的影響力

たいへんなことが起きた
由々しき問題であります
あんなことやこんなこと
サステナブルなニュース
いつも転生するトピック
ばかでもあほでも話せる
共通の話題で孤独を卒業
切れ味のよい言葉を使い
古典に勝つための時事で
さあ切実そうな詩を書こ

・・・

自転車のかごに犬を乗せたお嬢さんが通話をしながら
片手運転しているうううううううううううううううう

自転車のかごに
犬を乗せた
お嬢さんが
片手運転
しているうううううううううううううううううううう

片手運転しているうううううううううううううううう


片手運転しているうううううううううううううううう

・・・

片手運転しているうううううううううううううううう

2022年7月17日

ぎんなん

真実の愛かどうか
確かめるなんて簡単だよ
好きなやつの名前が
ぎんなんでも
好きなやつの性格が
ぎんなんでも
好きなやつの目玉が
ぎんなんでも
本当に好きかい
違うなら好きじゃねえよ
ぎんなんを許せないなら偽りの愛だから
え ぎんなん好きなん
ああそう
おめ

2022年6月30日

何も言っていない

わからないほうが悪いんだって
学校のテストも就職の試験もそうだったのに
まるで教師のように言う
黙っていたらわからないなんて

大盛りのランチメニューが有名なカフェで
恋人たちが平らげた皿を前に黙っていても
気持ちがわからないなんて言わないのに
黙っていたらわからないなんて

黙祷を捧げている人の前で
そんなことをしても現実は変わらないと
気持ちがわからないなんて言わないのに
黙っていたらわからないなんて

じゃあなんだ
自分に都合が悪いときに黙るのは
黙ってさえいれば
相手に気づかれないと思っているのか

わかりたくないわかることで傷つきたくない
わかって譲歩したくないわかる努力がきらい

黙っていたらわからないで
ごまかしたいから黙らせる
おまえの考えは全員に見抜かれている

黙っていればおまえには伝わらないので
みんな何も言っていない

2022年7月15日

口腔外科

大学病院の口腔外科には
やっかいな親知らずなどを抱えた患者が
うじゃうじゃしている

待合室にごったがえしているやつらのことを
詳しくは知らないけど
たぶん親知らずで苦しんでいる

人体を頭と上半身と下半身の三つにわけて
その頭からさらに額と鼻と口の三つにわけて
その口のなかの奥の奥にある一部の歯に
問題があるというやつらが密集している

ここで統計をとったらおぞましい結果になる

大学病院の口腔外科に行くと
世界でひとりっきりにはなれっこないと思う
けど
この痛みはだれにもわかりっこないぞと思う

2022年7月15日

怪死スタート

「今がイチバン若いんだ」
それは本当かもしれん

「明日死ぬかもしれない」
それも本当かもしれん

「生きられなかった人が」
それもそうかもしれん

それなら
今までやらなかったことは
なぜ今までやらなかったと思う

葉についた水を指ではじくことは
若くなくても不老不死でも誰かが死なずとも
イチから始めて取り組んできたよ

 ピンッ

簡単にやれることしか
やらなかった今までを
挽回しようとしたって
次に初めてやることは
簡単にはできないこと

長く生きれば生きるほど
難しい課題しか残されていない
のに

チャレンジしよう 新鮮なことをしよう
若々しさを忘れず 脳を活性化させよう
挑戦しよう どこまでもどこまでも……

やらなかったことを
やることが偉いなら
奇抜な死に方を始めよう

2022年7月27日

人目がないなら全裸にならない

「よくひとりでカフェに行けるね」

こいつに
教えたら
ひっくりかえるだろうな

山も海も海外も焼肉も夜景が見えるレストランのディナーだってひとりで行けるんだぜ

「ひとりで外食なんてできないよ」

ファミレスもアフタヌーンティーも

「ワタシには無理だわ」

遊園地だって

「ひとりでなんて」

こいつには
他人がいないとき
存在していない疑惑がある

他人がいないから
誰も保証しないし
他人がいないとき
何もしていないし

「恥ずかしいから」

人目を避けつつ
             人目を気にして
人目を引こうと
             人目を気にして
全裸になるやつ
             全裸にならない
服が透明な人間
             ただの透明人間

