おしなべて詩
全100篇の詩集です。おしなべて実話。

ブックレット
フリーペーパー
パンフレット
チラシ
で構成された改札付近のラックに近づき
手に取ろうとしたパンフレット
放送が聞こえてくる
沿線のお店と手を組んだキャンペーン
詳細はリーフレットにて
わたしの手は止まった
リーフレット
あなたにとってはそうかもしれない
リーフレット
でも奪うことはないじゃないか
リーフレット
正しいから裂いてよいのか
リーフレット
人の 心の 言葉こそ
ものに つよく 結びつく
人の 心の 言葉と
ものを わかれわかれに しては ならない
引きはがされた瞬間に
わたしの手は止まった
さようなら パンフレット
きみを愛することは もう二度とない
こんにちは リーフレット
きみを好きになることは きっとない
いいんだ流星群
マンションと道路に囲われた
小さな公園の 小さな砂場を
水の入ったペットボトルが
囲んでいた
ぺぺぺ
ぺ砂ぺ
ぺぺぺ
どうしてかと思って
帰ってインターネットで調べた
どうしてかと思った
どうして調べたのか
知的好奇心をもつことは大事
何ごとにも興味をもって生き生きと
考えることを止めてはいけない
でも 本当は いいんだ
いいんだ いいんだ いいんだ
いいんだ いいんだ
いいんだ いいんだ
いいんだ
いったい 小さな砂場を
どうして 水の入ったペットボトルが
どんな意味で 囲んでいたって
いいんだ あるんだから なくても
いいんだ ないんだから あっても
ある日 お星さまが落ちてきて
あなたの 頭に ぶつかって
死んでも いいんだが
悲しいんだ
宇宙人に侵食される
怖い宇宙人に侵食される
現在進行形で侵食される
初めて宇宙人を見つけたのは
とても特徴的な文章を書く人の
別名義を 探そうとしたとき
それらしい人を見つけて
でもそれは 宇宙人との 邂逅だった
わたし きれいな かなしみ つらさ
うつくしい おなじ ほんとう
あまりにもそっくりな さみしい
原作があるのか
人の気持ちに 原作があるのか
いいや 違う
すべて 地球外生命体の 仕業だ
宇宙船に 連れ去られ
宇宙人に 改造される
すると 同じ電波を 発するようになり
違う気持ちが あるはずなのに
まったく別人のように
同じ人間になる
思考を言葉で表しているのか
言葉に思考を乗っ取られていないか
日刊現代恐怖 KOWASA
それでも 立ち向かえ
宇宙人に 立ち向かえ
もっとみんな 怖い 言葉の 他人になれ
同じ言葉を 使わなくても 好きだって
伝えられるようになれ
玄関にすべて入っている
会社のトイレの中にあるトイレは一つ
会社のトイレの中にあるトイレは個室
会社のトイレの電気がついているときは入らない
会社のトイレの中にあるトイレが使用中だから
会社のトイレの扉を開けるとき 個室の扉も開けている
個室イン個室 1対1の一室
法律違反ではないのか
法律違反ではないのだ
ただ 壁の色がくすんでいるだけで
ただ 曇りの日は廊下が薄暗いだけで
だれもだれかを傷つけるつもりはなかった
最初の扉を開ける前 想像していたはずだ
扉があれば守られる
この先に扉があるから守られる
しかし二番目の扉はないも同然だった
だれもだれかを傷つけるつもりはなかった
法律違反ではないのだ
法律違反ではないけど
心イン心 1対1の一心
まずは 外側の扉からノックする
あいう
「あ」ってむずくね
はじめて書くにはむずくね
ひらがな界でもレジェンド級にむずくね
せめて「め」を教えてから「あ」に移行したほうがよくね
「め」を知らずして「あ」を書くって
「2」を知らずして「20」を書くようなものじゃね
「いろはにほへと」
こんなに書きやすいのに
「あいうえお」
こんなになって
「あ」もむずくね 「え」もむずくね 「お」もむずくね
「イロハ」とか
「ABC」とか
前例に照らし合わせたら
「あいう」だよ
えんぴつを握らせたばかりの子どもに
「あいう」だよ
どうなってんだ
最初のハードルを飛び越えられなかったら
どれだけ傷つくのか わかっているのか
どんなに次が簡単でも 次なんて見えなくなることを
それでも教えたかったのか
すべては「あい」から始まると 教えたかったのか
足元を見る
知っているか
人は足元を見る
「気にしすぎだよ」
「自意識過剰だよ」
「だれもあなたにそんなに注目してないよ」
言葉だけなら美しく見える
見えないものを靴下が暴く
左右で柄の違う靴下を履く
「どうしてそうしているの?」
結局
結局
結局 これが 本性なのだ
矮小で些末な 人生の結論が 結局 これ
見ていないなんて ウソで
どうしてウソを ついたのかと言えば
自信のなさそうな人間につけこんで
上から目線でアドバイスをしたかっただけで
本当はずっとずっとずっと監視していて
相手を支配できるチャンスを窺っていて
相手に疑問形で尋ねることによって
さも自分が正義であり正常であることを
示そうとしている その生
どうしてそうしているの?
知っているか
人は足元を見る
だから左右で柄の違う靴下を履け
気にしすぎだよと先に声を掛け
靴下柄違い指摘罪で心まるごと死刑に処せ
こんもりとする意味
おはようって
おはようってことなんだけど
人によっては
おはようって以外の
意味になるらしく
満月の夜に血まみれで言ったならわかるけど
そうでない朝に言っても
意味になるらしく
どうせこんもりするなら
森に帰りたい
対立フィルタリング
この商品を購入した人は
この商品も購入しています
あなたとこの人は買いものが似ています
だからこの人の買ったものも
きっとあなたの買いものに
したほうが
よい
のか
なんて
人間を
愚弄しているのか
AI
インターネットを使って
画一化しようとしているのか
AであればBやCを好きであると
規定したいのか
人間を
読めるかたちにするために
読めるかたちに進化するのではなく
人生という
ノイズを食らえ
クソAI
いるものをいることに
隣人の助けは必要ない
プラットフォームに負けない
いらないものはいらない
いいよ
いいよって
いうけど
いいの?
原始共産制を望んでいる人間でも
選挙に行っていいの?
そんなやつの一票で変わる世界で
生きても
いいの?
