ありありて詩
全100篇の詩集です。ありありて幻想。

ハチャメチャオモシロトンデモ設定SF
この冷蔵庫には
この冷蔵庫にはぁ
野望があるんです
野菜室のお菓子を
ボコボコにしたい
ボコボコにしたい
ボコボコにしたい
欲望があるんです
でもこの冷蔵庫は
動けないんです
冷蔵庫だから
いきなり
どうした
冷静だな
冷蔵庫に
入ったか
この冷蔵庫は
この冷蔵庫はぁ
マイノリティで
抑圧されていて
でも翼が生えてきて
飛行を繰りかえして
野菜室のお菓子を
粉々にするんです
冷蔵庫でも
なるほど
みなさん
少数派は
未来永劫
報われず
幸せなど
とんでも
ない
殻破り空回り
腐ってはいけない
しかし
外側がいくらかたくなでも
冷蔵庫は依然として存在し
わたしも依然として存在し
たまごも依然として存在し
内側からだめになってゆく
そして
賞味期限が一ヶ月前の
たまごが
残り九個
わたしは平たい皿に
黄身だけを四つ投入し
床に落ちていた砂糖をまぶし
割りばしで混ぜ
トロトロとした黄色い液に
ホットケーキをつくる粉を入れ
粉と黄色い液が混ざらず
たまごを追加し
割りばしで混ぜ
電子レンジでチンしてできた
味のしない
蒸しパンケーキを食べている
努力することが
あきらめないことが
現実にあらがうことが
こんなことなら
偉くなくたっていいや
分割するやつ分割する
つづく
最後まで完走しようと心に決めて
いきなり目の前の道が伸びてゆき
思っていたより道のりは長いぞと
短距離のつもりの息をととのえて
さあ今度こそゴールだと喜んだら
はいはいまた最終地点が動いたと
息苦しく足が希望のためではなく
外部の理由から動かされる蝶番に
それでもここでやめてしまったら
今までの感想が嘘になってしまう
途中だけを切り取ってわかるとは
言えないから言うために走り抜け
つづく(未完)
分割するやつ分割する(完)
サード・パーティ・ロジスティクス
そうです、あの強烈な打球です、グラブから弾けて手ごと吹き飛ばされる可能性からふっと気を失い、譫妄のうちに掴んで投げる、あの白昼夢です、流れるように完成する併殺、瞬く間に死んでゆき、攻撃と守備がいれかわり、死んでゆき、試合が終わっている、あの強烈な土埃です、われわれの勝利は思ったようにうれしく、敗北は思ったよりくやしく、しかしどこかで失念している自分、自動的に捕球し機械的に処理をする自分、その裏でホームランを打ってヒーローになる自分、遠くで上がっている煙とともに立ちのぼる自分がいて、球場にいないことがある、私です、本日はパーティに招待いただき、誠にありがとうございます、同じポジションを守る方々とこうしてお会いできて光栄です
(パーティに集められたサードは第三者によってロジスティクスにされました)
読んだかなリチャード・ブローティガン
買取の集荷に備えて
さあ詰めて
手が止まる
『愛のゆくえ』
『芝生の復讐』
『アメリカの鱒釣り』
読んだかなリチャード・ブローティガン
どれかは途中で
諦めたような
ような
ような
たしかそういえば
さあ動いて
手が止まる
『西瓜糖の日々』
読んだかなリチャード・ブローティガン
これは電子書籍で
読んだような
ような
ような
堕胎したよな
『愛のゆくえ』
復讐したっけ
『芝生の復讐』
鱒を釣ったね
『アメリカの鱒釣り』
西瓜糖の日々
『西瓜糖の日々』
ある私はある青
ある小説は
ある問題を抱えた少年が
ある体験をもとに執筆したミステリ小説
という体裁で書かれている
彼は素数にこだわりがあるので
章の数字には素数をつかう
彼はとても論理的だから
論理的な文章を書く
彼はジョークがわからないため
本文にはジョークがない
彼は映像記憶が得意で
どこまでも細かく書ける
彼はほんとうのことを言う
彼は家族が家具を動かすと怒る
彼は空気を読めない
彼は暴力をふるう
彼は笑わない
彼はさわられるといやがる
彼は黄色と茶色が嫌い
著者は発達障害の人たちと働いたことがあり
訳者はこの小説が評価された理由を
著者の理解と愛情が注がれているからと書く
私は
私をまったく知らない人が
私の物語を書こうとして
私への理解と愛情をもって
私は非論理的で
私は感情を大げさにあらわし
私はピンク色が好き
と書いたとして
私は違うのだと
非論理的でも大げさかもしれなくても
ピンクより青が好きだと
抗議できるだろうか
あなたがたが理解と愛情をもって
教科書どおりの
ある存在として私を扱うとき
言えるだろうか
私は人間で
私はあなたと同じ人間で
私はピンクより青が好き
廻る寿司フォーエバー
しょうゆ皿を探して
回転している寿司の上にある台の上の皿を
つかんでおろしたら
ふつうの皿
課金皿
嗚呼今更もとには戻せない
すでにさした醤油をみて
ここにたまごがあったマグロがあったと
店員は想像もせずに数え上げる
一枚二枚三枚四枚……
嗚呼今更やり直せはしない
すでにさした醤油につけ
たまごやマグロの皿をきれいに保っても
店員は想像もせずに数え上げる
五枚六枚七枚八枚……
嗚呼さらさら憎む気はない
すでにさした醤油をみて
己の過ちをおもんぱかってもらおうとは
貴方は見える分だけ数えていい
九枚十枚フォーエバー
クエン酸
水あか掃除にはクエン酸がいいと聞いて
お掃除コーナーの陳列棚の前で立ち止まる
「混ぜるな危険」
えっあっえっ
そそそそそそれもそうか酸だから
クエン酸だから酸だから酸性だから
塩素系とは混ぜてはいけないんだ
次の日
飲み干したジュースのラベルを見て止まる
「クエン酸」
えっあっえっああっええっあっえっあっえっじゃじゃじゃじゃあ
ここで塩素系を飲んだらどうなっちゃうんだ
もしかしたら
もう危険の真っ最中
混ざり合ったものを
分離などできなくて
わたしの胃のなかで
塩素ガス好評発生中
みんな知っていたのか
クエン酸が酸性だって
わたしは知らなかった
クエン酸が酸性だって
知っていたなら助けて
わたしの危険を助けて
ほかの人たちも助けて
無知を罪と笑わないで
水あかはきれいに落ちた
ジュースはおいしかった
足りそうだ人生
引越しだ
業者からもらった段ボールで箱詰めだ
本や皿は小さくて軽いけど集めると重いから
Sサイズの箱にぎっしりしない態度で入れる
背よりすこし低い本棚の本
背よりだいぶ低い本棚の本
三段のカラーボックスに入った本
三段のカラーボックスの一段に入った本
を一冊一冊ねこそぎに箱のなかに平積みに
「足りるのか段ボール」
部屋から減る本と増える箱
「足りそうだ段ボール」
白い本棚の白い背板の若さ
私の青春の小っちゃなもんよ
お墓にだって入るんだもんな
院外処方
受付にはふたりの男女がいる……
まず女性から声をかけられる……
処方箋を渡して長椅子に座る……
受付の奥には広い部屋がある……
男がパソコンを操作している……
受付の男性が話しかけてくる……
記入した問診票を男性に渡す……
受付の奥から薬剤師が現れる……
そんなに人いるのかな
ひとりふたりさんにん
そうだよ人がいるんだ
かけがえのない存在だ
本当は受付に百人いてもよかった
奥の部屋に五万人いてもよかった
だれもが大切な人間だ
みんな一生懸命なんだ
むだなことなんてない
乗換案内
泳ごうと思って
きれいな海のある場所に
旅行にでかけて
バスにゆられて
バスにゆられて
波にゆられて
さあバスに
ホテルまでの帰り道を
確認しようとして
開いた端末のバッテリー残量が
残り六パーセント
鞄から充電器を探して
ない
ないんだ
画面を最大限に暗くして
調べた結果
バスに乗り
バスを降り
一分で移動して
四分だけ待って
バスに乗り
バスを降りれば
あとは歩くだけ
それを信じて
バスに乗り
バスを降り
一分で移動した
バス停に貼られている
「このバスは○○には向かいません」
の文句
ならどこだ
一分で移動できる場所は
近くにいるタクシーの運転手
「先だよ先!」
前に進め!
でもバス停がない
前方の信号を渡った先にあるけど
一分で移動できる距離ではない
向かい側のバス停に行く
違う!
当たり前だ逆方向に向かうんだ!
