おしなべて詩

全100篇の詩集です。おしなべて実話。

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パンフレット
チラシ
で構成された改札付近のラックに近づき
手に取ろうとしたパンフレット
放送が聞こえてくる

沿線のお店と手を組んだキャンペーン
詳細はリーフレットにて

わたしの手は止まった
リーフレット
あなたにとってはそうかもしれない
リーフレット
でも奪うことはないじゃないか
リーフレット
正しいから裂いてよいのか
リーフレット
人の 心の 言葉こそ 
ものに つよく 結びつく
人の 心の 言葉と
ものを わかれわかれに しては ならない
引きはがされた瞬間に
わたしの手は止まった

さようなら パンフレット
きみを愛することは もう二度とない
こんにちは リーフレット
きみを好きになることは きっとない

2020年3月23日

いいんだ流星群

マンションと道路に囲われた 
小さな公園の 小さな砂場を
水の入ったペットボトルが
囲んでいた

 ぺぺぺ
 ぺ砂ぺ
 ぺぺぺ

どうしてかと思って
帰ってインターネットで調べた
どうしてかと思った
どうして調べたのか

知的好奇心をもつことは大事
何ごとにも興味をもって生き生きと
考えることを止めてはいけない

でも 本当は いいんだ

いいんだ いいんだ いいんだ
 いいんだ いいんだ
  いいんだ いいんだ
   いいんだ

いったい   小さな砂場を
どうして   水の入ったペットボトルが
どんな意味で 囲んでいたって

いいんだ あるんだから なくても
いいんだ ないんだから あっても

ある日 お星さまが落ちてきて
あなたの 頭に ぶつかって
死んでも いいんだが
悲しいんだ

2020年3月23日

宇宙人に侵食される

怖い宇宙人に侵食される
現在進行形で侵食される

初めて宇宙人を見つけたのは
とても特徴的な文章を書く人の 
別名義を 探そうとしたとき
それらしい人を見つけて
でもそれは 宇宙人との 邂逅だった

わたし きれいな かなしみ つらさ
うつくしい おなじ ほんとう
あまりにもそっくりな さみしい

原作があるのか
人の気持ちに 原作があるのか

いいや 違う
すべて 地球外生命体の 仕業だ

宇宙船に 連れ去られ
宇宙人に 改造される

すると 同じ電波を 発するようになり
違う気持ちが あるはずなのに
まったく別人のように 
同じ人間になる

思考を言葉で表しているのか
言葉に思考を乗っ取られていないか

日刊現代恐怖 KOWASA

それでも 立ち向かえ
宇宙人に 立ち向かえ

もっとみんな 怖い 言葉の 他人になれ
同じ言葉を 使わなくても 好きだって
伝えられるようになれ

2020年3月23日

玄関にすべて入っている

会社のトイレの中にあるトイレは一つ
会社のトイレの中にあるトイレは個室
会社のトイレの電気がついているときは入らない
会社のトイレの中にあるトイレが使用中だから
会社のトイレの扉を開けるとき 個室の扉も開けている
個室イン個室 1対1の一室
法律違反ではないのか
法律違反ではないのだ
ただ 壁の色がくすんでいるだけで
ただ 曇りの日は廊下が薄暗いだけで
だれもだれかを傷つけるつもりはなかった
最初の扉を開ける前 想像していたはずだ
扉があれば守られる
この先に扉があるから守られる
しかし二番目の扉はないも同然だった
だれもだれかを傷つけるつもりはなかった
法律違反ではないのだ
法律違反ではないけど
心イン心 1対1の一心
まずは 外側の扉からノックする

2020年3月31日

あいう

「あ」ってむずくね
はじめて書くにはむずくね
ひらがな界でもレジェンド級にむずくね
せめて「め」を教えてから「あ」に移行したほうがよくね
「め」を知らずして「あ」を書くって
「2」を知らずして「20」を書くようなものじゃね

「いろはにほへと」
こんなに書きやすいのに
「あいうえお」
こんなになって
「あ」もむずくね 「え」もむずくね 「お」もむずくね

「イロハ」とか
「ABC」とか
前例に照らし合わせたら
「あいう」だよ
えんぴつを握らせたばかりの子どもに
「あいう」だよ
どうなってんだ
最初のハードルを飛び越えられなかったら
どれだけ傷つくのか わかっているのか
どんなに次が簡単でも 次なんて見えなくなることを
それでも教えたかったのか
すべては「あい」から始まると 教えたかったのか

2020年3月31日

足元を見る

知っているか 
人は足元を見る

「気にしすぎだよ」
「自意識過剰だよ」
「だれもあなたにそんなに注目してないよ」

言葉だけなら美しく見える
見えないものを靴下が暴く
左右で柄の違う靴下を履く

「どうしてそうしているの?」

結局
結局
結局 これが 本性なのだ
矮小で些末な 人生の結論が 結局 これ

見ていないなんて ウソで
どうしてウソを ついたのかと言えば
自信のなさそうな人間につけこんで
上から目線でアドバイスをしたかっただけで
本当はずっとずっとずっと監視していて
相手を支配できるチャンスを窺っていて
相手に疑問形で尋ねることによって
さも自分が正義であり正常であることを
示そうとしている その生

どうしてそうしているの?

知っているか
人は足元を見る
だから左右で柄の違う靴下を履け
気にしすぎだよと先に声を掛け
靴下柄違い指摘罪で心まるごと死刑に処せ

2020年4月5日

こんもりとする意味

おはようって
おはようってことなんだけど
人によっては
おはようって以外の
意味になるらしく
満月の夜に血まみれで言ったならわかるけど
そうでない朝に言っても
意味になるらしく
どうせこんもりするなら
森に帰りたい

2020年4月12日

対立フィルタリング

この商品を購入した人は
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あなたとこの人は買いものが似ています
だからこの人の買ったものも
きっとあなたの買いものに
したほうが
よい
のか
なんて
人間を
愚弄しているのか
AI
インターネットを使って
画一化しようとしているのか
AであればBやCを好きであると
規定したいのか
人間を
読めるかたちにするために
読めるかたちに進化するのではなく

人生という
ノイズを食らえ
クソAI

いるものをいることに
隣人の助けは必要ない
プラットフォームに負けない
いらないものはいらない

2020年4月12日

いいよ

いいよって
いうけど
いいの?

原始共産制を望んでいる人間でも
選挙に行っていいの? 
そんなやつの一票で変わる世界で
生きても
いいの?

2020年4月12日

体裁の美しさ

「こういう人間の醜さも含めてすばらしい」
やってしまったね
ふるまいを
偽善的な
現実の当事者になろうものなら思わない
人間の醜さを肯定することは
できるかぎり美しくあろうとする
人間の努力を否定すること
醜いものを醜いと言い切る
それが精一杯の誠実さ

フィクションには
ないといけない
誠実さが
作者の
それだけが現実未満の虚構を
すこしでも現実に近づけることができる

彼岸の想像力は
現実の暴力には勝てない
だれかの心臓を生きたままくりぬくとき
その人の頭のなかにも理想があって
それを形にしているだけだから

醜さや美しさの前に事実がある
わたしはわたし以外になれない

紙にメスを突き立てているだけの空想も
その重さを引き受ける決意をすれば
現実とすこしだけつりあいそうになる
それが精一杯の誠実さ

2020年4月12日

我の存在証明

使っていた携帯の契約更新月を五月・六月に迎え、六月二十六日になって重い腰をあげて格安スマートフォンへの乗り換えを検討した。父から委任状と運転免許所のコピーが届いたのは二十八日の午後で、二十九日は土曜日だった。ショップを訪ねたわたしはMNP予約番号の取得時に家族間譲渡しようとした。

「契約者と住所が違いますね。家族であることを証明する書類がないと、他人譲渡になって手数料がかかりますよ」

契約者にご確認ください。休日も勤務のある父とはなかなか連絡がつかない。近くのコンビニに入って印刷機の前に立った。マイナンバーカードを使えば戸籍証明書を取得できる。何度か操作をした結果、本籍地がサービスを提供していないと判明した。父と連絡がつく。他人譲渡の手数料と転出手数料で六千円の出費となる。予約番号を手に入れた足で家電量販店に向かう。公式サイトで印刷したシミュレーション結果を格安SIMの店員に見せる。話はスムーズにゆくように見える。

「マイナンバーカードは本人確認に使えません。健康保険証はべつに証拠書類が必要で。住民票とか」

コンビニに戻ってマイナンバーカードをかざし住民票を印刷しようとする。三百円。小銭しか入れられない。探す。ない。どこにも。

人生がイヤで自殺する人の気持ちがわかる。

2020年4月12日

あるがままオーソリティ

ありのままで生きてく
強者がなんか言ってる
ほんとうは汚いものを
見ようとしないくせに
ありのままで生きてく
強者がなんか言ってる
あるがままに生きてく
うつくしい権威を保つ
強者がなんか言ってる

2020年4月25日

黒色嘔吐

こんにちは
頭痛薬にはカフェインを含むものもあります
まいにち紅茶飲料
一・五リットル
夏は二リットル
十年
睡眠時間は人それぞれです
適正はきっと四時間
規則正しくない頭痛
規則正しく脈をうつ
親からもらった頭痛薬
あのころからいつもおなじみ
小学生
頭痛薬にはカフェインを含むものもあります
治らない痛み
父の言葉
「感じなくなるだけであるものは消えない」
治らない痛み
治らない痛み
いらない残業
なくなる飲料
新しく買う
強めのコーヒー
トイレに駆けこみ
黒色嘔吐
やすらかな心地
ねんいりに掃除
翌日に張りがみ
「きれいに使ってください」
Aから読んでBにもたどりつけず
感じなくなるだけであるものは消えない

2020年4月25日

現ゆるがせ少年少女

一万円の十倍の十万円の十倍の
百万円の懸賞金ですら見合わない問題
そのひとつが日日に宿る
どうしてごはんを作ってくれたの?
買えばよかったのに
作らせればよかったのに
食パンから耳をちぎれば
出かければ
草を食めば
耐えれば
よかったのに
どうしてごはんを作ってくれたの?
だって
世の中にはたくさんあって
なにもかも選べるぐらいあって
与えられた時間に見合わない数があって
十倍の十倍の十倍の十倍の何かがあって
ほんとうはそうする必要も
義務も
罰則も
投獄もなかったのに
どうしてごはんを作ってくれたの?