体裁の美しさ
「こういう人間の醜さも含めてすばらしい」
やってしまったね
ふるまいを
偽善的な
現実の当事者になろうものなら思わない
人間の醜さを肯定することは
できるかぎり美しくあろうとする
人間の努力を否定すること
醜いものを醜いと言い切る
それが精一杯の誠実さ
フィクションには
ないといけない
誠実さが
作者の
それだけが現実未満の虚構を
すこしでも現実に近づけることができる
彼岸の想像力は
現実の暴力には勝てない
だれかの心臓を生きたままくりぬくとき
その人の頭のなかにも理想があって
それを形にしているだけだから
醜さや美しさの前に事実がある
わたしはわたし以外になれない
紙にメスを突き立てているだけの空想も
その重さを引き受ける決意をすれば
現実とすこしだけつりあいそうになる
それが精一杯の誠実さ
我の存在証明
使っていた携帯の契約更新月を五月・六月に迎え、六月二十六日になって重い腰をあげて格安スマートフォンへの乗り換えを検討した。父から委任状と運転免許所のコピーが届いたのは二十八日の午後で、二十九日は土曜日だった。ショップを訪ねたわたしはMNP予約番号の取得時に家族間譲渡しようとした。
「契約者と住所が違いますね。家族であることを証明する書類がないと、他人譲渡になって手数料がかかりますよ」
契約者にご確認ください。休日も勤務のある父とはなかなか連絡がつかない。近くのコンビニに入って印刷機の前に立った。マイナンバーカードを使えば戸籍証明書を取得できる。何度か操作をした結果、本籍地がサービスを提供していないと判明した。父と連絡がつく。他人譲渡の手数料と転出手数料で六千円の出費となる。予約番号を手に入れた足で家電量販店に向かう。公式サイトで印刷したシミュレーション結果を格安SIMの店員に見せる。話はスムーズにゆくように見える。
「マイナンバーカードは本人確認に使えません。健康保険証はべつに証拠書類が必要で。住民票とか」
コンビニに戻ってマイナンバーカードをかざし住民票を印刷しようとする。三百円。小銭しか入れられない。探す。ない。どこにも。
人生がイヤで自殺する人の気持ちがわかる。
あるがままオーソリティ
ありのままで生きてく
強者がなんか言ってる
ほんとうは汚いものを
見ようとしないくせに
ありのままで生きてく
強者がなんか言ってる
あるがままに生きてく
うつくしい権威を保つ
強者がなんか言ってる
黒色嘔吐
こんにちは
頭痛薬にはカフェインを含むものもあります
まいにち紅茶飲料
一・五リットル
夏は二リットル
十年
睡眠時間は人それぞれです
適正はきっと四時間
規則正しくない頭痛
規則正しく脈をうつ
親からもらった頭痛薬
あのころからいつもおなじみ
小学生
頭痛薬にはカフェインを含むものもあります
治らない痛み
父の言葉
「感じなくなるだけであるものは消えない」
治らない痛み
治らない痛み
いらない残業
なくなる飲料
新しく買う
強めのコーヒー
トイレに駆けこみ
黒色嘔吐
やすらかな心地
ねんいりに掃除
翌日に張りがみ
「きれいに使ってください」
Aから読んでBにもたどりつけず
感じなくなるだけであるものは消えない
現ゆるがせ少年少女
一万円の十倍の十万円の十倍の
百万円の懸賞金ですら見合わない問題
そのひとつが日日に宿る
どうしてごはんを作ってくれたの?
買えばよかったのに
作らせればよかったのに
食パンから耳をちぎれば
出かければ
草を食めば
耐えれば
よかったのに
どうしてごはんを作ってくれたの?
だって
世の中にはたくさんあって
なにもかも選べるぐらいあって
与えられた時間に見合わない数があって
十倍の十倍の十倍の十倍の何かがあって
ほんとうはそうする必要も
義務も
罰則も
投獄もなかったのに
どうしてごはんを作ってくれたの?
目につくことだけ盾をつく
うつつ忽せ少年少女
悩もうとしなくても
世界は驚異に満ちている
うつつ揺るがせ少年少女
きみの生はその疑問符に見合っている
ここはとっても安全な基地
駅から迷って喫茶店
商店街の裏のビルの中の地下の端
明るい接客に迎えられ 奥の席
時間ギリギリのモーニング
・ホットケーキ
・ピザトースト
・チーズトースト
人生で一番なやんだ
ピザトースト チーズトースト
なやんだ末のチーズトースト
今から焼きます お待ちください
店内に人は少ない
平日の十一時
向かいあう女性客
新聞を広げる男性客
カウンターの向う側 おじいさんが用意する
半分だけ減った水を 店員さんが注ぐ
やってきたチーズトースト そして珈琲
コースターには喫茶店の名前
ペーパーにも喫茶店の名前
皿にのせられたチーズトースト
トーストにのせられたチーズ
大事に食べようと思った三切
一切を食んだ瞬間にわかった
大事にすることはできない
本当にすばらしいことは
あっという間に
なくなってしまう
珈琲にはミルクを入れた
ミルクのあとに砂糖を入れた
入れる前にも少し飲んだ
かき混ぜて大半を飲んだ
チーズトーストはあと一切になっていた
他にゆく場所があるはずなのに
一切れを眺めて でも食べた
伝票をもって立ち上がる
使えるクレジットカード
レシートが用意されるまでに
財布に忍ばせたいショップカード
つるつると滑るカードのショップ
申し訳ありません 店員さんが そう言って
代わりに取って 渡してくれた
階段を上って ビルを出て 地上に立って
目的地に向かってゆくとき
歩いているとき
冷たい風を受けているとき
ふとした永遠にわかった
本当にすばらしいことは
あっという間に
なくならない
いつまでも引き伸ばされ 持続し 結びつき
香り 色 くるくると回る めくる音 が
ずっと 背中を撫でつづける
駅から迷って喫茶店
人生で一番なやんだ
カウンターの向う側
他にゆく場所がある
あなたにも きっとある
なくならないことが きっとある
そこはとっても安全な基地
愛された思い出があるなら
いつまでも 生きていける
十全な夏
すべてインターネットのせいだ
クロワッサンが
ほんとうは満月になれたのにと
わめきはじめた
クロワッサンが
クロワッサン風情が
メロンパンやあんぱんのかたちこそ
己の本来の姿で
己の理想の姿で
己の完璧な姿で
今は欠けてしまっていると思っている
インターネットで
カタログを見たからだ
クロワッサンが
先端をサクサクとさせながら
キータッチをして
検索エンジンで
幸福とは何かを調べたからだ
たぶん新聞やテレビのせいでもある
口コミのせいでもある
クロワッサンが
クロワッサン風情が
メロンパンやあんぱんのかたちこそ
己のあるべき姿で
己のなるべき姿で
己のするべき姿で
今は空っぽだと思っている
先端をサクサクと潰しながら
夏のカラダを思いだせ
身も心もむきだしにして
表面を焦がしてカリッとさせた
ビート板でどこまでも泳いだ
先端は見えなかった
世界が満月だからか?
クロワッサンが
クロワッサン風情が
夏のカラダを思いだせ
何もかもなかったのに何もかもあった夜
先端は見えなかった
キミが満月だからか?
クロワッサンが
クロワッサン風情が
己のかたちを憎むな
己のかたちを壊すな
己のかたちを誤るな
インターネットには載っていない
たぶん新聞もテレビも
口コミでさえ
幸福とは何かを知らない
その姿がいつも十全
せりあがる泡
買いたての炭酸飲料の
ペットボトルのキャップのギザギザを味わいながら
ちょっとずつ開けて
ちょっとだけ振って
ちょっとずつ開けて
勢いよくせりあがる泡を
閉めて閉じこめた
それでも弾けて漏れてくる
淡い夏のお誘い
ぐるぐると目を回す遊具は
あとかたもなく撤去されてしまったよ
「ここには何があったの?」
って聞かれないために
なにもなければ
最初からなかったようになる
荷物は軽くしたほうがいい
なくなるなら
なくしたほうがよい
燃えるゴミを燃えるゴミの日に出そうとしたら
前日に引っ越しをした人のゴミが堆積していて
通報してやると思ってマンションの壁を見たら
業者がいつでも回収してくれるんだって
燃えるゴミの日なんてないんだって
引っ越しする前の気分が続いていたんだね
次の日に燃えるゴミといっしょに捨てた
特に意味もなく
行ってみた水族館が工事中で
すごく狭くなっていた
展示スペースへの通路が閉鎖されているだけなのに
閉じこめられた気になった
初めてここに来た人は
もう二度と来ないだろうな
本当はもっと広い青があるって
知らないまま
知っている人だけが囚われる
カフェも潰れちゃって
違うカフェができた
地図を調べてみたら
まだあのカフェが残っている
閉店したあとのレビューは
いったいどこに消えるのかな
リンクがなくなったら
だれも辿れなくなっちゃうよ
ほかの建物だってそう
きれいさっぱり変わっていく
「ここには何があったの?」
って聞かれても
答えられない
人の思い出にも残らなかったものは
いったいどこに消えるのかな
なんて
人生がこんなにこんなにこんなに簡単に続くから
きみがいないことなんて忘れちゃったよ!