タクシーの運転手が
私をじっと見ている
バスはもう来る時間
どこにも見当たらず
とぼとぼと
前方の信号を渡った先の
時刻表を
見たら違った
ここでもなかった
どこでもなかった
乗りたいバスが停車するバス停がなかった
タクシーの運転手は
もう消えていた
どうせなにもかも違うなら
信じてやればよかった
スローモーション
シュノーケルを楽しみながら
防水ケース越しに撮った
魚と珊瑚の動画が
スローモーションになっている
はじめは通常のスピードで始まる動画も
スローモーションになっている
インカメラで自撮りの動画になっている
スローモーションにもなっている
親子連れが泳ぐ動画になっている
スローモーションにもなっている
溺れて空を仰ぐ動画になっている
スローモーションにもなっている
充実している時は
ひとつひとつが鮮明に
小さくても大きく
高解像度に
目の前に広がっている
そんな時も
束ねて
連ねて
充実している時間になると
あっという間に過ぎ去ってしまう
動画は本当で
現実も本当で
スローモーションは本当ではなくて
でもスローモーションは本当で
過ぎ去った時間も本当で
でも現実にないから本当ではないかもしれなくて
綺麗だった
そう思っていた私は不明瞭で
撮影に失敗した
そう思っている私だけがいる
スローモーションでいる
背後関係
「苦しんでいる人たちの前で楽しかったと言えますか」
私たちは
暴れて
みなの迷惑になるからと
教室のすみっこに
ついたてで
机ごと囲われた
クラスメイトを背に
授業を受けていた
だれかが騒いで
だれかが死にそうになったから
だれかは騒いで
だれかが騒いだから
だれかが死んだ
楽しかった
ついたてで隠して
前に見えることしか考えていないから楽しかった
彼は
元気で
つねにあさっての方を見て
でも一生懸命で
ついたてで
机ごと囲われて
クラスメイトたちを前に
授業を受けられなかった
だれかが騒がなくても
だれかは死にそうになった
だれかが騒がなくても
だれかが死んだのに
だれかを殺した
悲しかった?
ついたてで隠して
前に見えることしか悼んでいないから楽しかった?
カレンダーの底力
カレンダーが浮いている
天を画鋲でとめたカレンダーの底が
壁との間で指を包みこむけなげさで
浮いている
カレンダーが浮いている
壮大な写真を載せた上部と機能の下部との
思想の違いが目に見えるように
浮いている
私は
闘わなければならない
ちっぽけなことでも
繊細すぎることでも
どうでもよいことでも
カレンダーを浮つかせる人間に
だれの真剣を獲得できるものか
カレンダーの下部
カレンダーの底に
マスキングテープを貼って
壁から離れないようにおさえて
とどまれ
時も日も月もとどまれ
べろべろ
ぺらっん
ふわふわ
カレンダーの底力に負けた
敷金の悪魔に魂を売った
下部の穴に画鋲をさした
このめざましい勝利によって
われわれはもっと真剣でいられるだろう
いつも明るいほうへ
内見で入った部屋の壁紙には
廊下から室内まで
赤や青や黄色のぐるぐるが咲いていた
不動産屋曰わく
前の住人は部屋をふたつ借りることを条件に
小さなお子さんとふたりで十年暮らしていた
あとでクリーニングが入るからと
土足で踏み入れただれかの生活のあと
想像できる
想像させられる
それでも
どちらにでも転べるなら
いつも明るいほうへ
きっとずっと幸せだった
これからもっと幸せになる
その余韻をわたしに借りさせてください
生きるための音楽
安定や安心のために
首輪をつけない
そう言い切ったきみは
真のアーティスト
本物のクリエイターだったね
でも本当は
守られたかったんだね
安定や安心のために
毎月お金をもらいたかったんだね
陸地でせっせと働くのは馬鹿らしいと
大海原に飛び出したきみ
でも実際は
雨風なんていやだったんだね
こんな家族とはいられないと
仕送りで旅行をしたかったんだね
規格外のポストカード
やーいおまえ
ポストカードホルダーに収納できないポストカード
微妙にでかい
ポストカード
さも
おれはあいつらとは違うって態度のでかさで
待て待て
たかがプリントされた厚紙だぞ
わきまえろ分を
個性なら内容で示せ
サイズで目立つな
足並みそろえて抜きんでろ
でも
もう存在しちまっているから
仕方なく
しょうがなく
壁にぺたぺた貼ってやるよ
やったよ
そうしたら
ポストカードホルダーを開くより
おまえを見る機会のほうが
だんぜん多いんだ
ずるいやつだよ
ほんと
粗大ゴミ
退職で社宅を出る
九畳から六畳にうつる
椅子を買って机に向かうようになって
こたつを捨ててから
広い部屋の中央に残されていた
赤い座椅子を持ち上げて
狭いキッチンの床に置いて
粗大ゴミの日の前夜は
電気もつけずに
座椅子に座った
ぴったりと合った
リクライニングの傾斜
初めて会ったときから
最後に別れるときまで
頬ずりをした
粗大ゴミの日の朝は
各地で大雨が降って
川が氾濫して
土砂がくずれて
生活圏が水に浸った
雨のなか
ゴミ置き場に
座椅子を置いて
しぼるように触れたら
頬ずりできない重さをまとっていて
後戻りできないと知った
環境は変わってしまう
わたしたちは野ざらしで
変わりたくなくても
変えられてしまう
流されてしまう
とどまりたいと祈る
それでも進まないといけないと思う
共通運命
カツ丼はおいしかったが
セットのうどんはまずかった
狭い店にはテーブルが三台
「いらっしゃいませ」
背後で椅子をひく音
メニューを選ぶ上向いた声
「どうしようかな……カツ丼……」
セットはやめとけ
セットはまずい
セットが選ばれてしまうと
セットが存続してしまう
同じ方向に走っているだけで
遠くから見たとき仲間に見える
当事者としても仲間だと思う
「はい、カツ丼ですね」
被害者がひとり減った
お店の売上も減った
だけど運命は変わった
このままひとりひとりが
まずいことを避けてゆけば
仲間の選択肢は洗練される
かなしいことはきっとなくなる
「あっすみません。やっぱりセットで」
ゆっくりふりむく
「そばセットでお願いします」
そばならいいや
フロテロ
ホテルの浴槽は
わたしが寝られるぐらい
浅く広く長く横に伸びている
遠くにみえる天井に思い浮かべる
このまま水を出しっぱなしにして
眠ってしまったら
どうなるだろう
わたしはあっけなく水びたしになって
ぽこぽことやすらかに沈むだろう
そのうち水はふちをのりだして
シャワーカーテンをのりこえて
床をひたひたにして
扉のすきまから部屋にこぼれて
いっぱいに満ちて
廊下にまで流れてゆき
下の部屋にも染みだして
仕事のつづきをしていた人
テレビを見ながらくつろいでいた人
明日の予定をたのしみに眠っていた人
全員に等しくふりそそぐだろう
わたしは期待しながら眠るのに
彼らはこれに何の意味があったのか
考えることも思うこともなく溺れてゆく
だからわたしの犠牲・わたしの覚悟・わたしの勇気は
けっしてだれかの平和とつりあうことなく
とりかえることはできないのです
所属詩誌喪失
所属詩誌ってなんだろう
インターネットで検索しても出てこない
「所属詩誌とは」
「所属詩誌 意味」
「所属詩誌 理由」
所属詩誌ってなんだろう
調べてもわからなかった
「所属団体」
「所属部署」
「所属サークル」
うすうすと知っている
「所属詩誌」
はっきりと知らない
「所属詩誌を記入してください」
所属詩誌ってなんだろう
氏名や年齢や職業や住所のように
知っていて当然の情報なのかな
所属詩誌ってなんだろう
氏名や年齢や職業や住所のように
一個人を識別する情報なのかな
氏名や年齢や職業や住所を書くように
個人情報を求められたときに差し出せる
所属詩誌を取り戻したい
読まなくていい本
体系的に学べと言われても
知りたいことだけ知りたいな
なんで空は青いのかなんて
ひまだから思っただけで
そこまで知りたくないや
あの人がどうしてああなったか
知ることができないのに
五百年前の歴史を知ってもな
知らないとできないより
知らなくてもできるほうが
未来だよね
読まなくていい本を書いてある本に
「ぜんぶ」って書いてあってほしい
ねちがえ
寝て起きたら
世界が変わっていた
カーテンを開けただけだが
おそらく戦争が始まったことは間違いなかった
地盤はゆるんでいた
豪雨で流されていた
風が吹き荒れていた
火山が噴火していた
暴徒が密集していた
薬がよく売れていた
森羅万象に
なにかが
あった
なにもかも変わっていたのに
わたしは動けなかった
そのとき
人の役に立ちたいという
高潔な思いが生まれた
世界でいちばんの権力者になって
ひとりひとりにわたあめを配分し
甘いものが嫌いならかんぴょうを
元気を出せよと励まして歩くんだ
わたしは動けなかった
ここだけ嵐か
海を仕切って作られたプールで
ペンギンショーが始まろうとしていた
天候は大雨
ステージの背景で荒れ狂う日本海
空にはウミネコが飛び回り
ペンギンは飼育員の指示を無視して
飛び越えられるはずのハードルの横を歩く
階段式の観客席ではだれひとり座らずに
傘をさして立っている
強風で私の折りたたみ傘がひっくりかえる
ペンギンが滑り台から歩いて降りる
観客は拍手をしている
ここだけ嵐か
私にしか見えないのか
打ちつけて上がる白い飛沫
傘ごと吹き飛ばそうとする風
乱入した一羽のカラス
ジャンプ台を無視するペンギンを
笑っている観客のそばに来ている
人の数だけ見えない嵐がある
ペンギンは何もできなかった
私も何もできなかった
打ちひしがれていると
アナウンスが流れてきた
「次のトドショーは高波のため中止いたします」
嵐はあった
どこも嵐だ
他責他罰バースデー
他人が
他人のことについて
怒っているよ
「あいつは他責的だ」
「あいつは他罰的だ」
ぽわぽわぽわん
『きゃあ勝手にわたしのものを取らないでください』
『被害者ヅラをするな』