目につくことだけ盾をつく
うつつ忽せ少年少女  
悩もうとしなくても
世界は驚異に満ちている
うつつ揺るがせ少年少女
きみの生はその疑問符に見合っている

2020年4月25日

ここはとっても安全な基地

駅から迷って喫茶店
商店街の裏のビルの中の地下の端
明るい接客に迎えられ 奥の席
時間ギリギリのモーニング
 
・ホットケーキ 
・ピザトースト 
・チーズトースト

人生で一番なやんだ
ピザトースト チーズトースト 
なやんだ末のチーズトースト
今から焼きます お待ちください
店内に人は少ない
平日の十一時
向かいあう女性客
新聞を広げる男性客
カウンターの向う側 おじいさんが用意する
半分だけ減った水を 店員さんが注ぐ

やってきたチーズトースト そして珈琲
コースターには喫茶店の名前
ペーパーにも喫茶店の名前
皿にのせられたチーズトースト
トーストにのせられたチーズ
大事に食べようと思った三切
一切を食んだ瞬間にわかった
大事にすることはできない
本当にすばらしいことは
あっという間に
なくなってしまう
珈琲にはミルクを入れた
ミルクのあとに砂糖を入れた
入れる前にも少し飲んだ
かき混ぜて大半を飲んだ
チーズトーストはあと一切になっていた
他にゆく場所があるはずなのに
一切れを眺めて でも食べた
伝票をもって立ち上がる
使えるクレジットカード
レシートが用意されるまでに
財布に忍ばせたいショップカード
つるつると滑るカードのショップ
申し訳ありません 店員さんが そう言って
代わりに取って 渡してくれた
階段を上って ビルを出て 地上に立って
目的地に向かってゆくとき
歩いているとき
冷たい風を受けているとき
ふとした永遠にわかった
本当にすばらしいことは
あっという間に
なくならない
いつまでも引き伸ばされ 持続し 結びつき
香り 色 くるくると回る めくる音 が
ずっと 背中を撫でつづける

駅から迷って喫茶店
人生で一番なやんだ
カウンターの向う側
他にゆく場所がある

あなたにも きっとある
なくならないことが きっとある
そこはとっても安全な基地
愛された思い出があるなら 
いつまでも 生きていける

2020年4月27日

十全な夏

すべてインターネットのせいだ
クロワッサンが
ほんとうは満月になれたのにと
わめきはじめた

クロワッサンが
クロワッサン風情が
メロンパンやあんぱんのかたちこそ
己の本来の姿で
己の理想の姿で
己の完璧な姿で
今は欠けてしまっていると思っている

インターネットで
カタログを見たからだ
クロワッサンが
先端をサクサクとさせながら
キータッチをして
検索エンジンで
幸福とは何かを調べたからだ
たぶん新聞やテレビのせいでもある
口コミのせいでもある

クロワッサンが
クロワッサン風情が
メロンパンやあんぱんのかたちこそ
己のあるべき姿で
己のなるべき姿で
己のするべき姿で
今は空っぽだと思っている

先端をサクサクと潰しながら
夏のカラダを思いだせ
身も心もむきだしにして
表面を焦がしてカリッとさせた
ビート板でどこまでも泳いだ
先端は見えなかった
世界が満月だからか?

クロワッサンが
クロワッサン風情が
夏のカラダを思いだせ
何もかもなかったのに何もかもあった夜
先端は見えなかった
キミが満月だからか?

クロワッサンが
クロワッサン風情が
己のかたちを憎むな
己のかたちを壊すな
己のかたちを誤るな

インターネットには載っていない
たぶん新聞もテレビも
口コミでさえ
幸福とは何かを知らない
その姿がいつも十全

2020年4月27日

せりあがる泡

買いたての炭酸飲料の
ペットボトルのキャップのギザギザを味わいながら
ちょっとずつ開けて
ちょっとだけ振って
ちょっとずつ開けて
勢いよくせりあがる泡を
閉めて閉じこめた
それでも弾けて漏れてくる
淡い夏のお誘い

ぐるぐると目を回す遊具は
あとかたもなく撤去されてしまったよ
「ここには何があったの?」
って聞かれないために
なにもなければ
最初からなかったようになる
荷物は軽くしたほうがいい
なくなるなら
なくしたほうがよい

燃えるゴミを燃えるゴミの日に出そうとしたら
前日に引っ越しをした人のゴミが堆積していて
通報してやると思ってマンションの壁を見たら
業者がいつでも回収してくれるんだって
燃えるゴミの日なんてないんだって
引っ越しする前の気分が続いていたんだね
次の日に燃えるゴミといっしょに捨てた

特に意味もなく
行ってみた水族館が工事中で
すごく狭くなっていた
展示スペースへの通路が閉鎖されているだけなのに
閉じこめられた気になった
初めてここに来た人は
もう二度と来ないだろうな
本当はもっと広い青があるって
知らないまま
知っている人だけが囚われる

カフェも潰れちゃって
違うカフェができた
地図を調べてみたら
まだあのカフェが残っている
閉店したあとのレビューは
いったいどこに消えるのかな
リンクがなくなったら
だれも辿れなくなっちゃうよ

ほかの建物だってそう
きれいさっぱり変わっていく
「ここには何があったの?」
って聞かれても
答えられない
人の思い出にも残らなかったものは
いったいどこに消えるのかな
なんて
人生がこんなにこんなにこんなに簡単に続くから
きみがいないことなんて忘れちゃったよ!

時間だけが
時間を解決して
勢いよくせりあがる泡を
閉めて閉じこめた

2020年4月27日

擦過傷

よーい
スタート
ドン
の音が大きすぎて
怖すぎて
出だしから
つまづく

なにが怖いって
ギラギラとしている
闘おうとしている
勝とうとしている
まっすぐ見ている
横顔が並ぶ
観客が並ぶ
見世物になっている
馬になっている
緊張が破裂する
パン
の音も大きすぎて
怖すぎて
出だしから
つまづく

どうしてそんなに
争いたいのか
どうしてそんなに
争わせたいのか
勝とうとすることは
負かせようとすることと
同じことだと
知っているのか

わたしは
一等賞でなくても
ほめてもらえる
一等賞でなくても
認めてもらえる
一等賞でなくても
愛してもらえる
一等賞でないと
生きていけない人から
一等賞を
奪いたくない
わたしは
一等賞がなくとも
膝から流れる
参加賞で
その生が
楽しかったことを
証明できる
わたしは
出だしから
つまづく

2020年5月12日

硬度の低い好物

宝石みたいなって言うけど
宝石を見たことがあるのかよ
宝石みたいな瞳って言うけど
宝石を見たことがあるのかよ
キラキラしている
輝いている
価値がある
そのことだけを知っている
宝石のことだと知っている
でも 瞳は 目の前にあって
あらゆる角度から眺められて
吸いこまれるぐらい
どこまでも知ることができるのに
どうして知らないものに取り換えたのか
伝えたかったのか
広めたかったのか
だから 知らない 知っている 
なじまない なじむ 言葉に変えたのか
共有するために
ただひとりを還元してゆくのか
本当は
宝石のようではなくとも
強固ではなくとも
流れるように意味が変わっても
好きなものは
それだけで好きだったはずなのに

2020年4月27日

あけっぱなし

天井を見ていると
天井があるって思う
空を見ていると
空があるって思う
海を見ていると
海があるなって思う
集合ポストのダイヤル錠を開けられないと
いたずらされたなって思う

2020年4月27日

思いだしつらい

ふとよみがえ らない
憎しい顔がよみがえ らない
あのひどい仕打ちがよみがえ らない
フラッシュバック しない
どうしようもなくな らない
世界を恨んだりも しない
死にたくな らない

思いだしつらいしない 
ことを思いだしつらい

2020年4月27日

ふすぼる

逆襲されたらどうしよう
今は箱のなかに追い出している
換気が不十分だから
箱の外に追い出しもする
外にいることもまた禁止しているから
外の外に追い出しているうちに
逆襲がはじまって
球体の内側に
じゅっと穴をあけて
そこからトポロジーして
すべてが裏返しになって
内の外にわれわれが閉じこめられる
外の内はもくもくと立ちこめており
あちこちに警告表示

享楽は
あなたにとって
睡蓮を咲かせる危険性を高めます

気持ちよく過ごしてますか
心地よく息できてますか
いつまで美しいものだけを吸うつもりですか
そのうち逆襲されませんか

2020年6月27日

なめした人間

怒るな
泣くな
笑うな
頼るな
腐るな
倒れるな

知っているか
広告の陰謀を
感情の劣った生き物が
生き延びようと画策している

怒れ!
泣け!
笑え!
頼れ!
腐れ!
倒れるな!