時間だけが
時間を解決して
勢いよくせりあがる泡を
閉めて閉じこめた
擦過傷
よーい
スタート
ドン
の音が大きすぎて
怖すぎて
出だしから
つまづく
なにが怖いって
ギラギラとしている
闘おうとしている
勝とうとしている
まっすぐ見ている
横顔が並ぶ
観客が並ぶ
見世物になっている
馬になっている
緊張が破裂する
パン
の音も大きすぎて
怖すぎて
出だしから
つまづく
どうしてそんなに
争いたいのか
どうしてそんなに
争わせたいのか
勝とうとすることは
負かせようとすることと
同じことだと
知っているのか
わたしは
一等賞でなくても
ほめてもらえる
一等賞でなくても
認めてもらえる
一等賞でなくても
愛してもらえる
一等賞でないと
生きていけない人から
一等賞を
奪いたくない
わたしは
一等賞がなくとも
膝から流れる
参加賞で
その生が
楽しかったことを
証明できる
わたしは
出だしから
つまづく
硬度の低い好物
宝石みたいなって言うけど
宝石を見たことがあるのかよ
宝石みたいな瞳って言うけど
宝石を見たことがあるのかよ
キラキラしている
輝いている
価値がある
そのことだけを知っている
宝石のことだと知っている
でも 瞳は 目の前にあって
あらゆる角度から眺められて
吸いこまれるぐらい
どこまでも知ることができるのに
どうして知らないものに取り換えたのか
伝えたかったのか
広めたかったのか
だから 知らない 知っている
なじまない なじむ 言葉に変えたのか
共有するために
ただひとりを還元してゆくのか
本当は
宝石のようではなくとも
強固ではなくとも
流れるように意味が変わっても
好きなものは
それだけで好きだったはずなのに
あけっぱなし
天井を見ていると
天井があるって思う
空を見ていると
空があるって思う
海を見ていると
海があるなって思う
集合ポストのダイヤル錠を開けられないと
いたずらされたなって思う
思いだしつらい
ふとよみがえ らない
憎しい顔がよみがえ らない
あのひどい仕打ちがよみがえ らない
フラッシュバック しない
どうしようもなくな らない
世界を恨んだりも しない
死にたくな らない
思いだしつらいしない
ことを思いだしつらい
ふすぼる
逆襲されたらどうしよう
今は箱のなかに追い出している
換気が不十分だから
箱の外に追い出しもする
外にいることもまた禁止しているから
外の外に追い出しているうちに
逆襲がはじまって
球体の内側に
じゅっと穴をあけて
そこからトポロジーして
すべてが裏返しになって
内の外にわれわれが閉じこめられる
外の内はもくもくと立ちこめており
あちこちに警告表示
享楽は
あなたにとって
睡蓮を咲かせる危険性を高めます
気持ちよく過ごしてますか
心地よく息できてますか
いつまで美しいものだけを吸うつもりですか
そのうち逆襲されませんか
なめした人間
怒るな
泣くな
笑うな
頼るな
腐るな
倒れるな
知っているか
広告の陰謀を
感情の劣った生き物が
生き延びようと画策している
怒れ!
泣け!
笑え!
頼れ!
腐れ!
倒れるな!
そして闘え!
なめした人間に
水をかけ
化けの皮を剥いでやれ
やわらかい笑顔に
硬い心しかないことを
暴いて 割って 言ってやれ
人間をなめるな!
余波
歴史の学び方を
教えてくれなかった先生
語呂合わせで年を覚え
ノートに人名を書いた
よく考えると
そこには流れがあり
上流と下流があり
波があり
右から左へ
上から下へ
決して後退するわけでもなく
ぐるっと一回りするわけでもなく
直進してゆくものだったのに
ひとつずつ数えた余波
全世界ドミノ倒し選手権の
はじまりの時間と
おわりの時間の差が
記録に残って
映像も残って
記憶にも残って
歴史になって
教科書になって
語呂合わせで年を覚え
ノートに人名を書いて
安心して
まん中の時間を
残すことを忘れて
打ち寄せたことだけが
残って
新しい波が
上書きした
人生デブ専シンドローム
あるだけあるのだとわからない
明日や明後日のためには取っておかない
ちょっとした暇と飢餓の区別がつかない
余計なぜい肉を育てるために前借りする
もっと分け与えられたかもしれないこと
もっと美しく肥やせたかもしれないこと
でもいいや ありのままが 欲望のまま
率直である 飾り気のない そのままの
肉付きこそ 人間の姿です 豚の我が侭
あるだけないのだとわからない
肥えているから 超えられない
底のない容器
大切なものをなくしたと思ったら
底が抜けていたってことは
ないけど
人生で一度もないけど
ふたを開けたままひっくり返した例が多数だけど
みなはまるで底だけの問題のように言うけど
じゃ側面はちゃんとしているんですかね
きちんと外側や内側からノックしたんですかね
穴が開いていないか確認したんですかね
そもそも中に入れたんですかね
正しい座標にきちんと落としたんですかね
配られた容器の底がなかったとか
容器の底が溶けてしまったとか
本気でそう思っているのだとしたら
何で底のない容器で受け止めようとしたのか
何で底のない容器で受け止められると思ったのか
わかっていたことをわかっていたまま放置して
なくされてしまった大切なものの
気持ちはあんたにゃわからない
心からして底がない
遺伝子組み換えでない
症状は個性ではないらしい
症状は症状であるらしい
つまり治されるべきらしい
薬を服用すると症状は落ちつくらしい
社会で生きやすくなるらしい
社会で生きやすいことが五体満足で
そこから人格が生えるらしい
総合するとそうなる
統合するとそうなる
わたしから見ると
彼らの苦しみも
彼らの苦しみも
大して差がないように見えるが
彼らのそれは症状で
彼らのそれは不幸で
個性で人生で苦悩らしい
牛が何を食べたのか
知らないまま食べるように
すこしずつ
ちょっとずつ
ニュアンスの遺伝子が
人の在り方を組み換えてゆく
そんなことは関係ないらしい
自分だけ良ければそれでいいらしい
カラスなんていない
燃えるごみを捨てるときは
カラスに荒らされないように
扉をきちんと閉めておくこと
そうは言われたって
カラスなんて見ない
彼らは知能が高く
車にクルミを轢かせるという
そうは言われたって
カラスなんて見ない
キラキラと光るものが好きで
宝物のように集めるらしい
そうは言われたって
カラスなんて見ない
平和な町に陰謀だけが射している
燃えるごみなんてない 扉なんてない
車なんてない 轢かれるクルミなんてない
キラキラと光る宝物なんてない
カラスなんていない
クローズドゴースト
オバケな話
バーコードを集めて
はがきに貼って
切手をつけて
ポストに投函すると
電化製品になったり
お皿になったり
するかもしれないんだって
あくまでそれは
うわさで
どうしてそうなるのかは
不透明で
足がつかないように
発送をもってお知らせするんだって
この世にはたくさん人がいるのに
化けたと報告する人は少ないから
真偽は不確かだけど
オバケに出会いたい一心で
バーコードを買う人
がいるんだって
そんなオカルトなことは信じない?