『てめえの頭もヅラだろうが』
『ぎゃあ勝手にわたしのものを取らないでください』
『他人を責めるな』
『他人を罰するな』
『自他の境界が曖昧になっている』
『被害なんてない』
『加害しかない』
ぽわぽわぽわん
「すごいね」
「魔法だね」
何もないのに
何もなかったのに
何かをうみだせる
なんて
妄想
すべての文字を大きくしたい
読めない たすけて
小さな字 よみもの
目が痛い よめない
小さな字 ちいさい
読めない わかんね
雑誌の字 むずいよ
読めない なんかい
字字字字 どっかい
だから
わたしは
考えた
まず
わたしだけ
文字を大きく書く
フォントサイズを
大きくして
印刷する
読んだ人に やった
慣れさせる これで
大きな字を よめる
慣れさせる らくだ
小さな字に わかる
疲れさせる すてき
大きな字が びっぐ
基本になる ぐっど
だから
まず
わたしだけでも
文字を大きく書く
特殊切手の穴
シール式の
特殊切手の
使い終わった穴の
白さ
無垢
空
虚
元のかたちの大きさと数しかわからず
何があったかを思い出せない
穴の外側には
特殊切手の題材にふさわしい
あるいは切手の一部とつながっていた背景が
広がっている
背景の内側には
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
[ ][ ]
が広がっている
信じるしかない
届いていることを
信じるしかない
生きていることを
そこには確かにあった
今もある 今もあれ
無の対極に有があれ
大志
十字の網を張った柵のそばには
世界の広さなんて見向きもせずに
草を食んでいる羊たちがいた
だれにも案内されていない場所を歩くと
左右にちらばる大きな白い雲のすきまから
青のグラデーションが斜めに見える
まばらな紅葉を背景にして
建物の陰には入らずに
自らが淡い土色に濃い影を作っている
黄色のホイールローダが
木と地面で直角三角形を作るように
バケットをかぶせて休んでいた
あつらえた景色より
ちりぢりになって
見てみたい
くるくるくるくる
回転したい
迷ったわたしを
探し出さないで
わたしの肉は
次の勇気になり
わたしの骨は
宝の地図になる
人体のデテール
両手を失っても人間だ
視力を失っても人間だ
記憶を失っても人間だ
末端から少しずつ切り落として
最後にへそが残ったとしても
それは人間だ
死んでしまった人間だ
帝王切開で生まれても人間だ
試験管のなかで生まれても人間だ
人工子宮のなかで生まれても人間だ
だが
中心から少しずつ部分を張り合わせて
最終的に正しく動いたとしても
それは人間ではない
生まれてしまった物だ
あらゆる部品を組み合わせて
全体を作っても人間にならない
毎号揃えると完成する人間は存在しない
しかし
カプセルを用意して
部品を中に入れて
振っているうちに
人体が完成したら
たぶん人間になる
他者を人間と認めるのはいつも人の心である
驚きが生命の神秘と結びつくときに
はじめて物質を人間として見る
もしも
手に取るように心がわかると思ったら
人間のようには扱えない
いつもの通りの道
半袖の上にコートを着て自転車で
いつもの道を走ったら
長かった
いつもどおりの道なのに
いつもどおりの自転車なのに
長かった
いつも五分で目的地につくのに
いつまでもたどり着けないくらい
長かった
いつもより手が冷たくなり
いつもより体が震えて
長かった
いつまでいつもよりいつもどおりのいつもで
続けられると思う
いつもいつもどおりのいつまでもいつもより
続くと思う
思うけど続く
思いがけないほど続く
長かった
きっと雪の日は
もっと長くなる
キウイvsキーウィvsキングペンギンの雛
◎種類
キウイ:果実
キーウィ:飛べない鳥
キングペンギンの雛:飛べない鳥
◎見た目
キウイ:キーウィに似ている
キーウィ:キウイに似ている
キングペンギンの雛:キウイに似ている
◎形・大きさ
キウイ:楕円形で小さい
キーウィ:丸っこくて小さい
キングペンギンの雛:縦に長くて太くて大きい
◎朝食
キウイ:適している
キーウィ:夜行性
キングペンギンの雛:重すぎる
勝ち負けをつけることに
意味があることの
反例
誰かのためのデザイン?
部屋に備え付けの
白いテレビ付きドアホンの上部には
玄関先の映像がうつるモニターと
オートロックを解除するボタンがあり
下部には
玄関先と通話ができるスピーカーの穴
空いているから黒く見える丸(図1参照)
図1
。。ooO○○◯●●●●◯○○Ooo。。
。。ooO○◯●●●●●●◯○Ooo。。
。。ooO○◯●●●●●●◯○Ooo。。
。。ooO○○◯●●●●◯○○Ooo。。
。。ooO○○○◯◯◯◯○○○Ooo。。
。。ooO○○○○○○○○○○Ooo。。
何のため
貫通しない
白い穴
何のため
中央に向かう
大小のグラデーション
何のため
音の出ようがない
プラスチックのボコ
許したい
誰かのためのデザイン
尊重したい
誰かのためのデザイン
怒りたくない
誰かのためのデザイン
余裕をもちたい
誰かのためのデザイン
万物に意味がある
誰かのためのデザイン
模範の死
もしも死が
なかなか寝つけない夜の
あっなんかいつのまにか寝ていたわの朝の
朝がないバージョンだったら
寝られない
もう真っ暗なのに
はしゃぐ時間でもないのに
刻々と苦しくて
早く寝たい寝たいの夜が
死だったら
上に投げたボールが
永久に着地しない死だったら
好きなひとが間近で腐ってゆくより
ずっとずっと怖いんだろうか
どんどんくずれて
原型を失って
へんな臭いがして
病をまき散らし
みなに迷惑をかけ
だれにも惜しまれずに
消えてゆくところを
じっと見つめているだけの時間より
怖いんだろうか
そんなはずはない
好きなひとが腐ることより
怖いことはない
今までの生を裏切ることより
怖いことがあったら
怖すぎるからない
面白い冗談
目に見えるつながりを求めるのは
甘やかな愛かい
鳶色の疑心だよ
捨てられてしまうと思うから
首輪をほしがるんだ
見下されてしまうと思うから
組み敷こうとするんだ
想いが軽く見えるのは
あんたをずっしりと堪えていて
重さは相対的だから
想いが重く見えるとき
あんたが相手にしてやったことは
軽くて薄くてなんでもない
あんたの重さが
シーソーの向こう側にいたひとを
吹き飛ばして
頭から落下させてしまうのに
かわいそう
自分がかわいそう
冷たいひとね
冷たくなったひとに
面白い冗談
知らないことはいつも鏡
制服がパリパリしていたころ
となりの席の男子生徒が
大柄な男子生徒たちに囲まれて
連れていかれた
それから
ずっと使われない机
だれも座らない椅子
となりのとなりのクラスでは
一度も登校していない生徒が
いるらしい
親の仕事の手伝いをしているらしい
となりの席だった男子生徒は
ゲームをしているそうで
夜でも部屋に明かりがついているらしい
あるとき出会った人は
かつて不登校だったと
話してくれた
わたし知っていた
しかし知らなかった
この世に不登校の人間がいることを
ちっとも信じられなかった
保健室登校をしていたあの人も
性風俗産業で働いていたあの人も
親が離婚したあの人も
休職をしたあの人も
わたしに教えた
わたしは知らない
わたしはなにもわかっていない
知らないことが鏡になって
わたしの姿をうつしだす
らしいらしいの伝聞で
知った気になり弛緩した
だらしない頬が引き締まる
叔父が死んだらしい
子どもがいたのに
まだおさないのに
右手を動かして鏡のわたしが左手を動かして
うれしいだけのわたし
鏡の裏にいるあなたに
会いたくて
枠に手をかけて
そっと覗きこんでも
裏にはまた鏡がある
わたし知りたい
あなたを見たい
ふりふり
なにがおもしろいのか
川のそばに
等間隔で
人が座っている
倣ってみる
川に向かって足を投げるように
腕につけた時計をみる
忙しい人は
忙しいふりをしないだろうな
お金をもっている人は
お金をもっているふりをしないし
家族となかよしな人は
家族となかよしなふりをするわけないし
才能のある人は
才能のあるふりをする必要なんてないし
幸せな人は
幸せなふりをしない
隠してあるものは神秘的に見えるし
すぐ手にはいるものは安っぽく思う
だけど
とても
おそろしいことに
底が浅いと水面から見える
ミニミニ再生産
今回の付録は
あの文房具を模したポーチ
あのお菓子を模したポーチ
あの文庫本を模したポーチ
模した模した模した模した
ポーチポーチポーチポーチ
パロディ元が尽きるまで
尽きないと思っている
消費しかしていないのに
尽きないと思っている
減算しかしていないのに
尽きないと思っている
パロディのパロディの
パロディのパロディの
パロディのパロディの
続きのリメイクのリベイクの
リバイバルの新シリーズの
リニューアルのリスタートの
ミニミニミニミニミニ再生産
ポーチが増えたところで
いるものは増えない
いれたいものも増えない
増えないのに
尽きないと思っている
人が尽きない
泡を育てる
底に穴のある容れものを
洗剤をつけたスポンジで洗って
シンクに置いたまま水を注ぐと
泡が膨らむ
迫り上がる
容れものを持ち上げてシンクから離すと
泡は後退する
水だけ流れる
シンクに置いて水を注ぐ
泡が膨らむ
迫り上がる
シンクから離して
泡は後退する
水だけ流れる
シンクに置いて水を注ぐ
泡が膨らむ
迫り上がる
シンクから離して
水を注ぐ
水だけ流れる
泡が膨らむ
泡が膨らむ
水だけ流れる
育てた泡をなんとか流す
水泡に帰する ってない
だってぴかぴかになったから
燃やして抑制するよりきれいだったんだよ
雪原の丸焼き
駅前のベンチで鳩をみている
鳩はかわいい
まるっこくてちょこちょこと歩き
むね肉で
足で側面をつつこうとしたら
びゃあっと飛んでいった
でもほかにもいる
忙しいひとたちのあいだにいる