そして闘え!
なめした人間に
水をかけ
化けの皮を剥いでやれ
やわらかい笑顔に
硬い心しかないことを
暴いて 割って 言ってやれ
           
人間をなめるな!

2020年6月27日

余波

歴史の学び方を
教えてくれなかった先生
語呂合わせで年を覚え
ノートに人名を書いた
よく考えると
そこには流れがあり
上流と下流があり
波があり
右から左へ
上から下へ
決して後退するわけでもなく
ぐるっと一回りするわけでもなく
直進してゆくものだったのに
ひとつずつ数えた余波

全世界ドミノ倒し選手権の
はじまりの時間と
おわりの時間の差が
記録に残って
映像も残って
記憶にも残って
歴史になって
教科書になって
語呂合わせで年を覚え
ノートに人名を書いて
安心して
まん中の時間を
残すことを忘れて
打ち寄せたことだけが
残って
新しい波が
上書きした 

2020年6月27日

人生デブ専シンドローム

あるだけあるのだとわからない
明日や明後日のためには取っておかない
ちょっとした暇と飢餓の区別がつかない
余計なぜい肉を育てるために前借りする
もっと分け与えられたかもしれないこと
もっと美しく肥やせたかもしれないこと

でもいいや ありのままが 欲望のまま
率直である 飾り気のない そのままの
肉付きこそ 人間の姿です 豚の我が侭

あるだけないのだとわからない
肥えているから 超えられない

2020年6月30日

底のない容器

大切なものをなくしたと思ったら
底が抜けていたってことは
ないけど
人生で一度もないけど
ふたを開けたままひっくり返した例が多数だけど
みなはまるで底だけの問題のように言うけど
じゃ側面はちゃんとしているんですかね
きちんと外側や内側からノックしたんですかね
穴が開いていないか確認したんですかね
そもそも中に入れたんですかね
正しい座標にきちんと落としたんですかね
配られた容器の底がなかったとか
容器の底が溶けてしまったとか
本気でそう思っているのだとしたら
何で底のない容器で受け止めようとしたのか
何で底のない容器で受け止められると思ったのか
わかっていたことをわかっていたまま放置して
なくされてしまった大切なものの
気持ちはあんたにゃわからない
心からして底がない

2020年6月30日

遺伝子組み換えでない

症状は個性ではないらしい
症状は症状であるらしい
つまり治されるべきらしい
薬を服用すると症状は落ちつくらしい
社会で生きやすくなるらしい
社会で生きやすいことが五体満足で
そこから人格が生えるらしい
総合するとそうなる
統合するとそうなる
わたしから見ると
彼らの苦しみも
彼らの苦しみも
大して差がないように見えるが
彼らのそれは症状で
彼らのそれは不幸で
個性で人生で苦悩らしい
牛が何を食べたのか
知らないまま食べるように
すこしずつ
ちょっとずつ
ニュアンスの遺伝子が
人の在り方を組み換えてゆく
そんなことは関係ないらしい
自分だけ良ければそれでいいらしい

2020年6月30日

カラスなんていない

燃えるごみを捨てるときは
カラスに荒らされないように
扉をきちんと閉めておくこと
そうは言われたって
カラスなんて見ない

彼らは知能が高く
車にクルミを轢かせるという
そうは言われたって
カラスなんて見ない

キラキラと光るものが好きで
宝物のように集めるらしい
そうは言われたって
カラスなんて見ない

平和な町に陰謀だけが射している
燃えるごみなんてない 扉なんてない
車なんてない 轢かれるクルミなんてない
キラキラと光る宝物なんてない
カラスなんていない

2020年7月23日

クローズドゴースト

オバケな話
バーコードを集めて
はがきに貼って
切手をつけて
ポストに投函すると
電化製品になったり
お皿になったり
するかもしれないんだって
あくまでそれは
うわさで
どうしてそうなるのかは
不透明で
足がつかないように
発送をもってお知らせするんだって
この世にはたくさん人がいるのに
化けたと報告する人は少ないから
真偽は不確かだけど
オバケに出会いたい一心で
バーコードを買う人
がいるんだって
そんなオカルトなことは信じない?
でもね
自分のやったことが必ず報われる世界なら
未来なんて楽しくないよ
原因と結果がかならずしも結びつかないとき
なにかとなにかの合間を縫って
オバケがピンポンを鳴らす
きっと明日は楽しいよ
きっと驚かされる

2020年7月23日

一面ジャック

プラグをぐねぐねしないと鳴らない
ヘッドフォンを買い替えても
やっぱり鳴らない
プラグをぐねぐねしたら鳴った
ジャック側がダメなんだ
人生って全部これ
攻略本の一ページ目にデカッと書いといて
人生って全部これ

2020年7月23日

交換ふわふわ

ごわごわを交換できない
彼らはあらゆる気持ちよさを保存している
「サテン」と聴いただけで
その肌ざわりを取りだすことができる
仕方なく
ふわふわを交換している
彼らも私も保存している
ふわふわを保存している
違うものを交換できない
同じものを交換している
意味がないように見える
ほんのすこし違っている
完全に同一でないものを
違うものを交換している

保存したものが少ないと
交換する相手がいなくて
立ち尽くしてしまう

ごわごわを交換できない
ごわごわを取りだせない
ごわごわを見失っている
仕方なく
ふわふわを交換している

2020年7月23日

なんとかイズム

それは科学で出来ている
新しい研究結果が発表されるたびに
わかりきった意志
衛生的である感情が正しい愛となり
合理的である感情が正気の証明となる
トレンドが同じ服を彩り
トレンドで同じ服が褪せる
そんなことは忘れて
なんとかイズムの継承が伝統
はじめからそうであったみたいに生きて
おれがおまえで おまえがおれで
主義が真理で 遺伝的多様性が種の存続で
愛の理由が波に掠われる
これが人間の座礁

2020年8月27日

接触不良

イヤホンジャックが おまえは不幸だって言ってくる
どんなにまっすぐ刺しても 替えても 右耳しか聞こえないヘッドフォン 
隣に並んだ マウスのコードにテープでぐるぐるとくっつけて
やっと聞こえるようになるが ちょっと引っ張ると
すぐに片耳だけになって さらにどちらも聞こえなくなって
世界が終わってしまう 

きっと 他の人はもっと単純に幸福だったんだろうな 
努力しなくても 世界はきちんと続くんだろうな 
接続したら接続できる人を横目に 曲がり角で運命の出会いをして死ぬ

2020年8月27日

おしっこに生きたい

気付いてしまった 生と死とおしっこの秘密
伏線はあった 検尿のカップで採るおしっこが朝いちばんのそれであること 
目が覚めたときに もっとも濃い おしっこが出る

おしっこが出るために 目が覚める
おしっこを出せなければ 起きられない
いや違う おしっこを出せても 漏らしてもよいと思えば 生きられない

その秘密を知ったところで抗えるはずもなく
おしっこのことを気にして生きて
おしっこのことを気にしなくなって死ぬ

2020年9月13日

壁にくらげシュート

くらげは上昇し 下がってゆき 留まる
漂えなければ 下がってゆき 床に溜まる
床と壁がなければ 下がってゆき どこまでも落ちてゆ かない

じつは骨があり 脚力があり ない壁にない足で ないキック
くらげシュートで 海を飛び ゆるやかに落下する
開いてしぼんで流される くらげにもない矜持がある 
泳ぐことを知っている

2020年9月13日

全国相互利用

死にたくなる
現金払いしかできないと
まるで侮られているようで
魂のふちを黒いぺンでなぞられたようで
規定されたようで
貴様の考えなどお見通しだと言われたようで
常識を否定されたようで
いつもの所作を異常だと指摘されたようで
券売機からおつりをとるたびに
両替機から小銭を受けとるたびに
人生がすりへってゆく

そうやってレールに突き飛ばして
迷惑料を請求する
公共交通機関の罠

あらゆる息を認めてほしい
あなたの息を認めるから
わたしを死なせないあなたを死なせない

たがいにそう交わすことができればいいのに
お札が減って小銭が増える

2020年9月29日

毒を盛られる心理

毒を盛られたとき
考えてみよう

人を殴っていると
毒を盛られるのではないかと
恐れ
さらに殴るようになって
あげくに死に至らしめてしまう

考えてみよう
あなたに毒を盛った人のほうが
ずっとつらかったんだと
考えてみよう

2020年9月30日

化粧

あれってそうだったのかな
きれいな肌のきれいなあの子
あれって化粧だったのかな
目がパッチリとしていた
人気アイドルに似ていて
色が白くて
唇が赤くて
あれって化粧だったのかな
毛穴ひとつ見えなくて
まつげが長くて
あれって化粧だったのかな