でもね
自分のやったことが必ず報われる世界なら
未来なんて楽しくないよ
原因と結果がかならずしも結びつかないとき
なにかとなにかの合間を縫って
オバケがピンポンを鳴らす
きっと明日は楽しいよ
きっと驚かされる
一面ジャック
プラグをぐねぐねしないと鳴らない
ヘッドフォンを買い替えても
やっぱり鳴らない
プラグをぐねぐねしたら鳴った
ジャック側がダメなんだ
人生って全部これ
攻略本の一ページ目にデカッと書いといて
人生って全部これ
交換ふわふわ
ごわごわを交換できない
彼らはあらゆる気持ちよさを保存している
「サテン」と聴いただけで
その肌ざわりを取りだすことができる
仕方なく
ふわふわを交換している
彼らも私も保存している
ふわふわを保存している
違うものを交換できない
同じものを交換している
意味がないように見える
ほんのすこし違っている
完全に同一でないものを
違うものを交換している
保存したものが少ないと
交換する相手がいなくて
立ち尽くしてしまう
ごわごわを交換できない
ごわごわを取りだせない
ごわごわを見失っている
仕方なく
ふわふわを交換している
なんとかイズム
それは科学で出来ている
新しい研究結果が発表されるたびに
わかりきった意志
衛生的である感情が正しい愛となり
合理的である感情が正気の証明となる
トレンドが同じ服を彩り
トレンドで同じ服が褪せる
そんなことは忘れて
なんとかイズムの継承が伝統
はじめからそうであったみたいに生きて
おれがおまえで おまえがおれで
主義が真理で 遺伝的多様性が種の存続で
愛の理由が波に掠われる
これが人間の座礁
接触不良
イヤホンジャックが おまえは不幸だって言ってくる
どんなにまっすぐ刺しても 替えても 右耳しか聞こえないヘッドフォン
隣に並んだ マウスのコードにテープでぐるぐるとくっつけて
やっと聞こえるようになるが ちょっと引っ張ると
すぐに片耳だけになって さらにどちらも聞こえなくなって
世界が終わってしまう
きっと 他の人はもっと単純に幸福だったんだろうな
努力しなくても 世界はきちんと続くんだろうな
接続したら接続できる人を横目に 曲がり角で運命の出会いをして死ぬ
おしっこに生きたい
気付いてしまった 生と死とおしっこの秘密
伏線はあった 検尿のカップで採るおしっこが朝いちばんのそれであること
目が覚めたときに もっとも濃い おしっこが出る
おしっこが出るために 目が覚める
おしっこを出せなければ 起きられない
いや違う おしっこを出せても 漏らしてもよいと思えば 生きられない
その秘密を知ったところで抗えるはずもなく
おしっこのことを気にして生きて
おしっこのことを気にしなくなって死ぬ
壁にくらげシュート
くらげは上昇し 下がってゆき 留まる
漂えなければ 下がってゆき 床に溜まる
床と壁がなければ 下がってゆき どこまでも落ちてゆ かない
じつは骨があり 脚力があり ない壁にない足で ないキック
くらげシュートで 海を飛び ゆるやかに落下する
開いてしぼんで流される くらげにもない矜持がある
泳ぐことを知っている
全国相互利用
死にたくなる
現金払いしかできないと
まるで侮られているようで
魂のふちを黒いぺンでなぞられたようで
規定されたようで
貴様の考えなどお見通しだと言われたようで
常識を否定されたようで
いつもの所作を異常だと指摘されたようで
券売機からおつりをとるたびに
両替機から小銭を受けとるたびに
人生がすりへってゆく
そうやってレールに突き飛ばして
迷惑料を請求する
公共交通機関の罠
あらゆる息を認めてほしい
あなたの息を認めるから
わたしを死なせないあなたを死なせない
たがいにそう交わすことができればいいのに
お札が減って小銭が増える
毒を盛られる心理
毒を盛られたとき
考えてみよう
人を殴っていると
毒を盛られるのではないかと
恐れ
さらに殴るようになって
あげくに死に至らしめてしまう
考えてみよう
あなたに毒を盛った人のほうが
ずっとつらかったんだと
考えてみよう
化粧
あれってそうだったのかな
きれいな肌のきれいなあの子
あれって化粧だったのかな
目がパッチリとしていた
人気アイドルに似ていて
色が白くて
唇が赤くて
あれって化粧だったのかな
毛穴ひとつ見えなくて
まつげが長くて
あれって化粧だったのかな
母の作ったお弁当を食べているわたしに
「いつも中身が同じだね」と言った
あの子の昼飯はいつもパンだった
あれってそうだったのかな
みんな気づいていたのかな
わたしだけ知らなかったのかな
福岡市のマンホールがデフォルトだと思った
福岡市のマンホールがデフォルトだと思った
旅行のたびに思った
魅力的なまちにはある
山がある
花が咲いている
城がそびえている
キャラクターがいる
オリジナルのマンホールがある
福岡市には何もないから何もないと思った
オリジナルのマンホールがないと思った
ネットニュースで知る
デザインには必ず意味がある
抽象的なデザインが象る
鳥 ヨット 街並み
それが福岡市
長方形と丸と三角とうねうね
これが福岡市
転勤先で言われた
福岡は住みやすい
東京と広島と大阪で暮らして思った
暮らしやすさはこだわりのなさ
人にあわせて街が変わる
人にあわせて文化が変わる
抽象的なデザインが象る
グルメ グルメ グルメ
ショッピング ショッピング ショッピング
コンパクト コンパクト コンパクト
彼らは知らないと思った
生きるたびに思った
住みやすい街に住みつづける
わかっていることをわかっている
少し歩けば何でもある
鳥がいる
ヨットがある
街並みが存在する
彼らにとってはきっと
福岡市のマンホールはデフォルトだと思った
回り道するハト
川の近くのベンチのそばに
たくさんのハトがつどう そのなかで
太ったハトがハトを追い回していた
ハトの行く手をふさぐように
先回りするハト
ハトが飛べばハトが飛び
ハトが歩けばハトが歩く
それが何度もくりかえされるうちに 思った
たくさんのハトから
この2羽を見つけられるのは
追いかけるハトが太っているからだ
太ったハトに追いかけられて
あのハトだとわかる
もし太ったハトが違うハトを追い回したら
きっとそのハトしか見つけられなくなる
太ろう
こえよう
なにかを夢中で追いかけよう
なにかをだれかにわかってもらうために
定規ではないところ
これぐらい愛してるよと広げた両腕
でも負けた 腕の長さで
これぐらい大好きだよと歩いたカニ
でも負けた 歩幅の大きさで
とても とても 悲しくなった
どんなに想っていても
人間には限界がある
そのきれいな表現には
もっときれいな想いがあったのかもしれない
私たちはもっと愛し合っていたかもしれない
とても とても 悲しくなった
せいよくもりかな
かわいくなりたいおっさん ひらがなを使う
おっさん 自分のこと おじさん って言う
おっさんなのに
たいしゅうなのに
若いやつとは違って ノーガツガツ
若い男とは話さないけど 若い女とは話す
若くない女とは話さないけど ノーガツガツ
くさいのに
うみのにおいがするのに
おっさん授けたい
今までの人生の叡智を若い女の子に授けたい
ほんとうは子を授けたい
としそうおうにふけなかったのに
ただふけがふえただけなのに
ひらがなで ふんわり やさしく
こころ やさしく
なれるはずもなく うわすべり
しんしのふく きて かたから やぶれる
やわらかく よみやすく れとりっく
けがれてしまったんです ことば
せいよくもりもりちんこぱわー
夜にブラインド
カバーがハード
中身もハード
大事なのはソフト
アラン・ロブ=グリエの嫉妬
著作踏破のロード
昨日のセーブからロード
寝かしつけられ今日も
枕、ハードソフトピロー
膝をストライク
思わず膝を打った
でも最初から立っていた
ちょっと前かがみになってわざわざ膝を叩いた
思わず
思わずちょっと前かがみになってわざわざ