鳩の色ってあれだな
自分がいなかったらうまく回ったはず色
あいつとかあいつとか
もっと幸せになれたんじゃないかな
立つ鳥跡を濁さず言うけど
最初からいなきゃよかった
たぶん絶対くぼんじゃうし
平らな道に穴があったら
なんでだろうって思うよ
同じ色で綺麗に埋めても
たぶん微妙に違ってるし
ちょっと段差ができてしまって
だれかがあとからつまづくとか
穴があった記憶を思い出してさ
避けようとして転んじゃうとか
しかも人間って不可逆だし
鳩はさあ
鳩はさっき蹴られそうになったことも忘れて
こっちに近寄ってくる
鳩はかわいい
まるっこくてちょこちょこと歩き
むね肉で
日照権
日曜日
晴れ
見上げるマンションの窓のひとつが反射でするどい光を浴びせてくる大道沿いは一面陰
坂を上って出た広い公園には多くの家族連れ
光
晴れ
三時の日差しは麦の色
踏みつけている草の端々が黄金にはにかむ
紅葉をブランコで仰ごうとする子どもたち
善
晴れ
すでに落ちた葉までみなぎる
細く伸びる枝さえも生きている
陽
晴れ
坂を下って出た大道沿いは一面陰
奪われる
日照権
表裏一体の親戚
あの子のペンとわたしのペンの成分は同じ。
きれいなカフェのきれいな内装のきれいな青いアンティークの扉はトイレ。
おめでとうのかたちをとったちくしょう。
頑張りたくないから頑張りたい一朝一夕。
整列しているように見えて、横から見たら少しずつずれて斜めになっている。
なんと、全員が、きみと同じ人間なんだよ。
マレーバクじゃない。
たとえ、名札にマレーバクと書いてあっても。
見えるものを信じるな。
マレーバクなんて存在しない。
薄いピザ
ポストを開けたら
町のピザ屋のチラシが一枚
宅配&テイクアウトOK
ハッピーアワーはLサイズピザが特別価格
裏面にはピザメニューがずらり
ペパロニ 照り焼きチキン ミックス
エビマヨ カルボナーラ シーフード
ベーコン ハワイアン 四種のチーズ
しかも ある日は Lサイズピザ
何枚買っても お安い お値打ち
買わなきゃ損 資本主義 買わなきゃ損
安いうちに ガソリン代 安いうちに
一人暮らし Lサイズピザ 二枚 注文
カルボナーラと四種のチーズ
約四〇cmと約四〇cm
やったぜ来たぜフライデーの夜七時
重ねられた二箱を
ベッドに並べて開いたら
薄いピザ
不均等な一切れを持ち上げる
薄いピザ
うっすいうっすいうすいピザ
この世はシュリンクフレーション
まずしさを底上げ棚上げクリスピー
歯ごたえのない砂をかむように味だけはある
うっすいうっすいうすいピザ
四切れでおなかいっぱいになった
あとは冷凍して明日も食べる
太陽風
たとえばさ
「きみはお月様のようだね」って言われたら
たぶん
狂気的って意味ではない
そうではない
そうと信じない
信じたくない
よね
そうやってさ
相手の善良さを信じることは
悪いことではない
ないけど
あほばかまぬけ
言葉の裏を読めない
くそったれ
そう裏切られる
裏切られる
よね
あのさ
「きみは太陽風だね」って言われてさ
やったね
って喜んだ自分は
あほばかまぬけ
言葉の裏を読めない
くそったれかもしれない
ないけど
どっちかというと
有害なのは
てめえのほうだろ
地球ぶってんじゃねえよ
てめえは宇宙線
いなくなれ
なくなれ
しね
参考書への提言
忘却曲線の滑り台から落下する
彼らを救う
ひとつの提言
それは一冊のうちにくりかえすこと
一冊をくりかえさせるのではなく
一冊のうちにくりかえすこと
第一章で学ばせたことを
第五章でも学ばせること
第五章で学ばせたことを
第十章でも学ばせること
ページ数は増える
倍々に増える
本棚はいっぱいになる
重複する
でも無駄ではない
ひとりで反復するには
勇気と忍耐と必要性が必要で
ほんとうはだれも
同じことをくりかえしたくはない
だからあなたがくりかえしてあげる
くりかえさせるのではなく
何度も何度もくりかえし
言い聞かせて
教えてあげる
わたしは
きみを
愛しているよ!
選ばない悲しみ
「定期的に
あなたのために
選んでお送りします」
お花
お菓子
お酒
おつまみ
パン
チーズ
ケーキ
シャツ
えほん
おもちゃ
コーヒー
香水
まあ
なんてすてきなんでしょう
お金を払って
選んでもらって
知らないものを知ることができて
お金を貰って
選べて
好きなものだけを教えることができて
お金を払って
選べなくて
好きなものだけで生きることができなくて
時間を売って
手に入れた
選ぶ楽しみ
お金で買って
手に入れた
選ばない悲しみ
時間を買って
手に入れられた?
選ぶ楽しみ
ヒデリ・ヒトリデニ・ヒトリニ
ひとりで遊園地に行く
ひとりで夜景の見えるレストランに行き
ひとりで焼肉をする
遊泳客で濁る水のなかで
珊瑚に隠れるように泳ぐ
魚に癒やされる
あざやかな葉の下で
踏み散らされて砕けきっている
自然に癒やされる
パン焼き器によって
こねられる
パンのもとに癒やされる
しかし私は
魚や自然やパンのもとに
癒やしてくれと頼んだことはない
癒やさないことは悪だ
癒やさないことは傲慢だ
癒やさないことは放棄だ
そう
思うことはない
きみたちに
私を
癒やす義務はない
私に
きみたちを
癒やす義務はない
すべてのものに
きみたちを
癒やす義務はない
義務がないから
権利だってない
不幸なきみたち
勝手にひとりで
不幸になってろ
私はパンを焼く
勝手にひとりで
できたてのパンを
食べる
もちまち
感想は違ってしまう
今から始まる
三時間の映画
初めて観るから今はゼロ時間
二回目だったら三時間ゼロ分
三回目だったら六時間ゼロ分
スクリーンや
音響の設備は
無数ではない
わたしが座っている中央の席
わたしの前に見える前方の席
わたしには見えない後方の席
女が男に語り出す
小説が原作の映画
原作を知らなかったわたし
原作を読み終えていたひと
監督を追いかけているひと
感想は違ってしまう
わたしのとなりの空席に
わたしの影を座らせても
きっと違うところで泣く
それでも
映画が終わったとき
ふしぎと
だれもが同じ感想を
トイレで
長い行列をつくって
持ち待ち
ものが落下する理由
下から上に落ちないのに
上から下に落ちる理由を
重力で解決する人たちは
ただわかりやすい説明で
その場しのぎをしている
理解した気になっている
終わらせたつもりでいる
わたしは知っています
ものが落下する理由
それは支えを失ったから
あなたの大事にしていたものが
手から滑り落ちたのは
あなたの大事にしていたものが
手の支えを失ったから
見えないところで
ものが落ちたなら
見えないところで
支えがなくなった
わたしたちの立っている
この地面がなくなったら
わたしたちは落下します
ずっと燃えて消えるまで
浮いているように見えますか
じつは透明の支えがあります
落ちていないすべてのものに
見えなくても支えがあります
あなたが思うままに踏みつけ
好き勝手に暴れて叩きつけて
見えないからと壊したものを
支えとしていたものが落ちる
ばらばら
はらはら
ぽたぽた
あなたが奪った地面から落ちる
ずっと燃えて消えるまで落ちた
ものを支えに生きていたものが
落ちて落ちて落ちているけれど
あなたは物理学を言い訳にする
それで終わらせたつもりでいる
ひとのきもち
あいてのきもちが
つたわってきたらどうする
ぼくがきみを
きらいだったらどうする
それもぼくは
きみにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない
じぶんのきもちが
つたわっていたらどうする
きみがぼくを
きらいだったらどうする
それもきみは
ぼくにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない
ぼくらのきもちが
まちがっていたらどうする
じつはぼくら
すきどうしならどうする
なのにぼくら
ひとにしられていることを
しらないから
こころをかくそうとしない
曇ったり曇ったり
今日の天気は なにかなー
晴れ時々曇り やったーー
美術館に行く いえーーい
晴れてはない がびーーん
ごみごみごみ 平日なのに
晴れてはない 心の話です
美術館を出る 疲れはてる
晴れてはない 外の話です
昼食をとろう 舌をやけど
晴れてはない 心の話です
次の美術館に 寒くて痛い
顔面に降る雪 顔が冷たい
こんこんこん 頭が痛いよ
晴れてはない 頭が痛いよ
曇りでもない 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ
今日の天気は 頭が痛いよ
曇り時々雪雪 頭が痛いよ
次の美術館に 頭が痛いよ
行けない雪雪 頭が痛いよ
曇りとは雪雪 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ
涙を凍らせる 頭が痛いよ
晴れてはない 頭が痛いよ
電車に乗ると 頭が痛いよ
車窓に広がる 頭が痛いよ
あざやかな青 頭が痛いよ
庭園に行こう 頭が痛いよ
電車から出る 頭が痛いよ
雪雪雪雪雪雪 頭が痛いよ
感動の食べ物
テレビをつけたら
なにかの選手が
一等賞を取った瞬間だった
はらはらと
こぼれる涙
感動した
何の競技かわからないけど
聞いたこともないけど
どれだけ血のにじむ思いをしたか
知らんけど
感動した
明日は頑張ろう
今日は頑張らない
感動する仕事をしたから
テレビをつけたら
なにかの選手たちが
負けてしまった瞬間だった
ぐつぐつと
沸いた怒り
失望した
何の競技かわからないけど
聞いたこともないけど
どれだけ血がにじむ思いをしたか
知らんけど
失望した
明日はもう無理
今日だってもう嫌
失望する仕事をしたから
だれかがテレビをつけた先に
今日を努力しない者は立たないから
わたしは大丈夫
わたしは食べる
糧や栄養や思い出になっているから