母の作ったお弁当を食べているわたしに
「いつも中身が同じだね」と言った
あの子の昼飯はいつもパンだった

あれってそうだったのかな
みんな気づいていたのかな
わたしだけ知らなかったのかな

2020年9月30日

福岡市のマンホールがデフォルトだと思った

福岡市のマンホールがデフォルトだと思った
旅行のたびに思った
魅力的なまちにはある
山がある
花が咲いている
城がそびえている
キャラクターがいる
オリジナルのマンホールがある
福岡市には何もないから何もないと思った
オリジナルのマンホールがないと思った

ネットニュースで知る
デザインには必ず意味がある
抽象的なデザインが象る
鳥 ヨット 街並み
それが福岡市
長方形と丸と三角とうねうね
これが福岡市

転勤先で言われた
福岡は住みやすい
東京と広島と大阪で暮らして思った
暮らしやすさはこだわりのなさ
人にあわせて街が変わる
人にあわせて文化が変わる
抽象的なデザインが象る

グルメ グルメ グルメ
ショッピング ショッピング ショッピング
コンパクト コンパクト コンパクト

彼らは知らないと思った
生きるたびに思った
住みやすい街に住みつづける
わかっていることをわかっている
少し歩けば何でもある
鳥がいる
ヨットがある
街並みが存在する
彼らにとってはきっと
福岡市のマンホールはデフォルトだと思った

2020年3月7日

回り道するハト

川の近くのベンチのそばに
たくさんのハトがつどう そのなかで
太ったハトがハトを追い回していた

ハトの行く手をふさぐように
先回りするハト
ハトが飛べばハトが飛び
ハトが歩けばハトが歩く

それが何度もくりかえされるうちに 思った
たくさんのハトから
この2羽を見つけられるのは
追いかけるハトが太っているからだ
太ったハトに追いかけられて
あのハトだとわかる
もし太ったハトが違うハトを追い回したら
きっとそのハトしか見つけられなくなる

太ろう
こえよう
なにかを夢中で追いかけよう
なにかをだれかにわかってもらうために

2020年3月7日

定規ではないところ

これぐらい愛してるよと広げた両腕
でも負けた 腕の長さで

これぐらい大好きだよと歩いたカニ
でも負けた 歩幅の大きさで

とても とても 悲しくなった
どんなに想っていても
人間には限界がある

そのきれいな表現には
もっときれいな想いがあったのかもしれない

私たちはもっと愛し合っていたかもしれない

とても とても 悲しくなった

2020年3月7日

せいよくもりかな

かわいくなりたいおっさん ひらがなを使う
おっさん 自分のこと おじさん って言う

おっさんなのに
たいしゅうなのに

若いやつとは違って ノーガツガツ
若い男とは話さないけど 若い女とは話す
若くない女とは話さないけど ノーガツガツ

くさいのに
うみのにおいがするのに

おっさん授けたい
今までの人生の叡智を若い女の子に授けたい
ほんとうは子を授けたい

としそうおうにふけなかったのに
ただふけがふえただけなのに

ひらがなで ふんわり やさしく 
こころ やさしく
なれるはずもなく うわすべり
しんしのふく きて かたから やぶれる
やわらかく よみやすく れとりっく


けがれてしまったんです ことば
せいよくもりもりちんこぱわー

2020年3月7日

夜にブラインド

カバーがハード
中身もハード
大事なのはソフト
アラン・ロブ=グリエの嫉妬
著作踏破のロード
昨日のセーブからロード
寝かしつけられ今日も
枕、ハードソフトピロー

2020年3月7日

膝をストライク

思わず膝を打った
でも最初から立っていた
ちょっと前かがみになってわざわざ膝を叩いた
思わず
思わずちょっと前かがみになってわざわざ
きみは
思わず膝を打ったことで
悪魔に魂を売った
はっとした息までも売った
みはった目も売った
驚きをどこまでも拡大する売文屋のどこまでも縮小する生

どうかありのままで
まっすぐと立って
心を打て

2020年9月30日

全員ゴンチャロフ

つまんねえ作家がさあ
全員ゴンチャロフになんないかな
イヨネスコとかにさあ
そしたら外れなんてなくなるのにさあ

多様性とかいうけど
そんなの嘘じゃん
好きなものだけあればいいじゃん
好きなもの好きなもの好きなもの
の中で生きたいじゃん

子どもに幸せになってほしいと思って
習い事させて旅行して塾に入れて私立に通わせて治安のよい町に住む偽善者どもがさあ
おもんねえ作品にもさあ
いいところがあるとか
好きになれば楽しめるとか
なら最初から優れたものだけで
好きなものだけで
いいじゃん

明日からみんなドストエフスキーになれ
アマチュアもプロもかりうども
それで毎日ドストエフスキーの新作を読める
ひたすらに読める
飽きることはない
飽きることはあっても
くだらないことは
それより飽きる

2020年11月17日

反芻

道を歩いていると 反芻する
いちど 飲みこんだものを 反芻する
ドロドロになっているものを 反芻する

比喩ではなく
牛のように
比喩ではなく
反芻する

酸っぱさも 苦さもなく
苦しみも 痛みもなく
戻ってくる
反芻する

いちど 飲みこんだものを 飲みこむ
すると にどと 戻ってこない
機構は いちどだけ 働く
いちど 飲みこんだものを 飲みこんだものは 飲みこめない

比喩ではなく
反芻する
人のように

2020年8月31日

伏線回収

整合性のとれた
文句のつけようのない構成
骨太でよけいな肉もなく
すとんと落ちて
説得力のある
きれいな物語

一度取りだしたものに
二度目がなければならない
転機がなければ
希望をもってはいけない
そうである過去があったら
そうではない未来をとることはできない

なるほど
文脈から外れていては
異なることに夢中になっては
いきなり立ち上がっては
ならないのなら
だったらあらすじでいい
語らなくていい
生きなくていい
そうではない

いい
力強くなくていい
自信がなくて
誤っていていい
筋から離れていても
破綻していても
すばらしくなくても
いい
いいから
回収されることに回収されないでくれ

思うことを思って
大切なことを大切にして
いくら支離滅裂でも
なんの教訓がなくても
わたしがあなたの物語を読むから

2020年11月30日

安住性プレイリスト

おすすめの曲って言うけど
すでに聴いた曲だよ
一度や二度 一夜を過ごした曲だよ
あなたの視聴履歴を参考に好きになりそうな曲をプレイリストにしました
すでに聴いた曲だよ
履歴そのままだよ

もしかして
暗示なのかもしれない

新しい曲なんて探さなくても
リピートすればいい
そうすれば裏切られない
好きなものはくりかえしても好き
もう違う土地はない
すべて焦土
空気の成分が九割毒
好きになれそうなものはもうどこにもない

そんなことはない
探しつづけていれば
月にも火星にも住める
深海も泳げる
きっと もっと 好きになれる

2020年10月23日

天気予報を見よ

本に書いてあることが
ホントにあった
こういう統計だってことが
ホントにあった

なんて驚くのは
日常がホントのことから
かけ離れすぎているから
ホントのことから本ができた
ホントのことから統計をだした

ホントより先行している予言を知りたいなら
天気予報を見よ
こんなにホントからかけ離れているのに
ホントから書き起こしたはずがない
きっと予報士はたくさんの円を見ながら
本や統計に学びながら
サンダルを投げて天気を決めている

天気を知りたいなら
ホントを見よ
空が晴れているとき
どんな最新刊より先に
空が晴れているから

2020年10月23日

浅瀬で転倒

てんとう虫がいた 
プリンターの上で
赤と黒のつやつやを抱えて立ち止まり
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
ダウンロードを開始した
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
プログレスバーが左から右へ
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
ダウンロードが終了した
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
出られないだけなんだ
挟まっているだけなんだ
短くした爪を立てても埋まらない浅い場所に
てんとう虫がおぼれていた
つくろう毛などなかった
ひたすらに片足をあげて足掻いていた

かつて愛おしいと思っていたものたちも
本当はずっとそうだったのかもしれない

やがて てんとう虫は這いあがり
プリンターの端に到達し 飛び立って 
ディスプレイのふちに着地した

2020年6月13日

八分

一センチが十ミリであること
一メートルが百センチであること
その長さを実感できない
鶴は千年 亀は万年
犬の一生は人間のそれに換算して
平均寿命
何十年 何万日 何十万時間 何千万分

タイマーで計った
つまらない本を読むのに
集中できるのは
八分
心の動かない時間は
七分でもなく九分でもなく
八分で尽きてしまう

何十億秒もあるだろうか
人生の長さ
タイマーを止めるまでは
八分であることに気づかない

2020年7月16日

ドのシール

音のなるおもちゃだと思っていた
しかし それは 楽器だった
鍵盤に貼られたドのシール レのシール ミのシール ファのシール ソのシール ラのシール シのシール ドのシールを代表してドのシール によって名付けられたド のシールをめがけて振り下ろすと鳴る音がド
そう判で押した 
音のなるおもちゃだと思っていた
しかし  
他人に他人の気持ちがあると知ったのは
いつだろう
見てもいないのに
血が流れていると知ったのはいつだろう
はがせるものならはがしたい
しかし 私は わからない
ドとレとミとファとソとラとシとド
振り下ろしたその先が 何の音かわからない