2022年7月29日

USBメモリの所在

おまえのせいだ
USBメモリが消えたのは

「USBメモリを持参したら印刷できるよ」

いやいいよ家で印刷できるし
コンビニでもプリントできる

「ここの紙はちょっと分厚くて丈夫だから」

だからなんなんだよ

「次回はUSBメモリを忘れないようにね」

おまえのせいだ
USBメモリが消えたのは

わたしには最初からわかっていた
USBメモリが消えてしまうこと

   わたしがなくしたせいで
   はない

おまえがUSBメモリを頼まなければ
USBメモリは消えなかった

   わたしが承諾したせいで
   はない

おまえがUSBメモリを求めなければ
USBメモリは消えなかった

   おまえがしつこいせいで
   USBメモリが消えた

断られたあとも何度も迫ったおまえに
USBメモリの全責任がある

合意があったと言ったら
責任がなくなると思ったら大間違いだ

   USBメモリはなくなったが

おまえだってと拗ねたら
責任の所在をうやむやにできるとでも

   USBメモリは所在不明だが

2022年7月29日

文字の節約

メールボックスに新着メールが五件

 予約資料がご用意できました
 予約資料がご用意できました
 予約資料がご用意できました
 予約資料がご用意できました
 予約資料がご用意できました

もしもこれがお手紙なら
もっとまとめて送っただろう
もしもこれが手書きなら
もっとまとめて書いただろう
もしも生涯に使える文字数が決まっていたら
もっとまとめて使っただろう
そして愛するひとに大好きだと伝えただろう
憎悪や扇動や嫉妬や愚痴や嫌がらせや宣伝やものまねや見栄や嘘に費やさなかっただろう
もっと大事にできただろうに

2022年8月3日

実用人間

ああ大きな画
迫力がありますね
曲がり角で折れて
目の当たりにしてしまった
大きな画
ほんとうに大きな画です
大きな画としか言いようがない
存在感がある
ただそれだけで
人を圧倒する

だってこんなに大きい
どうやって運んだのか

制作期間も長かったでしょう
どれだけ無収入を耐えたのか

置き場も必要ですね
どこで作業したのか

この大きな画を見るだけで
もう勝てないと思います
あまりの凄まじさに
理解ができないことに
自由であることに

ひとびとに必要とされるものを
つくらないことが芸術な芸術に

立ち尽くして
うろたえてしまう
なんて
なんて
ああ大きな画

2022年8月2日

段ボル

びっくりだよな
段ボールくんの側に立って考えてみると
いきなりザクザクと身を縦に切られて
「ああ処分されるんだな」って諦めていたら
切られた箇所をテープで補修されて
荷物を入れられ閉じられいつもどおり運ばれ
わけがわからなくて不安だろうな
三辺の合計なんて段ボールくんは知らないし
でもさあ
緩衝材なんていつも悲惨な目に遭っているよ
引きちぎられ丸められ詰めこまれ
一方で段ボールくんはさあ
自分の強度に油断しちゃっているよね
緩衝材は外側のオレ様に合わせて当然だって
自分が中身の最も外側だと思っている
だからありのままでいられると慢心している
だけどきみは外側でも本質でもないよ
謙虚に合わせて小さく三辺を気にして弁えろ

2022年8月3日

見えるか

いつの間にか過ぎている時間を
見える化しようと思って
残り時間が色でわかるタイマーを買った

時計回りで時間が経って
時計回りで色面積が減る

おまえには見えるか
わたしには見える
目に見えないはずのものが見える
背筋がどんどん伸びていく

ケッシテ見テハイケナイモノヲ見テシマッタ直接見タラ気ヲ失ッテシマウ恐ロシイナニカ
 ぐう 
目が覚めたときにはすっかり消えていた
しかし見えないだけでいつもそばにいる
昔から今もこれからもおまえの背後にも