きみは
思わず膝を打ったことで
悪魔に魂を売った
はっとした息までも売った
みはった目も売った
驚きをどこまでも拡大する売文屋のどこまでも縮小する生
どうかありのままで
まっすぐと立って
心を打て
全員ゴンチャロフ
つまんねえ作家がさあ
全員ゴンチャロフになんないかな
イヨネスコとかにさあ
そしたら外れなんてなくなるのにさあ
多様性とかいうけど
そんなの嘘じゃん
好きなものだけあればいいじゃん
好きなもの好きなもの好きなもの
の中で生きたいじゃん
子どもに幸せになってほしいと思って
習い事させて旅行して塾に入れて私立に通わせて治安のよい町に住む偽善者どもがさあ
おもんねえ作品にもさあ
いいところがあるとか
好きになれば楽しめるとか
なら最初から優れたものだけで
好きなものだけで
いいじゃん
明日からみんなドストエフスキーになれ
アマチュアもプロもかりうども
それで毎日ドストエフスキーの新作を読める
ひたすらに読める
飽きることはない
飽きることはあっても
くだらないことは
それより飽きる
反芻
道を歩いていると 反芻する
いちど 飲みこんだものを 反芻する
ドロドロになっているものを 反芻する
比喩ではなく
牛のように
比喩ではなく
反芻する
酸っぱさも 苦さもなく
苦しみも 痛みもなく
戻ってくる
反芻する
いちど 飲みこんだものを 飲みこむ
すると にどと 戻ってこない
機構は いちどだけ 働く
いちど 飲みこんだものを 飲みこんだものは 飲みこめない
比喩ではなく
反芻する
人のように
伏線回収
整合性のとれた
文句のつけようのない構成
骨太でよけいな肉もなく
すとんと落ちて
説得力のある
きれいな物語
一度取りだしたものに
二度目がなければならない
転機がなければ
希望をもってはいけない
そうである過去があったら
そうではない未来をとることはできない
なるほど
文脈から外れていては
異なることに夢中になっては
いきなり立ち上がっては
ならないのなら
だったらあらすじでいい
語らなくていい
生きなくていい
そうではない
いい
力強くなくていい
自信がなくて
誤っていていい
筋から離れていても
破綻していても
すばらしくなくても
いい
いいから
回収されることに回収されないでくれ
思うことを思って
大切なことを大切にして
いくら支離滅裂でも
なんの教訓がなくても
わたしがあなたの物語を読むから
安住性プレイリスト
おすすめの曲って言うけど
すでに聴いた曲だよ
一度や二度 一夜を過ごした曲だよ
あなたの視聴履歴を参考に好きになりそうな曲をプレイリストにしました
すでに聴いた曲だよ
履歴そのままだよ
もしかして
暗示なのかもしれない
新しい曲なんて探さなくても
リピートすればいい
そうすれば裏切られない
好きなものはくりかえしても好き
もう違う土地はない
すべて焦土
空気の成分が九割毒
好きになれそうなものはもうどこにもない
そんなことはない
探しつづけていれば
月にも火星にも住める
深海も泳げる
きっと もっと 好きになれる
天気予報を見よ
本に書いてあることが
ホントにあった
こういう統計だってことが
ホントにあった
なんて驚くのは
日常がホントのことから
かけ離れすぎているから
ホントのことから本ができた
ホントのことから統計をだした
ホントより先行している予言を知りたいなら
天気予報を見よ
こんなにホントからかけ離れているのに
ホントから書き起こしたはずがない
きっと予報士はたくさんの円を見ながら
本や統計に学びながら
サンダルを投げて天気を決めている
天気を知りたいなら
ホントを見よ
空が晴れているとき
どんな最新刊より先に
空が晴れているから
浅瀬で転倒
てんとう虫がいた
プリンターの上で
赤と黒のつやつやを抱えて立ち止まり
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
ダウンロードを開始した
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
プログレスバーが左から右へ
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
ダウンロードが終了した
プリンターの部品の
さかいめ
つなぎめ
みぞ
の真上で
毛づくろいをしていた てんとう虫がいた
出られないだけなんだ
挟まっているだけなんだ
短くした爪を立てても埋まらない浅い場所に
てんとう虫がおぼれていた
つくろう毛などなかった
ひたすらに片足をあげて足掻いていた
かつて愛おしいと思っていたものたちも
本当はずっとそうだったのかもしれない
やがて てんとう虫は這いあがり
プリンターの端に到達し 飛び立って
ディスプレイのふちに着地した
八分
一センチが十ミリであること
一メートルが百センチであること
その長さを実感できない
鶴は千年 亀は万年
犬の一生は人間のそれに換算して
平均寿命
何十年 何万日 何十万時間 何千万分
タイマーで計った
つまらない本を読むのに
集中できるのは
八分
心の動かない時間は
七分でもなく九分でもなく
八分で尽きてしまう
何十億秒もあるだろうか
人生の長さ
タイマーを止めるまでは
八分であることに気づかない
ドのシール
音のなるおもちゃだと思っていた
しかし それは 楽器だった
鍵盤に貼られたドのシール レのシール ミのシール ファのシール ソのシール ラのシール シのシール ドのシールを代表してドのシール によって名付けられたド のシールをめがけて振り下ろすと鳴る音がド
そう判で押した
音のなるおもちゃだと思っていた
しかし
他人に他人の気持ちがあると知ったのは
いつだろう
見てもいないのに
血が流れていると知ったのはいつだろう
はがせるものならはがしたい
しかし 私は わからない
ドとレとミとファとソとラとシとド
振り下ろしたその先が 何の音かわからない
夜のワシャー
カランを固く感じる時間
切り替えて
切り替えるためのシャワーを浴びる
あのね
すべてがひっくりかえって
落ちたものが上がっていって
濡れたものが干上がって
干上がったものが濡れて
裂けたものがくっついて
なくなったものが見つかって
見つかったものがなくなって
よいことがあればいいのにねって祈る
シャワーヘッドを上に向けて
ぽたぽたと落ちる雨に濡れた
あのころのようにはなれない
その滴る水は
洗っていない天井にぶつかって
よごれていると知っているから
復讐
もしも 復讐という言葉を
ひらがなから漢字に変換しようとして
変換できなかったらどうしよう
ふくしゅう の文字が
復讐 に置き換わらなかったらどうしよう
わたしは 変換ソフトのことを疑い
たまたま 偶然のことだと思い
何度も ふくしゅう をくりかえし
復習にしかならないことを確かめて
今までの復讐は
いったいなんだったのかを考える
マジック1
巨椋池
巨椋池のこと
ためいけって言う
きょかすいけ
でないと知っていて
おぐらいけ
だと知っているのに
ためいけって言う
このような間違いが
手をかえて品をかえて
あなたを王手まで苦しめて
驚かせて
ごめんね
わからなく手
右ひじをつくと痛くて
台を見ると平らで
右ひじをつくと痛くて
台を見ると平らで
右ひじをつくと痛くて
右ひじを触ると丸くて
右ひじをつくと痛くて
右ひじを見ると赤くて
膨れて腫れていたのに
どうしてすぐに信じてやらなかったのか
他人のプライド
生まれついて山が近くにあって
先祖だいだい 当たり前のように山登りを愛し
あらゆる山を完登し
みながうらやむような あの絶景をこゆびで数えきれないほど見てきた人を
尊敬
しない
だって山登りなんてしたくない
やりたくない
山に命をかけるときがきたら すでに人生が終わってる
ほんとうにうらやましい?
そうなりたい?
山に登りたい?