2020年7月16日

夜のワシャー

カランを固く感じる時間
切り替えて 
切り替えるためのシャワーを浴びる

あのね
すべてがひっくりかえって
落ちたものが上がっていって
濡れたものが干上がって
干上がったものが濡れて
裂けたものがくっついて
なくなったものが見つかって
見つかったものがなくなって
よいことがあればいいのにねって祈る
シャワーヘッドを上に向けて
ぽたぽたと落ちる雨に濡れた
あのころのようにはなれない

その滴る水は
洗っていない天井にぶつかって
よごれていると知っているから

2020年7月16日

復讐

もしも 復讐という言葉を
ひらがなから漢字に変換しようとして
変換できなかったらどうしよう
ふくしゅう の文字が
復讐 に置き換わらなかったらどうしよう
わたしは 変換ソフトのことを疑い
たまたま 偶然のことだと思い
何度も ふくしゅう をくりかえし
復習にしかならないことを確かめて
今までの復讐は
いったいなんだったのかを考える

2020年10月16日

マジック1

巨椋池 
巨椋池のこと 
ためいけって言う 
きょかすいけ 
でないと知っていて 
おぐらいけ 
だと知っているのに 
ためいけって言う 
このような間違いが 
手をかえて品をかえて 
あなたを王手まで苦しめて
驚かせて
ごめんね

2020年5月20日

わからなく手

右ひじをつくと痛くて
台を見ると平らで
右ひじをつくと痛くて
台を見ると平らで
右ひじをつくと痛くて
右ひじを触ると丸くて
右ひじをつくと痛くて
右ひじを見ると赤くて
膨れて腫れていたのに
どうしてすぐに信じてやらなかったのか

2020年6月15日

他人のプライド

生まれついて山が近くにあって
先祖だいだい 当たり前のように山登りを愛し
あらゆる山を完登し
みながうらやむような あの絶景をこゆびで数えきれないほど見てきた人を
尊敬
しない
だって山登りなんてしたくない
やりたくない
山に命をかけるときがきたら すでに人生が終わってる

ほんとうにうらやましい? 
そうなりたい?
山に登りたい? 

やりたいならご自由に
ひとりで誉れと思って登山してろ

2020年8月13日

有害な何からしさ

犬が人間に従順であることは
素晴らしい犬らしさである一方で
犬が人間に噛みつくことや
犬が犬に発情することは
有害な犬らしさなので
叩いたり摘出したりして
直さなければなりません

迷惑を掛けられたくないだけのくせに
犬の幸せを願って
去勢していきましょうね

2020年7月23日

風通しのよい場所

十一キログラムのみかんが届いた
一枚の紙に保管方法が書いてあった
みかんを箱に出し
風通しのよい場所で
保管してください
十一キログラム
テーブルの上にコピー用紙を敷いて
みかんを並べる
一枚のA4用紙に十四個のみかんが入る

それでも手元に余ったみかん
わたしより少し背の低い本棚の白い天板からほこりをはらい
用紙を敷いて
みかんを並べる

箱が空になって
座椅子でくつろいでいて視線を感じる
振り向くと本棚の上のみかんと目があう
みかんに見下されている

さあ寝ようと天井を見ると
みかんに見下されている
みかんに奪われている
みかんに見下されている

2020年12月16日

耐荷重

太っている人が
椅子の背もたれを
ゆっさゆっさ

寄りかかられたその背が
折れてしまわないか
見つめている

その重さは
必然ではなく
気の向くままに生きて
欲望のままに丸くなり
肥えた結果であった

椅子はまるで
宿命のように受け入れ
沈黙し
たまに歯ぎしり
ぎしぎし

許されるなら
私は立ち上がって
脂肪吸引器を取りだし
太っている人から
資本主義を減らしてゆく

いつも耐えているものを
耐えさせるものは
軽くなってしまえばいい

太っている人の
椅子の背もたれを飛び越えて
その肩をつかみ
だれかを折ってまでおまえに座る権利などないと
ゆっさゆっさ

2020年12月28日

スライドレール

引き出しが引き出せない
奥のさらに奥を進み
ガチンガチン
と前に進むことを止められている

膝で上に押し上げながら引っ張り
ようやく引き出された引き出しの
素知らぬ顔

きっと奥の部品が壊れているから
どこまでも入りこんでしまうのだ
ひざをついて首を横に
さらに傾げて肩まで触れて見た
スライドレールの
涼しい顔

なんども往復しているうちに
壊れて欠けた前板の両端が
側板にぶつからずに
すいすいとレールを走り
見逃されているとわかった

欠けた前板を修復しようとして
テープで補強しても
引き出しを開け閉めするうちに
萎れた花のように首が折れるふたつの角

厚紙を三角にして
貼った先は机の裏
引き出しと奥のあいだに
無用な立体を挟んで
引き出しを進行不可にし
これにて決着

前板は欠けたまま
テープに角がぶらさがったまま
机の裏に工作物が貼られたまま
機能は元通り
きっと忘れる
当たり前になる
機能は元通り
よい仕事をする

2020年12月28日

二等辺三角形の幻滅

死亡診断書には
死亡したときと
死亡したところとその種別と
死亡の原因と
死因の種類を書くところがあり
みなに大事にされて死にましたと書くところはない

だれも見舞いにくることなく病院で死にました
多くの人に看取られながら自宅で死にました
そのどちらも付言することがらにならず
病院と自宅の情報が記される

つらく死のうと
あっさりと死のうと
死因の種類を○で囲まれる

はじまりは違う位置だった
おわりには同じ位置だった
だれもが本当は期待していた
いびつな軌道になることを
まるで異なる死になると

読めない死亡診断書のために
愛されようとしないで
分類される死に方でも
分類されるかもしれない生き方でも
いずれ直線で結ばれる命でも
最後の点にたどりつくまで
きっとフリーハンドだから

2020年12月28日

人間ダウングレード

いまどきは
そんなことを言いません
あのときは
そうだったかもしれないけど
もう時代が違います
時代アップデート
ならぬ
時代アップグレード
われわれはつねに学び
つねに最新の良識をとりいれ
つねに科学的かつ論理的な基礎の上に建築し
生きてゆく
あいだにも生きていた
あの時代にとりのこされた人達はどうする?

新しい時代に
新しく生れてきた人ばかりではない

危険であること 不潔であること
誤っていること 歪んでいること
その上に城を築いた者達は
時代が変わった瞬間に
消滅しない
ただ
その土地の価値が低くなり
城の値段が下がり
趣味を疑われる
あいだにも生きている
あの城にとりのこされる人達をどうする?

2020年11月28日

スーパーヒトリアル

いちど見たものを忘れない人がさ
撮影禁止と書かれたものを
ものすごくだよ
忠実に表現してみせる
それは禁止されていない
なぜかっていうと信じないから
われわれが承認しないから
たぶんどこか歪んでいるし
たぶんどこか欠けているし
たぶんどこか増えているし
見たことだけがすべてだし
やっぱり偽物は本物には敵わないねって
そういうオチに使われるだけだから
だから彼らの写実は許されている
でもそれなら写真だってそうだろ
そうじゃないんだよな
人のことより機械のことを信じているから
人の作った機械のことを信じているから
機械の作った写真のことを信じているから
だから撮影禁止なんだ
いちど見たものを忘れない人なんてさ
ただの嘘つきだよ
いちど見たものを忘れる人からすればさ
そんなことありえるはずないってね
人間は精密な機械なのでした

2020年11月28日

いつのまにか花

己のやさしさを信じようとしているとき
この世でもっともおぞましい顔をしている

間違い 考えるだけ考えない者よりやさしい 
正解  考えるだけ考えない者より考えた

そもそも
やさしければやさしさに悩む機会もない
すべては非情な決断から始まった
助ければよかったのに助けられなかった
その後悔をやさしさや繊細と言い換える
なぜ助けなかったかは考えない
だって助けたことで恨まれたらどうしようとかイヤな思いをされて嫌われたらどうしようとか迷惑だと切り捨てられて自分が自分が自分が傷ついたらどうしようと考えたことで目の前の他者の苦しみに鈍重になって助けなかった醜さがあらわになるから

それでもやさしかったと信じようとするとき
あらゆる論理を適用しようと口八丁で説明しているとき
単純明快な疑問によってさらけだされる

あるのなら指をさせばよかったのに

いつのまにか花が飾られている
だれの心をあらうためだったのか
わたしには思いつきもしない

2020年11月28日

欲望

わたしの数より段ボールの数のほうが多い!