大丈夫
駐車監視モニター
暇を持て余していると
店内にテレビがあることに気づいた
身体をねじって斜め上のテレビを
見ているうちにあることに気づいた
あっ
これ
店の外の
カメラの映像だ
カメラの映像だ
店の外の
これ
なに
店員さんが
行列を
確認するために
用意したのかな
でも列は見えないな
道路がよく見えるな
なに
これ
テレビのようなモニターの近くにあった
張り紙にはこうあった
「店の前には駐車禁止です」
もしかしてこれ駐車監視モニター
テレビのような顔をして駐車監視モニター
おだやかな顔をしているあの人も
駐車監視モニター
コップの川流れ
店員に注文をする
「コップはテーブルの奥にあります」
はいはい
セルフサービスね
テーブルの奥に布で隠されている
コップを自分で取って
水を自分で注いで
水を自分でお飲みくださいってわけね
わかるよ
だって行列のできる人気店
営業時間ぴったりに来たのに
入店したら席がほとんど埋まっていた
天気が良いとはいえ
今日は平日で
そりゃ水を注ぐ時間もないでしょうよ
嗚呼パーティション
相席を区切る半透明の板の裏側から聞こえる
ズズズズズズズ
量はどれぐらいなんだろうな
自転車で来たから満腹にはなりたくない
帰りには坂道がある
行きに坂道があったから
くだった分だけのぼる
のぼった分だけくだる
まあいいか
水でも飲むか
コップはテーブルの奥にある
手にとる
机に置く
水を注ぐ
ちらりと見る
テーブルの上にコップが二個ある
意識の流れ、時は流れ、人生も川流れ
つからす
公園で
カラスを追いかけていたら
あいつらはぴょんぴょんと跳ねて逃げてった
近づきすぎたときは
ばさばさと飛んでいくが
あいつらは遠くまでは逃げていかなかった
だから
延々にカラスを追いかけ回すことができた
だけど
やがてカラスは公園灯に飛んでってしまった
カラスは
カアカア
と鳴いた
アホウアホウでもなければ
バカアバカアでもないのに
見下されたような気がした
今度はわたしがぴょんぴょんと
公園灯に向かって
垂直にジャンプをくりかえした
カラスは仲間のカラスと共に鳴き続けた
わたしはひとりで家に帰って詩を書いた
カラスは疲れただけだが
わたしは詩を完成させた
このように
地に足をつけて
一日ずつ
カラスに
勝つ
宛名にペンネームを書くなコンクール
言葉にしなければ伝わらないなら
言葉にすれば伝わるのか
だったら
ありとあらゆる言葉にしたい
ひたむきな気持ち
いつも思っていること
「宛名にペンネームを書くな」
全国の人から募集したい
●「宛名にペンネームを書くな」コンクール 募集要項
テーマに沿った文芸作品を広く全国から募集します。
テーマ「宛名にペンネームを書くな」
優秀作品をまとめた作品集を発行したい
図書館に納本してデータベースから検索できるようにしたい
言葉にすれば伝わるから
表現の力は無限大だから
話せばわかりあえるから
「宛名にペンネームを書くな」「はい」
「宛名にペンネームを書くな」「はい」
「宛名にペンネームを書くな」「はい」
虫歯もそうやって根絶してきた
#宛名にペンネームを書くな
あとあじ
残虐な設定
哀れな子供
悲惨な家庭
苛酷な暴力
怒濤の展開
驚きの伏線
身内が犯人
(状況を解決する新設定登場)
話し合えば
きっと仲良く
ハッピーエンド
今の気分は
ステビア
サッカリン
スクラロース
アスパルテーム
アセスルファムK
アセスルファムK
アセスルファムK
アセス ファムK
アセス ファ K
ア ス ァ K
ア K
ア ケ
ケ
髪は財布なのか
財布がなくても
生きていけるとわかった
お金やカードがないと
生きていけないけど
財布がなくても
生きていける
人の皮膚がなくなっても生きていけるように
(皮膚がなくなったら生きていけない)
人の頭髪がなくなっても生きていけるように
(頭髪がなくなったら生きていけない)
生きることだけでは
吹きすさぶとき
さみしいから
生きていけるけど
生きているから
財布を買った
新しい人間
人間は栄光だけを欲しがり
怪物に陰を投げ出した
「これは、ワタシのシンジツではアリマセン
脚色して誇張して大げさに表現しただけで
才能によって人の感情を揺さぶっただけで
ワタシは不幸せではアリマセン」
怪物は涎を垂らして考えた
(わたしには語ることがない)
他人の同情を引いて生きやすくなるための物語が
だれかを誘って捕食するための歌詞の題材がない
「おまえの実話ではないなら
わたしの実話にしてやろう
おまえが嘘だと思いたい現実を
わたしの現実の話だと嘘をつく」
人間には怪物の声が聞こえなかったが
怪物は人知れず人間と虚実を交換していた
(そして、おまえの実話を剥ぎとった今では
真実を知っているおまえの存在はいらない)
(わたしの実話でおまえを歌って消してやろう)
「嗚呼、幸せな怪物が
不幸について
賢しらに語っているよ!」
新しい人間は怪物に石を投げ
決して投げ出すことはない
出会え割れサプリメント
ぬけがらのなかに
きいろのかけらが
おちていた
さかのぼること
七時間前
一口ではのみこめない
横に長いサプリメントを
中央にある一本の線に沿って
ぽっきりと折って
ぱくっとのみこみ
残り少ない水で流しこんだ
と
思ったら片側の食感しかなかった
わかれてしまった半分を
いくら探しても見つからず
一度あきらめて眠った夜
勝手にやってくる朝
しずかに眠っている
サプリメントの片側
これから口にいれて
それから水をのんで
今からやりなおすことはできる
が
あのときのみこめなかったものを
今になってのみこもうとは思えない
会いたいときに出会いたい
探しているときに見つけたい
必要なときにいないやつを
あとから必要とするほど
やわじゃない
エレベーターの床
ある日
エレベーターの床が
まだら模様であることに気づいた
わたしは上から下へ
あるいは下から上へ
移動することにだけ
注意を奪われて
エレベーターの床を
よく見ていなかった
黒色だと思っていた
エレベーターの床が
まだら模様だとして
だれも死なない
だれも傷つかない
けど
気づかないうちに死なせていた
傷つけていた
なくしていた
エレベーターの床がまだら模様の世界を失っていた
もう何も見落とさない
エレベーターから降り
意気揚々と飛び出した
エントランスの階段の
手すりにぶら下がった
エレベーターの
床マット
いっぱいいっぱいがいっぱい
カラスがいっぱいいる
そう思って指さした先
カラスが三羽
三羽っていっぱいかな
いっぱいじゃないかも
一羽を減らしてみよう
カラスが二羽
いっぱいじゃないかも
一羽を増やしてみよう
カラスが四羽
カラスがいっぱいいる
知らない町の路地の裏
カラスが三羽
カラスがいっぱいいる
広い公園だったらどう
いっぱいじゃないかも
明るい海辺でザブーン
いっぱいじゃないかも
カラスがもしも蟻なら
いっぱいじゃないかも
カラスがもしも象なら
象であたりがいっぱい
世界に何十億の人がいる
いっぱいいっぱいの人が
どれだけいたら
いっぱいいっぱいの人でいっぱい
になるんだろう
インクカートリッジ
モノクロ印刷をしていたら
動かなくなってしまった
プリンターさん
いかがなさいましたか
なになに
カラーインクがなくなって動かない
でもあなた
ずっとモノクロ印刷をしてきて
これからもモノクロ印刷をするのに
カラーインクがあるとかないとか
関係ないじゃありませんか
バンバン
横からプリンターを殴る
動かない
再起動してみる
動かない
カラーインクがなくなって動かない
モ
モ
モノクロ印刷に
カラーインクが
ひ
ひ
必要だって
どうすればいいの
モノクロ印刷しかしないのに
カラーインクが必要なんて
白黒つけたいだけなのに
いらないものが必要なんて
いるものだけではやっていけないのね
バンバン
横からプリンターを殴る
昨日からやる
人生はちくちく蓄積だ
「明日からやるはだめだ
今日からやるんだ」
たとえば
確定申告も
明日やるより
今日やったほうがいいことになる
確かに
たとえば
借金も
明日返すより
今日返したほうがいいことになる
確かに
たとえば
喧嘩したときも
明日ごめんねするより
今日ごめんねしたほうがいいことになる
確かに
早ければ早いほどいいということ
つまり
明日より今日より昨日やったほうが
もっとよかったということ
確定申告も返済もごめんねも
昨日やっておけばよかった
昨日の昨日の昨日の……昨日やればよかった
昨日からやれなかったから
今日はもういいです
審査員
審査員にはなりたくないな
おそらく
世界中の小学生に聞いても
なりたくないもの
第一位
たとえば
ここに三つのものが並んでいる
・友だちのもの
・知人のもの
・知らないひとのもの
友だちのものを選ぶとき
(友だちだから選んだのかな)
(友だちのものだから良いと思えたのかな)
知人のものを選ぶとき
(友だちは選べなかったのかな)
(知人だから選んだのかな)
(知人のものだから良いと思えたのかな)
知らないひとのものを選ぶとき
(友だちは選べなかったのかな)
(知人は選べなかったのかな)
(知らないひとだから選んだのかな)
(知らないひとのものだから良いと思えたのかな)
第三者や友だちや知人や知らないひとに本当によいと思えたかを疑われながら自分がよいと思えたことを本当によいと思えたかを自分で疑いながら友だちや知人や知らないひとがよいと思えたものを本当によいと思えるかを疑う生はいやだな
むきだしのぷりんぷりん
だれもが傷を隠して生きている
傷を隠していないやつは死んでいるのか
むきだしのぷりんぷりん
無防備にさらけだす
むきだしのぷりんぷりん
生きていないことは取り繕わないことなのか
むきだしのぷりんぷりん
おいそこのおまえ
むきだしのぷりんぷりん
どうして燃やすと思う
むきだしのぷりんぷりん
恥辱よ灰になってしまえ!