やりたいならご自由に
ひとりで誉れと思って登山してろ
有害な何からしさ
犬が人間に従順であることは
素晴らしい犬らしさである一方で
犬が人間に噛みつくことや
犬が犬に発情することは
有害な犬らしさなので
叩いたり摘出したりして
直さなければなりません
迷惑を掛けられたくないだけのくせに
犬の幸せを願って
去勢していきましょうね
風通しのよい場所
十一キログラムのみかんが届いた
一枚の紙に保管方法が書いてあった
みかんを箱に出し
風通しのよい場所で
保管してください
十一キログラム
テーブルの上にコピー用紙を敷いて
みかんを並べる
一枚のA4用紙に十四個のみかんが入る
それでも手元に余ったみかん
わたしより少し背の低い本棚の白い天板からほこりをはらい
用紙を敷いて
みかんを並べる
箱が空になって
座椅子でくつろいでいて視線を感じる
振り向くと本棚の上のみかんと目があう
みかんに見下されている
さあ寝ようと天井を見ると
みかんに見下されている
みかんに奪われている
みかんに見下されている
耐荷重
太っている人が
椅子の背もたれを
ゆっさゆっさ
寄りかかられたその背が
折れてしまわないか
見つめている
その重さは
必然ではなく
気の向くままに生きて
欲望のままに丸くなり
肥えた結果であった
椅子はまるで
宿命のように受け入れ
沈黙し
たまに歯ぎしり
ぎしぎし
許されるなら
私は立ち上がって
脂肪吸引器を取りだし
太っている人から
資本主義を減らしてゆく
いつも耐えているものを
耐えさせるものは
軽くなってしまえばいい
太っている人の
椅子の背もたれを飛び越えて
その肩をつかみ
だれかを折ってまでおまえに座る権利などないと
ゆっさゆっさ
スライドレール
引き出しが引き出せない
奥のさらに奥を進み
ガチンガチン
と前に進むことを止められている
膝で上に押し上げながら引っ張り
ようやく引き出された引き出しの
素知らぬ顔
きっと奥の部品が壊れているから
どこまでも入りこんでしまうのだ
ひざをついて首を横に
さらに傾げて肩まで触れて見た
スライドレールの
涼しい顔
なんども往復しているうちに
壊れて欠けた前板の両端が
側板にぶつからずに
すいすいとレールを走り
見逃されているとわかった
欠けた前板を修復しようとして
テープで補強しても
引き出しを開け閉めするうちに
萎れた花のように首が折れるふたつの角
厚紙を三角にして
貼った先は机の裏
引き出しと奥のあいだに
無用な立体を挟んで
引き出しを進行不可にし
これにて決着
前板は欠けたまま
テープに角がぶらさがったまま
机の裏に工作物が貼られたまま
機能は元通り
きっと忘れる
当たり前になる
機能は元通り
よい仕事をする
二等辺三角形の幻滅
死亡診断書には
死亡したときと
死亡したところとその種別と
死亡の原因と
死因の種類を書くところがあり
みなに大事にされて死にましたと書くところはない
だれも見舞いにくることなく病院で死にました
多くの人に看取られながら自宅で死にました
そのどちらも付言することがらにならず
病院と自宅の情報が記される
つらく死のうと
あっさりと死のうと
死因の種類を○で囲まれる
はじまりは違う位置だった
おわりには同じ位置だった
だれもが本当は期待していた
いびつな軌道になることを
まるで異なる死になると
読めない死亡診断書のために
愛されようとしないで
分類される死に方でも
分類されるかもしれない生き方でも
いずれ直線で結ばれる命でも
最後の点にたどりつくまで
きっとフリーハンドだから
人間ダウングレード
いまどきは
そんなことを言いません
あのときは
そうだったかもしれないけど
もう時代が違います
時代アップデート
ならぬ
時代アップグレード
われわれはつねに学び
つねに最新の良識をとりいれ
つねに科学的かつ論理的な基礎の上に建築し
生きてゆく
あいだにも生きていた
あの時代にとりのこされた人達はどうする?
新しい時代に
新しく生れてきた人ばかりではない
危険であること 不潔であること
誤っていること 歪んでいること
その上に城を築いた者達は
時代が変わった瞬間に
消滅しない
ただ
その土地の価値が低くなり
城の値段が下がり
趣味を疑われる
あいだにも生きている
あの城にとりのこされる人達をどうする?
スーパーヒトリアル
いちど見たものを忘れない人がさ
撮影禁止と書かれたものを
ものすごくだよ
忠実に表現してみせる
それは禁止されていない
なぜかっていうと信じないから
われわれが承認しないから
たぶんどこか歪んでいるし
たぶんどこか欠けているし
たぶんどこか増えているし
見たことだけがすべてだし
やっぱり偽物は本物には敵わないねって
そういうオチに使われるだけだから
だから彼らの写実は許されている
でもそれなら写真だってそうだろ
そうじゃないんだよな
人のことより機械のことを信じているから
人の作った機械のことを信じているから
機械の作った写真のことを信じているから
だから撮影禁止なんだ
いちど見たものを忘れない人なんてさ
ただの嘘つきだよ
いちど見たものを忘れる人からすればさ
そんなことありえるはずないってね
人間は精密な機械なのでした
いつのまにか花
己のやさしさを信じようとしているとき
この世でもっともおぞましい顔をしている
間違い 考えるだけ考えない者よりやさしい
正解 考えるだけ考えない者より考えた
そもそも
やさしければやさしさに悩む機会もない
すべては非情な決断から始まった
助ければよかったのに助けられなかった
その後悔をやさしさや繊細と言い換える
なぜ助けなかったかは考えない
だって助けたことで恨まれたらどうしようとかイヤな思いをされて嫌われたらどうしようとか迷惑だと切り捨てられて自分が自分が自分が傷ついたらどうしようと考えたことで目の前の他者の苦しみに鈍重になって助けなかった醜さがあらわになるから
それでもやさしかったと信じようとするとき
あらゆる論理を適用しようと口八丁で説明しているとき
単純明快な疑問によってさらけだされる
あるのなら指をさせばよかったのに
いつのまにか花が飾られている
だれの心をあらうためだったのか
わたしには思いつきもしない
欲望
わたしの数より段ボールの数のほうが多い!