2020年12月16日

株価チャート

そんなに注目を浴びたいのなら
株価のチャートになればいい
あなたの一挙一動に
みなが人生を捧げて見守ってくれる

目立つことで貶されたくないのなら
株価のチャートになればいい
不祥事や減配で企業に怒る人はいても
株価のチャートに怒る人はいない

賞賛され必要とされたいのなら
株価のチャートになればいい
将来の株価を分析するために
あなたは必要不可欠に違いない

だれにも注目されなくて
褒められもしなければ
貶されもしない人生が
そんなに空しいのか
だったら株価のチャートになればいい
株価の一挙一動を
あなたが人生を捧げて見守る
みなに意味のあるものになる
何にでもなれたのに

2020年12月22日

わたしを好きな人がひとりもいない世界に行きたい
そこではやりたいことがたくさんある

その1 放火
その2 強盗
その3 殺人
その4 異物混入
その5 ウイルス作成
その6 監禁
その7 脅迫

数えきれない罪を犯してみたい
みなが大事にしている皿をひとつひとつ音を確かめるように壊したい
やってもやってもやりきれないぐらい知りたいことが増える
好奇心はきっと尽きない

そう思っても
わたしを好きな人がひとりもいない世界には行けない
なぜなら引き留められている
わたしを好きな人がひとりでもいる世界では
やりたいことがやれない

人の最初の罪は
愛されて生まれてきたこと

2020年12月22日

対照の対象

もしも
この世にあるすべてのものが
男性器と女性器の暗喩だったら
わたしは失望するだろう
犬と猫の暗喩でも
馬とシマウマの暗喩でも
わたしは目を擦るだろう

川を見ながら海を想像する
夜に出歩いている未成年を見ながら想像する
ある地点からある地点まで歩く
飛び跳ねる
そして立ち尽くす

この世にあるすべてものが
この世にあるというだけで
同じぐらいであってほしい

手に入らないものが星を包含するとき
愛や人生がほかのものを下敷きにするとき
わたしは質問するだろう

あなたと人間
どちらが大事

とくに何もない場所に
小さくて黄色い花が咲いていたら
かわいいと言いたい

2020年12月22日

どうしても欲求

魚の痛覚について語っている人の
どうしても魚を捌きたいという欲求
魚を食べたいという欲求
魚を釣りたいという欲求

新鮮さがなくなるから
おいしくなるから
持ち運びしにくいから
絞めていたのに
やさしい人間に見せかけたいという欲求
苦悩する人間に見せかけたいという欲求

魚の痛覚がないと話したい欲求
魚の痛点を外していると話したい欲求
魚は痛がることなく死にますと話したい欲求

ある小説について語っている人の

 感情がわからない人とは
 しっかりしていなくて
 人付き合いのヘタな人のことだと思った

そう思いたい欲求
捌きたいという欲求
痛覚がないと思いたい欲求
どうしても捌きたいという欲求

楽しいから
異なるから
楽になるから
絞めていたのに
苦悩した人間に見せかけたいという欲求

2021年1月10日

使われるもの

なぜかわたしの机を使っている
クリップボードに挟んだ紙に書きこむのに
なぜかわたしの机を使っている
ノートパソコンのむこう側の
なにもないすみっこに
クリップボードを置いて
からだをこちらにかがめ
クリップボードに挟んだ紙に書きこんでいる

クリップボードとは
カチコチの平らな板に紙を挟むことで
安定した筆記を提供する文具のこと

だったらどうして挟んだんだ
どうせ机で書くんじゃないか
人の机のすみっこで

きっとつらい
使われるために生まれてきて
最小限の機能だけで存在し
意味を否定された
クリップボード
それから
わざわざ挟まれた用紙

実際につらい
使われるために生まれてきて
最小限の機能だけで存在し
意味を肯定された
わたしの机
あなたのことは
わたしだけが肯定したかったのに

2021年1月16日

切り花

わたしの頭の位置より高い場所にある
もらった花があまりにも枯れなくて
水を換えなくなった

すべての水を吸いつくした花は
葉がしぼんで
枝が細くなったように見えたが
花びらは色あせるばかりで
すこし縮むぐらいで
うつむくだけで
一枚も落ちない

わたしは
あれをいつ片付けてよいのか
わからない
もう手遅れなのか
まだ生きているのか
わかりやすく終わってくれればいいのに
生きることはしぶとくて

2020年12月22日

挨拶つなぐ

もしもひとりだけしか
挨拶をしない世界になったら
おはようはなくなるのだろうか

おはよう
返ってこない
あるはずの
おはよう

まるで意味のない言葉を発したように
辺りはしんとし
やがて訝しみ
いったいあなたはなにを期待しているのか
視線がそう問うようになる

この世からおはようがなくなることが先か
あなたがいなくなることが先か

どちらにせよ
結論は同じだ

あなたがいなくなったら
この世からおはようがなくなる
この世からおはようがなくなったら
あなただっていなくなる

だから
諦めないでほしい
いなくならないでほしい
それは受け継がれてきたものなのだから
途絶えさせないでほしい

みながおはようを言うようになっても
あなたがおはようを言い続けたことは
絶対になくならないから

2021年1月16日

となりの芝生は青い芝生

みーん
何者にもなれなかった
許されたい

ほんとうは
ちっともそんなこと思ってないよ
だって意味すら知らないし

みなのいう何者が
何者なのかわからない

許されたいってどういうこと?
悪いことでもしたの?
警察に行ったら?
どうしてみな同じ表現を使うの?
発祥はどこなの?
有名な書評家がそう言ったの?
ニュースキャスターが?
わたしが寝ていた授業で?
古語の辞典に載っていたの?
だから受験勉強のついでに覚えたの?
習った言葉をくりかえしているだけなの?
何者にもなれなかったの何者は何者?

もしかして
だれも知らないのかも

何者にもなろうとしたことがないのに
ほどよいタイミングで
何者にもなれなかった
と合いの手を入れただけかも

それか
自分の人生のなかで見つけ出した言葉は
いいねが貰えづらいから
最大公約数で代弁したのかも

あるいは
わたしだけが知らないのかも

みーん
何者かになりたかったって
許されたいって
本気で思えたら
その意味がつよく染みるぐらい
迷いが先行していれば
人生はもっとよく
ならないだろうな
今のわたしでよかった

2021年1月16日

パソコンデスク

どう考えても高い
高すぎる
机の高さ

揃いも揃って
高い机
安物も高価なものも
同じ高さ
競争力のなさ

高さを自由に変えられます
その前に
昇降式です
その前に
違う高さの机を用意しろ

なんでこんなに高いのか
それは規格から高いから

規格を決めた人が悪魔で
わたしたちを困らせていたらどうする

椅子で高さを調節できます
足が届かない
フットレストで調整できます
足場が狭い
低い机もあります
ダイニングテーブル

なんでこんなに高いのか
それは規格から高いから

規格を決めた悪魔が人でも
わたしたちを困らせていたら
抗え

2021年1月27日

書かれてないばね、いないばね

その卓上加湿器には
水を入れるタンクと
タンクに入れる吸水芯と
吸水芯を通してタンクから水を吸い上げてミストを作り出す本体がある
説明書にはそう書いてある
タンクと吸水芯と本体を組み合わせて
電源を入れると
ミストが出て
こない

吸水芯を本体に押し上げるためのばねがない
あらかじめついているばねがない
説明書に書かれてないばねがない

ばねがなければ動かない
タンクや吸水芯や本体があっても動かない
説明書に書かれてないばねがないと動かない

2021年2月17日

雑巾と窓のごみ取引と隣の土を入れる穴

無限にあるのに無限にない
やればやるほどゴミが減る
ひとつにまとまる
袋にまとまる
たった一粒を拾って捨てる
たった一粒が減る

すこしの所作 確実に
すこしの体力 消えてなくなる
すこしの心理 不純物

これはもっとも公平な取引
ものは・いつも・人を裏切る
人も・いつも・ものを裏切る
しかし存在だけは
行動に報いる

動かしたら動く
違う場所に移動する
在るものが違うところに在る

やればやるほど見違える
かたちになる
やらない

やればやるほどゴミが減る
わかっている
やらない

2021年2月17日

タイムトラッキング

作業をするたび
時間をはかる
お風呂に入るたび
時間をはかる
寝て起きるたび
時間をはかる

さっそく思い出してみよう
昨日と今日でさんじゅう時間も漫画を読んだ
昨日と今日はよんじゅうはち時間
そんなばかな
しかし記録は裏切らない

あとで見たらなな時間だった
あのときだけ記録が壊れていた
記録のせいでにじゅうさん時間も間違えた
見返さなかったら消えていた
にじゅうさん時間が消えていた

たった一瞬のあやまりが
訂正を知られることなく一生残って
歴史になって
さんじゅう時間が殿堂入りするところだった
そんなばかな
しかし記録は裏切る

2021年2月27日

じつはうどん

思考を止めてはいけない
お店のカレーうどんの麺があきらかに細い
本当にうどん?
じつはラーメン?

書かれていることが真実とは限らない
お店のカレーうどんの麺があきらかに硬い
本当にうどん?
じつはラーメン?

人を信用してはならない
お店のカレーうどんの麺が細くて硬い
じつはラーメン?
じつはそば?
じつはラーメンそば?
じつはうどんそば?
じつはうどん?
本当にうどん?

そうやって目の前にあるものを疑って
うどんの麺が太くて柔らかいことを疑わない
じつはうどん?
じつはうどん?
本当にうどん?