むきだしのぷりんぷりん
そもそも隠されているのにいつ知った
むきだしのぷりんぷりん
墓を掘り起こしたのか
むきだしのぷりんぷりん
死後につけられた傷かもしれないぞ
むきだしのぷりんぷりん
だれもが傷を隠して生きている
隠さなくていいだろう
むきだしのぷりんぷりん
だれもがだれもが隠していると知っている
むきだしのぷりんぷりん
だれもが同じ咎のなかにいる
むきだしのぷりんぷりん
だれもがおまえが想像しているより
むきだしのぷりんぷりん
注ぎぐち
相手の気持ちに
なって
考えよう
あけぐちのなかにある
注ぎぐちの気持ちになって
考えよう
(わたしとわたしでは相手になれない)
(このとき
わたしと注ぎぐちは
まったくべつのものであるとわかる)
(さらに
わたしはあけぐちとも
まったくべつのものであるとわかる)
(つまり
わたしは注ぎぐちでもあけぐちでもない
と言える)
(また
あけぐちも注ぎぐちも
最後にぐちがつくので
わたしにもぐちがつく可能性がある)
(たとえば
今回は相手の気持ちとして
注ぎぐちの気持ちを問われているから
わたしは注がれぐちと考えられる)
(注がれぐちは注ぎぐちの気持ちになって
考える……)
(コポッコポコポコポッコポッ)
綺麗な犯罪
車道で
逆走する自転車とすれ違う
逞しい男の腕だった
それから風で揺れるスカートだった
女は正面から見えないように
男の背中にじっと隠れていた
雲ひとつない青空の下
わたしは正道を走ってゆく
家に帰るだけのことだ
一人で暮らしている部屋に
部屋は「家」だろうか
自転車に乗って
どこに帰るのか
緩い坂を下って
どこに行くのか
聞こえてくる
男女のはしゃいだ声が
歩道を走って
わたしを追い越す
「ここだここだ」
二人はパン屋の前で
自転車から降りる
接触すれば共倒れする近さでなければ
気づけないことが
聞こえないことが
そのさびしさが
焼きたてのパンのにおいに偽装する
清潔に揺れていた
夏の日
ビーチエントリー
海が青いとき
波が白いとき
水が冷たいとき
先の見えない坂道を下るとき
倒木を自転車で乗り越えるとき
夜の交差点が雨で濡れているとき
和室で大浴場の広さを想像するとき
ぽつんとある大きな岩の陰で潜ったとき
救急車が先頭でお行儀よく信号を待っているとき横に並んだ少女のシャツがまぶしいとき男が持ち上げた三着のスーツをつつむビニールカバーがふかふかと膨らんでいるとき住宅地にたい焼きのにおいだけが存在しているとき砂浜で男女が寄り添って海を見ているときどこかでフグが海底にミステリーサークルを作っているときどこかで鐘が鳴らされているときどこかで新しい命が誕生しているときにスノーケルに水が入ったとき地震津波火事落雷雹竜巻公害事故暴力戦争疾病老衰憎悪血涙がときにときどきときとしてとどきどきどきしたときにだれにも知られぬまま死ぬときに生きるとき
風が冷たいとき
砂が白いとき
空が青いとき
仰向け対応
寝て起きたときは
引っこんでいる骨
起きているときは
飛び出てしまう骨
あなたはわたしが
仰向けになっている
ところしか見ないから
よい天気のようだ
空は青く
風は涼しく
だれもどこかで
死んでいないようだ
不自然な戦争だ
寝て起きたときは
引っこんでいる骨
起きているときは
飛び出てしまう骨
わたしはあなたが
起き上がっている
ところしか見ないから
悪い天気のようだ
空は青く
風は涼しく
みながどこかで
死んでいるようだ
不自然な平和だ
りすぐめ
色つきの目薬は
減っていることが
よくわかる
色つきの目薬は
減っていることを
よくわかられている
色つきの目薬は
減っていることが
よくわかっているのに
どうして乱獲を続けるのだろう
と思っている
色つきの目薬に
減っていることが
よくわかっているのに
どうして乱獲を続けるのだろう
と思われている
色つきの目薬は
減っていることを
よくわかられている以上に
よくわかっているのに
どうして抵抗をしないのだろう
と思っている
色つきの目薬は
減っていることを
よくわかっている
生まれたときから
減る運命であることを
減らされる運命であることを
よくわかっている
よくわかられている
冗ぎ
お元気ですか
じょうぎでわたしに顔をはじかれた先生
長いじょうぎで
それはそれは長いじょうぎで
バチーンと
はじいたときに
はじかれて
はじきだされた
今までの関係性
積み上げてきた信頼
バチーンよりもつよい音で
はじけてとんでいった
バチバチと爆ぜた
こいつに
長いじょうぎを持たせると
はじかれるかもしれないという可能性
脳のどこかで発火して
回路に書き込まれた
キケン
の三文字
あるいは
こいつキケン
の六文字
なにより
わたしが先生を憎んでいたと思われることに
はじかれております
ただわたしは
先生と仲がよくて
じょうぎで顔をはたいてやろうとしたら
バチーンと
はじいて
はじかれて
はじきだされた
人間の輪は
ちょっと殴ろうとする人に
厳しすぎる
それでも
厳しいことで
やさしい先生が
今もお元気でいられるのなら
幸い
で
辛い
で
す
反社会的影響力
たいへんなことが起きた
由々しき問題であります
あんなことやこんなこと
サステナブルなニュース
いつも転生するトピック
ばかでもあほでも話せる
共通の話題で孤独を卒業
切れ味のよい言葉を使い
古典に勝つための時事で
さあ切実そうな詩を書こ
・・・
自転車のかごに犬を乗せたお嬢さんが通話をしながら
片手運転しているうううううううううううううううう
自転車のかごに
犬を乗せた
お嬢さんが
片手運転
しているうううううううううううううううううううう
片手運転しているうううううううううううううううう
か
片手運転しているうううううううううううううううう
・・・
片手運転しているうううううううううううううううう
ぎんなん
真実の愛かどうか
確かめるなんて簡単だよ
好きなやつの名前が
ぎんなんでも
好きなやつの性格が
ぎんなんでも
好きなやつの目玉が
ぎんなんでも
本当に好きかい
違うなら好きじゃねえよ
ぎんなんを許せないなら偽りの愛だから
え ぎんなん好きなん
ああそう
おめ
何も言っていない
わからないほうが悪いんだって
学校のテストも就職の試験もそうだったのに
まるで教師のように言う
黙っていたらわからないなんて
大盛りのランチメニューが有名なカフェで
恋人たちが平らげた皿を前に黙っていても
気持ちがわからないなんて言わないのに
黙っていたらわからないなんて
黙祷を捧げている人の前で
そんなことをしても現実は変わらないと
気持ちがわからないなんて言わないのに
黙っていたらわからないなんて
じゃあなんだ
自分に都合が悪いときに黙るのは
黙ってさえいれば
相手に気づかれないと思っているのか
わかりたくないわかることで傷つきたくない
わかって譲歩したくないわかる努力がきらい
黙っていたらわからないで
ごまかしたいから黙らせる
おまえの考えは全員に見抜かれている
黙っていればおまえには伝わらないので
みんな何も言っていない
口腔外科
大学病院の口腔外科には
やっかいな親知らずなどを抱えた患者が
うじゃうじゃしている
待合室にごったがえしているやつらのことを
詳しくは知らないけど
たぶん親知らずで苦しんでいる
人体を頭と上半身と下半身の三つにわけて
その頭からさらに額と鼻と口の三つにわけて
その口のなかの奥の奥にある一部の歯に
問題があるというやつらが密集している
ここで統計をとったらおぞましい結果になる
大学病院の口腔外科に行くと
世界でひとりっきりにはなれっこないと思う
けど
この痛みはだれにもわかりっこないぞと思う
怪死スタート
「今がイチバン若いんだ」
それは本当かもしれん
「明日死ぬかもしれない」
それも本当かもしれん
「生きられなかった人が」
それもそうかもしれん
それなら
今までやらなかったことは
なぜ今までやらなかったと思う
葉についた水を指ではじくことは
若くなくても不老不死でも誰かが死なずとも
イチから始めて取り組んできたよ
ピンッ
簡単にやれることしか
やらなかった今までを
挽回しようとしたって
次に初めてやることは
簡単にはできないこと
長く生きれば生きるほど
難しい課題しか残されていない
のに
チャレンジしよう 新鮮なことをしよう
若々しさを忘れず 脳を活性化させよう
挑戦しよう どこまでもどこまでも……
やらなかったことを