2022年8月3日

既約分数

ミニマリストが言っていた
必要なものだけがあればいい
最低限の生活ができればいい

インターネットにも書かれていた
友達がたくさんいたって付き合いきれない
大切な人がいないほうが身軽に生きられる

効率的に生きるための本を読んだ
スーパー経営者の日常はスマートで
家事や育児のやり方はあいまいもこ

クリエイターが動画で話していた
好きなことを仕事にしよう
やりたいことだけをやろう

彼らが割り切って捨てたものたちを皮膚に
ぬるく あつく あたたかく ある

2022年8月23日

少なすぎる情報

あくせくバトルか
アクセスバトルか
プロモーションビデオのページビュー数が
最速でいくら超えたら殿堂入りで伝説で神か
バズだかバスだか
ノれたらいいのか

更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新

毎日毎時間毎分毎秒
会いたいか
相対評価か  
悲報か
PRか
【 】つけるのか
【 】つけないか

更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新

もうたくさんだ
いっぱいいっぱいだ
満ち足りている
はずなのに
いざ振り返ってみると
心に刻みたい
情報が少ない
いや
ない

2022年8月24日

見えない事情

バス停もないのに
タクシー乗り場でもないのに
友人の集まりでもなさそうなのに
ラーメン屋の行列でもなさそうなのに
道路に向かって斜めに並んでいる人たち

あの人たちは
 いったい何を待って
  並んでいるのか

   何度も振り返ってみる
    二度も三度も何度もみる
     彼らもわたしをみる

もしかして……

彼らはわたしではなく
わたしの進行方向からやってくる
何かをみているのかもしれない

前を向く
何もない
後ろをみる

彼らもわたしをみる

もしかして……

いや
いいんだ
そんなことは

他人がそこに立っている事情を
勝手に共有されて勝手に理解させられる
インターネットがおかしかったんだ

2022年8月24日

無職透明

制服を着た女の子ふたりが
男ふたりに絡まれている

(助けないと)

でもわたしも女だしな

新卒の就活でも使ったスーツでピチピチだし

ネット通販で買った靴はヒールが高いし

右手は日傘で埋まっているし

左手には黒い炭酸飲料があるし

日傘で殴ることしかできない

あまりにも非力で無力で

日傘で殴ることしかできない

持ち手のボタンを押せば自動で開く

日傘で殴ることしかできない

開いたあとは力を込めて手動で縮めて閉じる

日傘で殴ることしかできない

制服を着た女の子ふたりが
男たちの差し出した画面を覗きこんで言う

「えーおいしそう」

あまりにも非力で無力でいらなくて
日傘で殴ることしかできない

2022年8月24日

くるくる

帰り道
席が空いていたから
髪を切ってもらった

背中にかかる髪を
結べるくらい
ぎりぎりまで

切り終わって
鏡を見た
肩まである髪

朝遅く起きて
鏡を見た
肩までない髪

父も母も
癖が強く
くるくる
振り回し
私は呆れ
まっすぐ
逃げだし
ぐるぐる
巡っても
髪が示す
くるくる
私は子供
ふたりの
癖を継ぐ
私は子供
ふたりの
跡を継ぐ
ことはしない
私はまっすぐ
癖をただして
ただまっすぐ
鏡から離れる

2022年8月30日

布の器

内輪のネタ
身内同士
仲間内
ウチウチウチ
だから
ジメジメジメ
してもいいんだよって
みんなやっているよって
きさまだってそうだろって
言うけどね
おまえは人の心をなんだと思っている
ハイハイ陶器だろ
相手を傷つけたら割れるんだろ
だから大事にしないといけないんだろ
違うんだよ
心は布だ
繊維に染みこむ
汚物を洗い流しても
おまえは祝杯を躊躇する
だから大事にしないといけないんだよ

2022年8月31日

まぼろしかげ

かげが黒いぞ
あっちあっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
こどもが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている

かげが黒いぞ
あっちこっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
おとなが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている

かげが黒いぞ
どっちどっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
わたしが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている

2022年9月2日

バラバラ姓名

もしも筆名が「田中太郎」さんならまだいいよ

◎筆名
  姓[ 田中  ]   名[ 太郎  ]
◎筆名ふりがな
  姓[ たなか ]   名[ たろう ]

「パピヨン」さんや「マリモ」さんはどうする

◎筆名
  姓[ パピ  ]   名[ ヨン  ]
◎筆名
  姓[ マ   ]   名[ リモ  ]