2021年3月7日

張り紙のある場所には

喫煙は所定の場所で
紙を一度に大量に流すと詰まります
使用後は水を流してください

つまり
張り紙のある場所には
人がいたってこと

喫煙を所定の場所以外で
紙を一度に大量に流して詰まらせる
使用後に水を流さない

人がいたってこと

さらに
張り紙のある場所には
人がいるってこと

そういう人がいたんだ
そういう人がいたんだ
そういう人がいたんだ

人がいるってこと

歴史書に載る機会はないし
だれにも暗記される予定はないから
貼られたい

「踊らないでください」

2021年3月21日

団地の子とは

給与計算 なにそれ
資産形成 はてさて
団地の子 だれそれ

イメージだけが疾走し
意味もわたしの前から失踪し
おわりに言葉だけが残された

団地の子とは何?

会ったかどうかもわからない
だれのことかわからないから
遊んでいたかもわからない
なんのことかわからないから

回転灯
メリーゴーランド
地球
より大さな円周で
ぐるぐると巡る

団地の子とは何?

教えてくれない常識だって
知らないのに知っているのは非常識だって
偏見はいけないと言う口で
あなたは何を本当に知っているの

団地の子とは何?

2021年3月21日

プラスッチク

せんまいエレベーターのぼんろぼろな張り紙の
プラスッチクの捨て方について
わたしは読むだろう

「中を洗ってラベルをはがしてふたをとらないといけないのだな」

きさまは言うだろう

「いやプラスチックだろ!」

そんなことは
だれもが
知っているが
知らなかったか
世界がやさしいこと
寛容であること
無関心な横顔が
ただ目をつむって
口をつぐんで
微笑んで
ありのままを愛していることを
知らなかったか
まるで自分だけが真実に気付いているかのように
正しさを教え諭してやろうというように
たかが一字のあやまりを見つけたぐらいで
特別な人間になれたと思ったか

「これはプラスチックなんだ!」

ひとを抱きしめたことがなさそう

2021年3月28日

だましだましだまし

透明のパックに
つめられている饅頭が
一個百円らしいんだけど
この一個って単価のことらしくて
饅頭が五個入った一パックは
五百円らしくて
なら五百円って書けよ
五百円なんだから五百円って書けよ

狙ってんだろ
一パックで百円と勘違いするやつが出ることを
それで買わせてさ
もし指摘されたものなら
「きちんと書いてありますよ」
なんて涼しい顔で
言うに違いない
間違いない

なあにが
消費税を込みにしたら
買い控えが起こるだ

なあにが
人を騙すには
少しの真実を混ぜるだ

なあにが
合理的で利己的で
冷酷な自分かっこいいだ

悪いことをしなきゃやってけないやつはみんなゴミだよ

困らないから
だれも困らないから
だれも本当に困らないから

人を傷つけないと生きていけないなら
人を傷つけることをやめてほしい

2021年3月28日

条件反応

挨拶されると気持ちいい
声をかけられると嬉しい

「おはよう」

よい一日がきっと始まる

ところで
会社の入口に設置された自動検温システムが
カメラでとらえた表面温度をもとに
発声する

「体温は正常です」

挨拶されると気持ちいい
でも挨拶でなくてもいい
声をかけられると嬉しい

「体温は正常です」
「マスクをつけてください」
「近づいてください」

ニッコニコ
ニッコッコ

言葉なんて
だれかなんて
どうでもいい

ここに男性向けの挨拶を並べる

勝利 逆転 もう遅い 冷酷 ドS セフレ ハーレム

ここに女性向けの挨拶を並べる

高身長 高収入 高学歴 専業主婦 スパダリ 逆ハーレム

言葉なんて
だれかなんて
整合性なんて
良識なんて
客観視なんて
どうでもいい
気持ちいいなら
どうでもいい
あなたたちは
機械に夢中の
機械

2021年3月28日

ハトが羽を使わずに一段のぼったよ

ハトが水たまりをつついていたよ
 「いやそんなことはない」
そんなことはあるよ
ハトは水たまりをつついていたよ
 「ハトは空をつついていた」
そんなことはないよ
ハトは水たまりをつついていたよ
 「ハトは空をついばんでいた」
そんなことはないよ
ハトは水たまりをつついていたよ
 「平和は空をついばんでいた」
そんなことはないよ
だいたいアルバムに書いてみなよ
『平和は空をついばんでいた』
悲しいことかと思っちゃう

あとに残らない現実のために
あとに残そうとした言葉で
うそをついてどうする

2021年4月17日

掃きだめと小差の鶴

ゴミがあったから
「ゴミだ!」
と言ったら怒られた

ゴミにゴミって言ったら悪いかよ
ゴミにゴミって言ったら悪いかよ

外野 いやになるほどむちゃくちゃ言う
「なんてひどいことを」
「機嫌が悪いからってやつあたりするな」
「みんなちがってみんないい」
内野 安打 安打 ホームラン
じゃないよ
「黙ったということはこちらの勝利だ!」
じゃないよ

ゴミはいつだってゴミだよ
機嫌も紀元前もなんもかんもなしにゴミだよ

「上げるのに下げる必要はない」
上げるためじゃないよ
下げるわけじゃないよ
ただのゴミだよ

「他の人にとっては宝物なんだよ」
わたしにとってはゴミだよ

みんなみんなみんなみんな
八〇点と一〇〇点しかないウソつけコラコラ
ゴミはゼロ点
並べる価値なし比較するにも値せず
きれいごとばかりでいたら
ほんとうはきれいなこの星が
ゴミばかりゴミばかり
悪いものを悪いと言えないやつの
いいものなんて二〇点差

2021年4月23日

脈ありサイン

どうしよう
サインを送っていたら
わたしの行動のひとつひとつが
シグナルだったら
どうしよう

洋食店でわたしの選んだ
オムライスとアイスの組み合わせが
店主の不幸を開始する合図だったら
どうしよう

転んだときに立ち上がる所作が
だれかの未来を奪うきっかけだったら
どうしよう

立っているだけで
メッセージ性をもっていたら
どうしよう

わたしの知っている言葉が
わたしの知らない合言葉で
予約していなかったイベントに
参加してしまったら
待ち合わせをしていない人と
出会ってしまったら
どうしよう

それがあるから人生は悲しくなるのに
それがなくては人生は面白くないのは
どうしよう

2021年4月23日

節税対策

エレベーターに閉じこめられて
救出されたあと
髪を後ろに一本縛っただけの同期は言った
「この経験も何かに使えそう」

行った場所の写真を公開する
読んだ哲学書を引用する
鑑賞した映画の感想を共有する

できなかったらどうなるだろう
何にも使えなかったらどうするだろう

愛のために結婚をするなら
指輪をつけず
だれにも教えることなく
終わってもいいはずだ
有用だからそうしたわけでもあるまいし

愛のために秘められた恋をしよう
世間の偏見には負けない
世間の無関心にも負けない
世界の無風にもきっと負けない
勝つためにそうしたわけでもあるまいし

お金にならなかったらどうだろう
個性にならなかったらどうだろう
経験にならなかったらどうだろう

何にも使えなかったらどうするだろう

経費で落とすために
明瞭に描かれた旅行
無駄のない人生
ただ無駄に見える

2021年4月23日

やりたい仕事

やりたい仕事
あしのながい猫のあいだをくぐる仕事
やりたい仕事
マンホールのふたを一枚ずつ乾かす仕事
やりたい仕事
食パンをひたすたまご液をつくる仕事
やりたい仕事
としを隠しているひとの生年月日を暴く仕事
やりたい仕事
流れるくもを分類別にかぞえる仕事
やりたい仕事
マングースとハブの仲を適度にたもつ仕事
やりたい仕事
とがった石を川に投げて丸くする仕事
やりたい仕事
ひとにやさしくすること
やりたくない仕事
生きるためにしなければならないこと 全部

2021年4月25日

一つ上のフォルダ

やればやるほどうまくなると
生きれば生きるほど成長すると
思っていたけどほどほど
ほどほどのところで
歳だけが時と並走して
能力はその背を追っている

行けるところまで行った
進めるところまで進んだ
ここが最奥 最高の土地

そして折り返し地点だ

歳と時には追いつけない
彼らは翼を隠しもっていた
ぱたぱたと飛んでいった
能力は元来た道を下るだけ

一つ上のフォルダはけっして奥には進まない
のぼればのぼるほど
階層の根底に近づく

わたしにとって大事なことは
うまくなることだったのか
実現することだったのか
楽しむことだったのか

ルートを辿って初心にかえれ
歩んだ分だけ どこまでも戻れる
一つ上のフォルダ

2021年5月18日

第一章 女ってDTMができないのか一生

ゲームを作りたくて
ゲームのBGMを作りたくて
DTMの
デスクトップミュージックの
教本を
読んだけど
わかんない

もしかして
女ってDTMができないのか
一生

思うと
絵やマンガを描いていた女の子はいたけど
DTMをやっている子は知らなかった
ピアノを習っている男の子は
おぼっちゃんと呼ばれていて
ピアノを習っている女の子は
ふつうにいたのに
DTMをやっているのは
だいたい男

もしかして
女ってDTMができないのか
一生

だいたい
女の子
歌っている

男がDTMで作った曲を
歌ってみた
歌っている

DTMで作られた音楽を聴いて
「あっ 感性!」
と思って作者を見たらまず女

もしかして
女って音楽理論がわからないのか
一生

そんなことはない
できている人はいる
偏見にすぎない
視野が狭い
自分ができないからってみんなできないと思うな
ばーか

でも人生ぜんぶそうじゃんかよ
思ったことで決めつけて
決めつけたことで狭めて
どうにか進んでみたから
生きられたんだ
宇宙を飲みこんでから
味噌汁を飲むやつがいるかよ

だからまずは第一章
女ってDTMができないのか
一生

2021年5月18日

ありがとうコンプライアンステスト

業務中のみなさん!
コンプライアンステストを始めます!
時代を反映した常識問題をお届け!
空き時間にかならず回答してください

それでは問題です!
化粧をしない部下に注意しました!
「女性らしく化粧をしなさい!」
これは正しい行いでしょうか!