株価チャート
そんなに注目を浴びたいのなら
株価のチャートになればいい
あなたの一挙一動に
みなが人生を捧げて見守ってくれる
目立つことで貶されたくないのなら
株価のチャートになればいい
不祥事や減配で企業に怒る人はいても
株価のチャートに怒る人はいない
賞賛され必要とされたいのなら
株価のチャートになればいい
将来の株価を分析するために
あなたは必要不可欠に違いない
だれにも注目されなくて
褒められもしなければ
貶されもしない人生が
そんなに空しいのか
だったら株価のチャートになればいい
株価の一挙一動を
あなたが人生を捧げて見守る
みなに意味のあるものになる
何にでもなれたのに
枷
わたしを好きな人がひとりもいない世界に行きたい
そこではやりたいことがたくさんある
その1 放火
その2 強盗
その3 殺人
その4 異物混入
その5 ウイルス作成
その6 監禁
その7 脅迫
数えきれない罪を犯してみたい
みなが大事にしている皿をひとつひとつ音を確かめるように壊したい
やってもやってもやりきれないぐらい知りたいことが増える
好奇心はきっと尽きない
そう思っても
わたしを好きな人がひとりもいない世界には行けない
なぜなら引き留められている
わたしを好きな人がひとりでもいる世界では
やりたいことがやれない
人の最初の罪は
愛されて生まれてきたこと
対照の対象
もしも
この世にあるすべてのものが
男性器と女性器の暗喩だったら
わたしは失望するだろう
犬と猫の暗喩でも
馬とシマウマの暗喩でも
わたしは目を擦るだろう
川を見ながら海を想像する
夜に出歩いている未成年を見ながら想像する
ある地点からある地点まで歩く
飛び跳ねる
そして立ち尽くす
この世にあるすべてものが
この世にあるというだけで
同じぐらいであってほしい
手に入らないものが星を包含するとき
愛や人生がほかのものを下敷きにするとき
わたしは質問するだろう
あなたと人間
どちらが大事
とくに何もない場所に
小さくて黄色い花が咲いていたら
かわいいと言いたい
どうしても欲求
魚の痛覚について語っている人の
どうしても魚を捌きたいという欲求
魚を食べたいという欲求
魚を釣りたいという欲求
新鮮さがなくなるから
おいしくなるから
持ち運びしにくいから
絞めていたのに
やさしい人間に見せかけたいという欲求
苦悩する人間に見せかけたいという欲求
魚の痛覚がないと話したい欲求
魚の痛点を外していると話したい欲求
魚は痛がることなく死にますと話したい欲求
ある小説について語っている人の
感情がわからない人とは
しっかりしていなくて
人付き合いのヘタな人のことだと思った
そう思いたい欲求
捌きたいという欲求
痛覚がないと思いたい欲求
どうしても捌きたいという欲求
楽しいから
異なるから
楽になるから
絞めていたのに
苦悩した人間に見せかけたいという欲求
使われるもの
なぜかわたしの机を使っている
クリップボードに挟んだ紙に書きこむのに
なぜかわたしの机を使っている
ノートパソコンのむこう側の
なにもないすみっこに
クリップボードを置いて
からだをこちらにかがめ
クリップボードに挟んだ紙に書きこんでいる
クリップボードとは
カチコチの平らな板に紙を挟むことで
安定した筆記を提供する文具のこと
だったらどうして挟んだんだ
どうせ机で書くんじゃないか
人の机のすみっこで
きっとつらい
使われるために生まれてきて
最小限の機能だけで存在し
意味を否定された
クリップボード
それから
わざわざ挟まれた用紙
実際につらい
使われるために生まれてきて
最小限の機能だけで存在し
意味を肯定された
わたしの机
あなたのことは
わたしだけが肯定したかったのに
切り花
わたしの頭の位置より高い場所にある
もらった花があまりにも枯れなくて
水を換えなくなった
すべての水を吸いつくした花は
葉がしぼんで
枝が細くなったように見えたが
花びらは色あせるばかりで
すこし縮むぐらいで
うつむくだけで
一枚も落ちない
わたしは
あれをいつ片付けてよいのか
わからない
もう手遅れなのか
まだ生きているのか
わかりやすく終わってくれればいいのに
生きることはしぶとくて
挨拶つなぐ
もしもひとりだけしか
挨拶をしない世界になったら
おはようはなくなるのだろうか
おはよう
返ってこない
あるはずの
おはよう
まるで意味のない言葉を発したように
辺りはしんとし
やがて訝しみ
いったいあなたはなにを期待しているのか
視線がそう問うようになる
この世からおはようがなくなることが先か
あなたがいなくなることが先か
どちらにせよ
結論は同じだ
あなたがいなくなったら
この世からおはようがなくなる
この世からおはようがなくなったら
あなただっていなくなる
だから
諦めないでほしい
いなくならないでほしい
それは受け継がれてきたものなのだから
途絶えさせないでほしい
みながおはようを言うようになっても
あなたがおはようを言い続けたことは
絶対になくならないから
となりの芝生は青い芝生
みーん
何者にもなれなかった
許されたい
ほんとうは
ちっともそんなこと思ってないよ
だって意味すら知らないし
みなのいう何者が
何者なのかわからない
許されたいってどういうこと?
悪いことでもしたの?
警察に行ったら?
どうしてみな同じ表現を使うの?
発祥はどこなの?
有名な書評家がそう言ったの?
ニュースキャスターが?
わたしが寝ていた授業で?
古語の辞典に載っていたの?
だから受験勉強のついでに覚えたの?
習った言葉をくりかえしているだけなの?
何者にもなれなかったの何者は何者?
もしかして
だれも知らないのかも
何者にもなろうとしたことがないのに
ほどよいタイミングで
何者にもなれなかった
と合いの手を入れただけかも
それか
自分の人生のなかで見つけ出した言葉は
いいねが貰えづらいから
最大公約数で代弁したのかも
あるいは
わたしだけが知らないのかも
みーん
何者かになりたかったって
許されたいって
本気で思えたら
その意味がつよく染みるぐらい
迷いが先行していれば
人生はもっとよく
ならないだろうな
今のわたしでよかった
パソコンデスク
どう考えても高い
高すぎる
机の高さ
揃いも揃って
高い机
安物も高価なものも
同じ高さ
競争力のなさ
高さを自由に変えられます
その前に
昇降式です
その前に
違う高さの机を用意しろ
なんでこんなに高いのか
それは規格から高いから
規格を決めた人が悪魔で
わたしたちを困らせていたらどうする
椅子で高さを調節できます
足が届かない
フットレストで調整できます
足場が狭い
低い机もあります
ダイニングテーブル
なんでこんなに高いのか
それは規格から高いから
規格を決めた悪魔が人でも
わたしたちを困らせていたら
抗え
書かれてないばね、いないばね
その卓上加湿器には
水を入れるタンクと
タンクに入れる吸水芯と
吸水芯を通してタンクから水を吸い上げてミストを作り出す本体がある
説明書にはそう書いてある
タンクと吸水芯と本体を組み合わせて
電源を入れると
ミストが出て
こない
吸水芯を本体に押し上げるためのばねがない
あらかじめついているばねがない
説明書に書かれてないばねがない
ばねがなければ動かない
タンクや吸水芯や本体があっても動かない
説明書に書かれてないばねがないと動かない
雑巾と窓のごみ取引と隣の土を入れる穴
無限にあるのに無限にない
やればやるほどゴミが減る
ひとつにまとまる
袋にまとまる
たった一粒を拾って捨てる
たった一粒が減る
すこしの所作 確実に
すこしの体力 消えてなくなる
すこしの心理 不純物
これはもっとも公平な取引
ものは・いつも・人を裏切る
人も・いつも・ものを裏切る
しかし存在だけは
行動に報いる
動かしたら動く
違う場所に移動する
在るものが違うところに在る
やればやるほど見違える
かたちになる
やらない
やればやるほどゴミが減る
わかっている
やらない
タイムトラッキング
作業をするたび
時間をはかる
お風呂に入るたび
時間をはかる
寝て起きるたび
時間をはかる
さっそく思い出してみよう
昨日と今日でさんじゅう時間も漫画を読んだ
昨日と今日はよんじゅうはち時間
そんなばかな
しかし記録は裏切らない
あとで見たらなな時間だった
あのときだけ記録が壊れていた
記録のせいでにじゅうさん時間も間違えた
見返さなかったら消えていた
にじゅうさん時間が消えていた
たった一瞬のあやまりが
訂正を知られることなく一生残って
歴史になって
さんじゅう時間が殿堂入りするところだった
そんなばかな
しかし記録は裏切る
じつはうどん
思考を止めてはいけない
お店のカレーうどんの麺があきらかに細い
本当にうどん?
じつはラーメン?
書かれていることが真実とは限らない
お店のカレーうどんの麺があきらかに硬い
本当にうどん?
じつはラーメン?
人を信用してはならない
お店のカレーうどんの麺が細くて硬い
じつはラーメン?
じつはそば?
じつはラーメンそば?
じつはうどんそば?
じつはうどん?
本当にうどん?
そうやって目の前にあるものを疑って
うどんの麺が太くて柔らかいことを疑わない
じつはうどん?
じつはうどん?
本当にうどん?
張り紙のある場所には
喫煙は所定の場所で
紙を一度に大量に流すと詰まります
使用後は水を流してください
つまり
張り紙のある場所には
人がいたってこと
喫煙を所定の場所以外で
紙を一度に大量に流して詰まらせる
使用後に水を流さない
人がいたってこと
さらに
張り紙のある場所には
人がいるってこと
そういう人がいたんだ
そういう人がいたんだ
そういう人がいたんだ
人がいるってこと
歴史書に載る機会はないし
だれにも暗記される予定はないから
貼られたい
「踊らないでください」
団地の子とは
給与計算 なにそれ
資産形成 はてさて
団地の子 だれそれ
イメージだけが疾走し
意味もわたしの前から失踪し
おわりに言葉だけが残された
団地の子とは何?