「らっこちゃん」さんだったらこうなるんだぞ

◎筆名
  姓[ らっこ ]   名[ ちゃん ]
@筆名ふりがな
  姓[ らっこ ]   名[ ちゃん ]

入力欄の設計の問題ではない
姓名での活動を超えて表現したい人たちに対する想像力の欠如
てめえの冷淡さの問題である

筆名という名の生命を自分の理解できるかたちに解体しないと
受領できないヤツらの心にしみる詩はかくかくかくばっている

「パピヨン」さんや「マリモ」さんや「らっこちゃん」さんの
ありのままの私情も愛せないヤツらに詩情なんて愛せるものか

2022年9月4日

同期するタマネギ

あなたは点滅の仕組みをご存じだろうか

エレベーターで「1」が点滅しているとき
人間の意識は二つの世界を切り替えている

「1」が点灯している世界
「1」が消灯している世界

あなたは信号機の仕組みをご存じだろうか
人間の意識は三つの世界を切り替えている

「赤」が点灯している世界
「青」が点灯している世界
「黄」が点灯している世界

あなたは生死の仕組みをご存じだろうか
人間の意識は一つの世界にとどまっている

「命」が点灯している世界
「命」が消灯している世界

あなたは忘却の仕組みをご存じだろうか
人間の意識が世界を切り替えるときに
思考の同期に失敗して情報を消失する


あなたはカレーの材料をご存じだろうか


人間の意識を超えてノートは存在している
忘れたくないなら「書く」しかない

2022年9月23日

夏の総括

今から誰にも提出しない自由研究をする
表彰されることも見舞われることもない

お中元もラムネも関係ない
花火も近寄らない
風鈴も鳴らない

冷房だけ気が利いてる


 不純物の少ない
 水でできた氷は
 ――溶けにくい


氷がぎっしり詰めこまれた袋に
炭酸飲料を注ぐ


 パチパチと
 爆ぜる何か
 これが命か


自立する袋にストローをさして
ジュースをチューチューと飲む


 今年の夏が
 終わる……


次は何をしようか
来年の夏が始まる

2022年9月23日

分断するインターネット

いつからか
切断する
気がついたときには
接続が切れる
何回やり直しても
終わってしまう

途切れそうな予感から
必死に接続をくりかえすと
復旧するときもある

だめなときはだめ

機械だろう
つなぐ機械のせいだろう
交換する必要があるだろう

でも

つなぐ機械とつないでいる線を
差し直したら
安定するようになった

すぐにだめになったと思う
交換すればいいと思う
交換されたものはどこにいく
修理される破棄される
だめなときはだめ
諦められたものはどこにいく

ほんとうはだれも悪くなくて
深くつながっていないせいで
つながらなくなったとしても

使えない
一生使えない
あわない
一生あわない
さよなら
一生さよなら
返事をもらう前に
さよなら

2022年9月29日

煙は立たない

消防車を追いかける
音の鳴るほうへ歩く

大きな道路の端に
何台もの消防車が
止まっている

通行人のまねをして
通行する

伸びているホースを頼りに進む
とあるマンションにたどりつく

細長いマンションに
消防隊員がうじゃうじゃいる

細長いマンションの外に
細長いマンションを見上げる
住民たちがうじゃうじゃいる

それを斜め後ろでみている
知らない人といっしょにみている

結局
なにもなくて
全員解散する

このように
お話できたのは
火事がなくて
だれも死ななくて
実害がなくて
平和で
ほっとしたからだ

いくら対岸だからといって
死だ不幸だかわいそうだ
題材にして
きれいにまとめて
火消しして
当事者の魂も消えたよ
おまえのせいで

2022年9月29日

大生活

草が一本だけなら
ただの草で
抜きたくなるけど
草が一面を覆っていたら
草原になって
駆け回りたくなって
草が一面をもっと覆っていたら
大草原になって
寝そべりたくなる