やることが偉いなら
奇抜な死に方を始めよう
人目がないなら全裸にならない
「よくひとりでカフェに行けるね」
こいつに
教えたら
ひっくりかえるだろうな
山も海も海外も焼肉も夜景が見えるレストランのディナーだってひとりで行けるんだぜ
「ひとりで外食なんてできないよ」
ファミレスもアフタヌーンティーも
「ワタシには無理だわ」
遊園地だって
「ひとりでなんて」
こいつには
他人がいないとき
存在していない疑惑がある
他人がいないから
誰も保証しないし
他人がいないとき
何もしていないし
「恥ずかしいから」
人目を避けつつ
人目を気にして
人目を引こうと
人目を気にして
全裸になるやつ
全裸にならない
服が透明な人間
ただの透明人間
USBメモリの所在
おまえのせいだ
USBメモリが消えたのは
「USBメモリを持参したら印刷できるよ」
いやいいよ家で印刷できるし
コンビニでもプリントできる
「ここの紙はちょっと分厚くて丈夫だから」
だからなんなんだよ
「次回はUSBメモリを忘れないようにね」
おまえのせいだ
USBメモリが消えたのは
わたしには最初からわかっていた
USBメモリが消えてしまうこと
わたしがなくしたせいで
はない
おまえがUSBメモリを頼まなければ
USBメモリは消えなかった
わたしが承諾したせいで
はない
おまえがUSBメモリを求めなければ
USBメモリは消えなかった
おまえがしつこいせいで
USBメモリが消えた
断られたあとも何度も迫ったおまえに
USBメモリの全責任がある
合意があったと言ったら
責任がなくなると思ったら大間違いだ
USBメモリはなくなったが
おまえだってと拗ねたら
責任の所在をうやむやにできるとでも
USBメモリは所在不明だが
文字の節約
メールボックスに新着メールが五件
予約資料がご用意できました
予約資料がご用意できました
予約資料がご用意できました
予約資料がご用意できました
予約資料がご用意できました
もしもこれがお手紙なら
もっとまとめて送っただろう
もしもこれが手書きなら
もっとまとめて書いただろう
もしも生涯に使える文字数が決まっていたら
もっとまとめて使っただろう
そして愛するひとに大好きだと伝えただろう
憎悪や扇動や嫉妬や愚痴や嫌がらせや宣伝やものまねや見栄や嘘に費やさなかっただろう
もっと大事にできただろうに
実用人間
ああ大きな画
迫力がありますね
曲がり角で折れて
目の当たりにしてしまった
大きな画
ほんとうに大きな画です
大きな画としか言いようがない
存在感がある
ただそれだけで
人を圧倒する
だってこんなに大きい
どうやって運んだのか
制作期間も長かったでしょう
どれだけ無収入を耐えたのか
置き場も必要ですね
どこで作業したのか
この大きな画を見るだけで
もう勝てないと思います
あまりの凄まじさに
理解ができないことに
自由であることに
ひとびとに必要とされるものを
つくらないことが芸術な芸術に
立ち尽くして
うろたえてしまう
なんて
なんて
ああ大きな画
段ボル
びっくりだよな
段ボールくんの側に立って考えてみると
いきなりザクザクと身を縦に切られて
「ああ処分されるんだな」って諦めていたら
切られた箇所をテープで補修されて
荷物を入れられ閉じられいつもどおり運ばれ
わけがわからなくて不安だろうな
三辺の合計なんて段ボールくんは知らないし
でもさあ
緩衝材なんていつも悲惨な目に遭っているよ
引きちぎられ丸められ詰めこまれ
一方で段ボールくんはさあ
自分の強度に油断しちゃっているよね
緩衝材は外側のオレ様に合わせて当然だって
自分が中身の最も外側だと思っている
だからありのままでいられると慢心している
だけどきみは外側でも本質でもないよ
謙虚に合わせて小さく三辺を気にして弁えろ
見えるか
いつの間にか過ぎている時間を
見える化しようと思って
残り時間が色でわかるタイマーを買った
時計回りで時間が経って
時計回りで色面積が減る
おまえには見えるか
わたしには見える
目に見えないはずのものが見える
背筋がどんどん伸びていく
ケッシテ見テハイケナイモノヲ見テシマッタ直接見タラ気ヲ失ッテシマウ恐ロシイナニカ
ぐう
目が覚めたときにはすっかり消えていた
しかし見えないだけでいつもそばにいる
昔から今もこれからもおまえの背後にも
既約分数
ミニマリストが言っていた
必要なものだけがあればいい
最低限の生活ができればいい
インターネットにも書かれていた
友達がたくさんいたって付き合いきれない
大切な人がいないほうが身軽に生きられる
効率的に生きるための本を読んだ
スーパー経営者の日常はスマートで
家事や育児のやり方はあいまいもこ
クリエイターが動画で話していた
好きなことを仕事にしよう
やりたいことだけをやろう
彼らが割り切って捨てたものたちを皮膚に
ぬるく あつく あたたかく ある
少なすぎる情報
あくせくバトルか
アクセスバトルか
プロモーションビデオのページビュー数が
最速でいくら超えたら殿堂入りで伝説で神か
バズだかバスだか
ノれたらいいのか
更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新
毎日毎時間毎分毎秒
会いたいか
相対評価か
悲報か
PRか
【 】つけるのか
【 】つけないか
更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新更新
もうたくさんだ
いっぱいいっぱいだ
満ち足りている
はずなのに
いざ振り返ってみると
心に刻みたい
情報が少ない
いや
ない
見えない事情
バス停もないのに
タクシー乗り場でもないのに
友人の集まりでもなさそうなのに
ラーメン屋の行列でもなさそうなのに
道路に向かって斜めに並んでいる人たち
あの人たちは
いったい何を待って
並んでいるのか
何度も振り返ってみる
二度も三度も何度もみる
彼らもわたしをみる
もしかして……
彼らはわたしではなく
わたしの進行方向からやってくる
何かをみているのかもしれない
前を向く
何もない
後ろをみる
彼らもわたしをみる
もしかして……
いや
いいんだ
そんなことは
他人がそこに立っている事情を
勝手に共有されて勝手に理解させられる
インターネットがおかしかったんだ
無職透明
制服を着た女の子ふたりが
男ふたりに絡まれている
(助けないと)
でもわたしも女だしな
新卒の就活でも使ったスーツでピチピチだし
ネット通販で買った靴はヒールが高いし
右手は日傘で埋まっているし
左手には黒い炭酸飲料があるし
日傘で殴ることしかできない
あまりにも非力で無力で
日傘で殴ることしかできない
持ち手のボタンを押せば自動で開く
日傘で殴ることしかできない
開いたあとは力を込めて手動で縮めて閉じる
日傘で殴ることしかできない
制服を着た女の子ふたりが
男たちの差し出した画面を覗きこんで言う
「えーおいしそう」
あまりにも非力で無力でいらなくて
日傘で殴ることしかできない
くるくる
帰り道
席が空いていたから
髪を切ってもらった
背中にかかる髪を
結べるくらい
ぎりぎりまで
切り終わって
鏡を見た
肩まである髪
朝遅く起きて
鏡を見た
肩までない髪
父も母も
癖が強く
くるくる
振り回し
私は呆れ
まっすぐ
逃げだし
ぐるぐる
巡っても
髪が示す
くるくる
私は子供
ふたりの
癖を継ぐ
私は子供
ふたりの
跡を継ぐ
ことはしない
私はまっすぐ
癖をただして
ただまっすぐ
鏡から離れる
布の器
内輪のネタ
身内同士
仲間内
ウチウチウチ
だから
ジメジメジメ
してもいいんだよって
みんなやっているよって
きさまだってそうだろって
言うけどね
おまえは人の心をなんだと思っている
ハイハイ陶器だろ
相手を傷つけたら割れるんだろ
だから大事にしないといけないんだろ
違うんだよ
心は布だ
繊維に染みこむ
汚物を洗い流しても
おまえは祝杯を躊躇する
だから大事にしないといけないんだよ
まぼろしかげ
かげが黒いぞ
あっちあっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
こどもが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている
かげが黒いぞ
あっちこっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