全問正解おめでとうございます!
もちろん誤った行動ですね!
解説いたしましょう!
これは価値観の押しつけかもしれません!
ジェンダーハラスメントにあたるかも!
それにその女性の性自認が男性だったら!
女性らしさを強いられることで!
苦痛に感じてしまうかも!

コンプライアンステストで学べた
強いられることは
だれにとっても
苦痛だと思っていたけど
そうではなかった
コンプライアンステスト最高
コンプライアンステスト必要
コンプライアンステスト万歳
社会めった刺しにして燃やして殺す

2021年3月16日

長生きするリスク

もう明らかになった
統計や確率で示せるからリスクになった

災害により倒壊するリスク
投資で大損するリスク
生まれてくる子が先天性疾患をもっているリスク
知らない人を助けたらその人がとてもへんな人で玄関まで追いかけられてカーテンを開けると窓に這っているかもしれないリスク

よいことが定義されていて
そのよいことから離れていて
数字で根拠を示せるなら
すべてリスク
ぜんぶリスク
みんなリスク

それらのリスクを回避して
安心して気がゆるむことによって
発生するリスク
以下リスク
以上リスク

すばらしい人生を送るには
これだけのお金がひつようで
これだけの備えがひつようで
そのお金が尽きてしまうから
長生きするリスク

2021年5月26日

雨のように流れる

自転車かごに余り
風でとんでいった
レインコート
会社の駐輪場のたてどいを竿に
なびいておる

梅雨なのに
雨具がない
仕事なのに
雨具がない
予報も雨で
雨具がない

たてどいに掴まり
風でとんでいった
レインコート
会社の駐輪場の植えこみを枕に
ねむっておる

雨具がないのに
買いにいかない
知っているのに
拾いにいかない
自分のことでも
見て見ぬふり
明日のことでも
知らないふり

かなしいことはかならず起こる
毎日だれかが泣いている
来るとわかっていながら
見て見ぬふり
知らないふり

2021年5月26日

わたしと不審死

アリバイがない
犯行があったとされる時刻になにかに打ちこんでいた記憶がない
スケジュール帳に書かれていない
予定がない
実績がない
役割がない
社会にコミットしていない
だれにも覚えられていない
存在を証明できない
どこにもいない

もしかして
あの未解決事件を起こしてしまったのは
わたしではないのか

世間をうらんではいない
お金に困っていない
関係ない
動機はない
わたしはまだだれももやしていない
さしていない
しめていない
ころしていない
たぶん

2021年5月26日

慣れる人生、見慣れる光景

ペットボトルの捨て方、意外と高度

(1)ふくろを用意
(2)ペットボトルを用意
(3)排水口を用意
(4)蛇口を用意
(5)捻るやつを用意
(6)握力を用意
(7)捻る
(8)洗う
(9)流す
(6)握力を用意
(7)捻る
(6)握力を用意
(7)捻る
(1)ふくろを用意
(10)捨てる
(6)握力を用意
(11)はがす
(10)捨てる
(6)握力を用意
(12)潰す
(10)捨てる
(13)繰りかえす
(6)握力を用意
(14)結ぶ
(6)握力を用意
(15)持つ
(6)握力を用意
(16)上げる
(6)握力を用意
(17)運ぶ
(6)握力を用意
(18)開ける
(6)握力を用意
(18)開ける
(6)握力を用意
(18)開ける
(19)腕力を用意
(20)投げる

その他、インフラの用意
インフラにかかわる、すべての人間を用意
すべての人間の、衣食住を用意

きっと最初は、困難
手順が不明で、混乱

(13)繰りかえす
(21)慣れる

じつはできる、分解
じつはできる、作業

(1)ふくろを用意
(あ)生ごみを用意
(10)捨てる
(6)握力を用意
(14)結ぶ

(3)排水口を用意
(4)蛇口を用意
(5)捻るやつを用意
(6)握力を用意
(7)捻る
(8)洗う
(A)拭く

日常は、
(13)繰りかえす
(21)慣れる

新しいことも、
(13)繰りかえす
(21)慣れる

それでも、
(22)見つけようとする
(23)未知の課題を用意

それでも、
(13)繰りかえす
(21)慣れる

2021年6月3日

やりたいならやれ

やりたいならやれ
遊びたいなら遊べ
作りたいなら作れ
書きたいなら書け
眠りたいなら眠れ
食べたいなら食べ
死にたいなら死ね

だって
そうじゃないか

まさか
死にたいというつよい言葉で
人の気を惹きたいであるとか
死にたいというくらい言葉で
人より悩んでいると見せかけたいとか
死にたいというひろい言葉で
人たちの共感を集めるつもりでは
あるまいし

だってそれなら
かまってほしい
特別に思ってほしい
仲間がほしい
と言えばいいだけなのだし

やりたい気持ちを尊重したい
そんなの無理だと言いたくない
だれかに危害をくわえることでなければ
どのように生きても自由なはずだ

やりたいことをやろう
やりたいことがわからないなら
書きだそう
口にだそう
手をだそう

やりたいならやれ
愛したいなら愛せ
死にたいなら死ね

なんて言ったら怒るくせに
なんて言ったら怒るくせに

2021年6月6日

ごったごったごった

休日のフードコート
ごったごったごった
人の声ソムリエも首をよこにふる
列が並び
並ぶ列が
それでもなんでも食べられる

 クッーこうそリ プん丼ざンドン
 生ナラたーみク ーぽビうハーキ
 コーーんガのス レんルょーネチ
 ョドュさーバイ クゃカぎャモき
 チルシくバサア 苺ち製きチレつ
 ナプーたズ丼ラ ム菜特焼塩食骨
 ナーャぎーつニ ー野ンきん定ム
 バメチねチかバ リツメやど煮ー

ごったごったごった
列のいちばん短いところへ
ごったごったごった
声をかき消されそうになる

「チーズ牛丼をください」

すぐにでてきたチーズ牛丼をトレーに乗せ
一人用のカウンター席に座り
とろっとしたチーズと
とろっとしていないチーズの境をみる

いっぱい選べたはずなのに
まだまだ未知の食べものが
味わうことがなじむことが
いっぱい好きになれたのに

2021年6月28日

カレンダー(令和3年最新版)_20210101_決定稿 - コピー

「今年は五輪に合わせて祝日が移動しています
 カレンダーには反映されていないので
 みなさん気をつけてください」

えっ
カレンダーまで嘘をつくのかよ
印刷が間に合わなかったって
そんな問題じゃねえだろ

定規のプリントがうまくいかないからって
一センチが二センチになって
十五センチ定規が三十センチ定規になっていたら
社会がぜんぶ二倍の長さで回っていくんだよ

木の幹が
「ちょっとオレ生き方まちがえたかもしんねえ」
と言って勝手にポックリ折れたら
枝葉は死ぬんだよ

だれがカレンダーが裏切るって
思って生きてきたんだよ
みんなカレンダーを信じた上で
予定を立ててきたんだよ

※実際と異なる場合があります

だからなんだよ
それでも信じてきたから
カレンダーを壁にかけて
デスクの端っこに置いて
スケジュール帳を買ったんだ
信じられないなら買わないよ

印刷が間に合わないならデジタルでいい
すぐに差し替えられるし
すぐにアップデートできるし

そうやって速いものに
置き換えられて
なくなってゆくんだ
正しくないことはミスで
疑うことは面倒だから

会うより映像のほうが
書くより音声のほうが
人間より機械のほうが
速いし正しいし実情に即しているから
わたしたちはいずれいらなくなるんだ

2021年6月30日

作る理由

わたしが知るときはみながさらったあとだ
謳われたすばらしさが薄く広まったあとで
些細なおまけが売り切れてしまったあとだ

すべてを完璧に知るには遅い時期に
知るしかなかったわたしには
もう手に入らないバックナンバー

だれかのものになって古びて
それでも不在を取り戻そうとして
手に入れて手に入れられなかった

ある点が二方向に走り広い底辺を引いた
そこからあの点に向かっても
面積の最大値は求められない

わたしのものにならない定めだった
もう手に入らないバックナンバー 
出会う前から好きだったらよかった

2021年1月27日