砂山はどこから砂山か
草原はどこから草原か
大草原はどこまであるのか

ごみの分類
お金の計算
課題の解決

投げ出したくなるけど
生が一面を覆っている
どこまでもどこまでも
はてしなく生えている
だから寝そべっている
いつかやることにする

2022年9月29日

盲点のあご

自分のあごの裏って見る機会がないな
何色をしているのかな
たぶん肌色だろうけど
もしかしたら虹色かもしれないし

ほかのひとに
見られていないかな
こいつのあごの裏は緑色で不気味だな
そう思われていたらどうしよう

まっすぐ鏡に向き合っても
自分のあごの裏は見えにくいから
肌色の絵の具をつけても
塗り残しができてしまいそうだな

それでも
自分のあごの裏が見えづらいとはいえ
異性のからだが好きなだけなひとに
わかっているふりをされたくないな

2022年10月22日

横断中

「青だ行こう」
威勢のよい声に振り向くと
歩道から横断歩道へ
はすかいに向かう
女生徒が四人
横にならんで
ゆっくりと
のろのろと
しずしずと
歩いていた

そうだ
走らなくていい
無茶をして
転ばなくていい
なびかせて
媚びなくていい

涙を流さなくても
息切れしなくても
きみたちは正しい

焦らなくても
青はまだ始まったばかりだ

自分にちょうどよい速さで
だれかと共に歩ける速さで
一歩ずつ前に進め

2022年10月22日

蹉跌を帰す

初めて砂鉄を知ったとき
 おまえは
  わくわく
   しただろう

だけど利口になるにつれ
 おまえは
  わくわく
   しなくなっただろう

家庭で教えられた
 「磁場を展開せよ
  世の中のものは
  だいたい砂鉄」

学校で教えられた
 「磁力を働かせろ
  あれもこれもどれも
  おまえにこびりつく」

社会は隠していた
 (おまえには限界がある
  古い砂鉄を落とさないと
  新しい砂鉄はつかめない)

むかし集めた砂鉄の重さで
転んでしまった今こそ手放せ
世の中のものはだいたい砂鉄
おまえが元気でさえいれば
きっとまたわくわくできる

2022年10月22日

死んでいるひとのお墓に入る

死んでいるひとのお墓に入る
死んでいるひとの上にのって
死んでいるひとの下にもぐり
死んでいるひとをお墓の外に

生きているひとがお墓の中に
生きているひとのお墓に参り
生きているひとの死を悼んで
生きているひとを現実の外に

死んでいるひとのお墓の中は
ちっぽけな大小のおおらかな
寛容と無風のさなかにあって
死んでいるひとのお墓の外は
さわやかな柑橘のあざやかな
批判と論争のさかなになって

生きているひとはこの世にいません
生きていたひとはたくさんいました

死んでいるひとはこの世にいます
死んでいたひとは確かにいません

生きているひとより
死んでいるひとのほうが
腐敗しないものだから
生きているひとのまちを離れ
死んでいるひとのお墓に入る

2022年5月31日

たまたまたまごサーフィン

たまごパック(から)に両足を乗せて(暗喩)波に乗っていたころ(暗喩ではない)
なぜか(急に)とつぜん(唐突に)たまごパックが潰れてしまった(問一)

消費者にはたまごパックの耐久性について問い合わせる権利がある(直喩)
(種類に)したがってわたしはたまごパックのメーカーに問い合わせようとした(問二)
しかし(されど)たまごパックのメーカーを探すことに疲れてしまった(暗喩)
それは資料を購入したのに(衝動買い)一度も読まないことに似ていた(事実無根)

たまごパックが潰れたことによって引き起こされた損害(ない)は計り知れない(ない)
衝撃のあまり廃品回収のアナウンスを聞き逃してしまったこと(聞いた上で逃している)
小動物(猫やキリンなど)への愛(ない)をなくしてしまったこと(あらかじめない)
昼食(ランチ)を食べ忘れたこと(暗喩)
なにより自分の足でたまごパックを潰してしまった罪悪感により(時によりけり)
人類滅亡の危機にまた一歩近づいてしまったこと(あと六万四千八百二十五歩)

今回はたまたまたまごパックで波に乗っていたからよかったものの(暗喩ではない)
もしもこれがあれや(これや)これ(あれ)だったら(仮定)どうなっていたか(問三)

どんなことでも自分の頭で考えることを諦めたくないとわたしは思う

了(諦めないので終わらない)  

2022年5月31日