おとなが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている
かげが黒いぞ
どっちどっち
遠くに見えた
日かげのなか
リードにつながれた
わたしが四つんばい
走ってちかづいたら
こいぬが座っている
バラバラ姓名
もしも筆名が「田中太郎」さんならまだいいよ
◎筆名
姓[ 田中 ] 名[ 太郎 ]
◎筆名ふりがな
姓[ たなか ] 名[ たろう ]
「パピヨン」さんや「マリモ」さんはどうする
◎筆名
姓[ パピ ] 名[ ヨン ]
◎筆名
姓[ マ ] 名[ リモ ]
「らっこちゃん」さんだったらこうなるんだぞ
◎筆名
姓[ らっこ ] 名[ ちゃん ]
@筆名ふりがな
姓[ らっこ ] 名[ ちゃん ]
入力欄の設計の問題ではない
姓名での活動を超えて表現したい人たちに対する想像力の欠如
てめえの冷淡さの問題である
筆名という名の生命を自分の理解できるかたちに解体しないと
受領できないヤツらの心にしみる詩はかくかくかくばっている
「パピヨン」さんや「マリモ」さんや「らっこちゃん」さんの
ありのままの私情も愛せないヤツらに詩情なんて愛せるものか
同期するタマネギ
あなたは点滅の仕組みをご存じだろうか
エレベーターで「1」が点滅しているとき
人間の意識は二つの世界を切り替えている
「1」が点灯している世界
「1」が消灯している世界
あなたは信号機の仕組みをご存じだろうか
人間の意識は三つの世界を切り替えている
「赤」が点灯している世界
「青」が点灯している世界
「黄」が点灯している世界
あなたは生死の仕組みをご存じだろうか
人間の意識は一つの世界にとどまっている
「命」が点灯している世界
「命」が消灯している世界
あなたは忘却の仕組みをご存じだろうか
人間の意識が世界を切り替えるときに
思考の同期に失敗して情報を消失する
あなたはカレーの材料をご存じだろうか
人間の意識を超えてノートは存在している
忘れたくないなら「書く」しかない
夏の総括
今から誰にも提出しない自由研究をする
表彰されることも見舞われることもない
お中元もラムネも関係ない
花火も近寄らない
風鈴も鳴らない
冷房だけ気が利いてる
不純物の少ない
水でできた氷は
――溶けにくい
氷がぎっしり詰めこまれた袋に
炭酸飲料を注ぐ
パチパチと
爆ぜる何か
これが命か
自立する袋にストローをさして
ジュースをチューチューと飲む
今年の夏が
終わる……
次は何をしようか
来年の夏が始まる
分断するインターネット
いつからか
切断する
気がついたときには
接続が切れる
何回やり直しても
終わってしまう
途切れそうな予感から
必死に接続をくりかえすと
復旧するときもある
だめなときはだめ
機械だろう
つなぐ機械のせいだろう
交換する必要があるだろう
でも
つなぐ機械とつないでいる線を
差し直したら
安定するようになった
すぐにだめになったと思う
交換すればいいと思う
交換されたものはどこにいく
修理される破棄される
だめなときはだめ
諦められたものはどこにいく
ほんとうはだれも悪くなくて
深くつながっていないせいで
つながらなくなったとしても
使えない
一生使えない
あわない
一生あわない
さよなら
一生さよなら
返事をもらう前に
さよなら
煙は立たない
消防車を追いかける
音の鳴るほうへ歩く
大きな道路の端に
何台もの消防車が
止まっている
通行人のまねをして
通行する
伸びているホースを頼りに進む
とあるマンションにたどりつく
細長いマンションに
消防隊員がうじゃうじゃいる
細長いマンションの外に
細長いマンションを見上げる
住民たちがうじゃうじゃいる
それを斜め後ろでみている
知らない人といっしょにみている
結局
なにもなくて
全員解散する
このように
お話できたのは
火事がなくて
だれも死ななくて
実害がなくて
平和で
ほっとしたからだ
いくら対岸だからといって
死だ不幸だかわいそうだ
題材にして
きれいにまとめて
火消しして
当事者の魂も消えたよ
おまえのせいで
大生活
草が一本だけなら
ただの草で
抜きたくなるけど
草が一面を覆っていたら
草原になって
駆け回りたくなって
草が一面をもっと覆っていたら
大草原になって
寝そべりたくなる
砂山はどこから砂山か
草原はどこから草原か
大草原はどこまであるのか
ごみの分類
お金の計算
課題の解決
投げ出したくなるけど
生が一面を覆っている
どこまでもどこまでも
はてしなく生えている
だから寝そべっている
いつかやることにする
盲点のあご
自分のあごの裏って見る機会がないな
何色をしているのかな
たぶん肌色だろうけど
もしかしたら虹色かもしれないし
ほかのひとに
見られていないかな
こいつのあごの裏は緑色で不気味だな
そう思われていたらどうしよう
まっすぐ鏡に向き合っても
自分のあごの裏は見えにくいから
肌色の絵の具をつけても
塗り残しができてしまいそうだな
それでも
自分のあごの裏が見えづらいとはいえ
異性のからだが好きなだけなひとに
わかっているふりをされたくないな
横断中
「青だ行こう」
威勢のよい声に振り向くと
歩道から横断歩道へ
はすかいに向かう
女生徒が四人
横にならんで
ゆっくりと
のろのろと
しずしずと
歩いていた
そうだ
走らなくていい
無茶をして
転ばなくていい
なびかせて
媚びなくていい
涙を流さなくても
息切れしなくても
きみたちは正しい
焦らなくても
青はまだ始まったばかりだ
自分にちょうどよい速さで
だれかと共に歩ける速さで
一歩ずつ前に進め
蹉跌を帰す
初めて砂鉄を知ったとき
おまえは
わくわく
しただろう
だけど利口になるにつれ
おまえは
わくわく
しなくなっただろう
家庭で教えられた
「磁場を展開せよ
世の中のものは
だいたい砂鉄」
学校で教えられた
「磁力を働かせろ
あれもこれもどれも
おまえにこびりつく」
社会は隠していた
(おまえには限界がある
古い砂鉄を落とさないと
新しい砂鉄はつかめない)
むかし集めた砂鉄の重さで
転んでしまった今こそ手放せ
世の中のものはだいたい砂鉄
おまえが元気でさえいれば
きっとまたわくわくできる
死んでいるひとのお墓に入る
死んでいるひとのお墓に入る
死んでいるひとの上にのって
死んでいるひとの下にもぐり
死んでいるひとをお墓の外に
生きているひとがお墓の中に
生きているひとのお墓に参り
生きているひとの死を悼んで
生きているひとを現実の外に
死んでいるひとのお墓の中は
ちっぽけな大小のおおらかな
寛容と無風のさなかにあって
死んでいるひとのお墓の外は
さわやかな柑橘のあざやかな
批判と論争のさかなになって
生きているひとはこの世にいません
生きていたひとはたくさんいました
死んでいるひとはこの世にいます
死んでいたひとは確かにいません
生きているひとより
死んでいるひとのほうが
腐敗しないものだから
生きているひとのまちを離れ
死んでいるひとのお墓に入る
たまたまたまごサーフィン
たまごパック(から)に両足を乗せて(暗喩)波に乗っていたころ(暗喩ではない)
なぜか(急に)とつぜん(唐突に)たまごパックが潰れてしまった(問一)
消費者にはたまごパックの耐久性について問い合わせる権利がある(直喩)
(種類に)したがってわたしはたまごパックのメーカーに問い合わせようとした(問二)
しかし(されど)たまごパックのメーカーを探すことに疲れてしまった(暗喩)
それは資料を購入したのに(衝動買い)一度も読まないことに似ていた(事実無根)
たまごパックが潰れたことによって引き起こされた損害(ない)は計り知れない(ない)
衝撃のあまり廃品回収のアナウンスを聞き逃してしまったこと(聞いた上で逃している)
小動物(猫やキリンなど)への愛(ない)をなくしてしまったこと(あらかじめない)
昼食(ランチ)を食べ忘れたこと(暗喩)
なにより自分の足でたまごパックを潰してしまった罪悪感により(時によりけり)
人類滅亡の危機にまた一歩近づいてしまったこと(あと六万四千八百二十五歩)
今回はたまたまたまごパックで波に乗っていたからよかったものの(暗喩ではない)
もしもこれがあれや(これや)これ(あれ)だったら(仮定)どうなっていたか(問三)
どんなことでも自分の頭で考えることを諦めたくないとわたしは思う
了(諦めないので終わらない)