会ったかどうかもわからない
だれのことかわからないから
遊んでいたかもわからない
なんのことかわからないから
回転灯
メリーゴーランド
地球
より大さな円周で
ぐるぐると巡る
団地の子とは何?
教えてくれない常識だって
知らないのに知っているのは非常識だって
偏見はいけないと言う口で
あなたは何を本当に知っているの
団地の子とは何?
プラスッチク
せんまいエレベーターのぼんろぼろな張り紙の
プラスッチクの捨て方について
わたしは読むだろう
「中を洗ってラベルをはがしてふたをとらないといけないのだな」
きさまは言うだろう
「いやプラスチックだろ!」
そんなことは
だれもが
知っているが
知らなかったか
世界がやさしいこと
寛容であること
無関心な横顔が
ただ目をつむって
口をつぐんで
微笑んで
ありのままを愛していることを
知らなかったか
まるで自分だけが真実に気付いているかのように
正しさを教え諭してやろうというように
たかが一字のあやまりを見つけたぐらいで
特別な人間になれたと思ったか
「これはプラスチックなんだ!」
ひとを抱きしめたことがなさそう
だましだましだまし
透明のパックに
つめられている饅頭が
一個百円らしいんだけど
この一個って単価のことらしくて
饅頭が五個入った一パックは
五百円らしくて
なら五百円って書けよ
五百円なんだから五百円って書けよ
狙ってんだろ
一パックで百円と勘違いするやつが出ることを
それで買わせてさ
もし指摘されたものなら
「きちんと書いてありますよ」
なんて涼しい顔で
言うに違いない
間違いない
なあにが
消費税を込みにしたら
買い控えが起こるだ
なあにが
人を騙すには
少しの真実を混ぜるだ
なあにが
合理的で利己的で
冷酷な自分かっこいいだ
悪いことをしなきゃやってけないやつはみんなゴミだよ
困らないから
だれも困らないから
だれも本当に困らないから
人を傷つけないと生きていけないなら
人を傷つけることをやめてほしい
条件反応
挨拶されると気持ちいい
声をかけられると嬉しい
「おはよう」
よい一日がきっと始まる
ところで
会社の入口に設置された自動検温システムが
カメラでとらえた表面温度をもとに
発声する
「体温は正常です」
挨拶されると気持ちいい
でも挨拶でなくてもいい
声をかけられると嬉しい
「体温は正常です」
「マスクをつけてください」
「近づいてください」
ニッコニコ
ニッコッコ
言葉なんて
だれかなんて
どうでもいい
ここに男性向けの挨拶を並べる
勝利 逆転 もう遅い 冷酷 ドS セフレ ハーレム
ここに女性向けの挨拶を並べる
高身長 高収入 高学歴 専業主婦 スパダリ 逆ハーレム
言葉なんて
だれかなんて
整合性なんて
良識なんて
客観視なんて
どうでもいい
気持ちいいなら
どうでもいい
あなたたちは
機械に夢中の
機械
ハトが羽を使わずに一段のぼったよ
ハトが水たまりをつついていたよ
「いやそんなことはない」
そんなことはあるよ
ハトは水たまりをつついていたよ
「ハトは空をつついていた」
そんなことはないよ
ハトは水たまりをつついていたよ
「ハトは空をついばんでいた」
そんなことはないよ
ハトは水たまりをつついていたよ
「平和は空をついばんでいた」
そんなことはないよ
だいたいアルバムに書いてみなよ
『平和は空をついばんでいた』
悲しいことかと思っちゃう
あとに残らない現実のために
あとに残そうとした言葉で
うそをついてどうする
掃きだめと小差の鶴
ゴミがあったから
「ゴミだ!」
と言ったら怒られた
ゴミにゴミって言ったら悪いかよ
ゴミにゴミって言ったら悪いかよ
外野 いやになるほどむちゃくちゃ言う
「なんてひどいことを」
「機嫌が悪いからってやつあたりするな」
「みんなちがってみんないい」
内野 安打 安打 ホームラン
じゃないよ
「黙ったということはこちらの勝利だ!」
じゃないよ
ゴミはいつだってゴミだよ
機嫌も紀元前もなんもかんもなしにゴミだよ
「上げるのに下げる必要はない」
上げるためじゃないよ
下げるわけじゃないよ
ただのゴミだよ
「他の人にとっては宝物なんだよ」
わたしにとってはゴミだよ
みんなみんなみんなみんな
八〇点と一〇〇点しかないウソつけコラコラ
ゴミはゼロ点
並べる価値なし比較するにも値せず
きれいごとばかりでいたら
ほんとうはきれいなこの星が
ゴミばかりゴミばかり
悪いものを悪いと言えないやつの
いいものなんて二〇点差
脈ありサイン
どうしよう
サインを送っていたら
わたしの行動のひとつひとつが
シグナルだったら
どうしよう
洋食店でわたしの選んだ
オムライスとアイスの組み合わせが
店主の不幸を開始する合図だったら
どうしよう
転んだときに立ち上がる所作が
だれかの未来を奪うきっかけだったら
どうしよう
立っているだけで
メッセージ性をもっていたら
どうしよう
わたしの知っている言葉が
わたしの知らない合言葉で
予約していなかったイベントに
参加してしまったら
待ち合わせをしていない人と
出会ってしまったら
どうしよう
それがあるから人生は悲しくなるのに
それがなくては人生は面白くないのは
どうしよう
節税対策
エレベーターに閉じこめられて
救出されたあと
髪を後ろに一本縛っただけの同期は言った
「この経験も何かに使えそう」
行った場所の写真を公開する
読んだ哲学書を引用する
鑑賞した映画の感想を共有する
できなかったらどうなるだろう
何にも使えなかったらどうするだろう
愛のために結婚をするなら
指輪をつけず
だれにも教えることなく
終わってもいいはずだ
有用だからそうしたわけでもあるまいし
愛のために秘められた恋をしよう
世間の偏見には負けない
世間の無関心にも負けない
世界の無風にもきっと負けない
勝つためにそうしたわけでもあるまいし
お金にならなかったらどうだろう
個性にならなかったらどうだろう
経験にならなかったらどうだろう
何にも使えなかったらどうするだろう
経費で落とすために
明瞭に描かれた旅行
無駄のない人生
ただ無駄に見える
やりたい仕事
やりたい仕事
あしのながい猫のあいだをくぐる仕事
やりたい仕事
マンホールのふたを一枚ずつ乾かす仕事
やりたい仕事
食パンをひたすたまご液をつくる仕事
やりたい仕事
としを隠しているひとの生年月日を暴く仕事
やりたい仕事
流れるくもを分類別にかぞえる仕事
やりたい仕事
マングースとハブの仲を適度にたもつ仕事
やりたい仕事
とがった石を川に投げて丸くする仕事
やりたい仕事
ひとにやさしくすること
やりたくない仕事
生きるためにしなければならないこと 全部
一つ上のフォルダ
やればやるほどうまくなると
生きれば生きるほど成長すると
思っていたけどほどほど
ほどほどのところで
歳だけが時と並走して
能力はその背を追っている
行けるところまで行った
進めるところまで進んだ
ここが最奥 最高の土地
そして折り返し地点だ
歳と時には追いつけない
彼らは翼を隠しもっていた
ぱたぱたと飛んでいった
能力は元来た道を下るだけ
一つ上のフォルダはけっして奥には進まない
のぼればのぼるほど
階層の根底に近づく
わたしにとって大事なことは
うまくなることだったのか
実現することだったのか
楽しむことだったのか
ルートを辿って初心にかえれ
歩んだ分だけ どこまでも戻れる
一つ上のフォルダ
第一章 女ってDTMができないのか一生
ゲームを作りたくて
ゲームのBGMを作りたくて
DTMの
デスクトップミュージックの
教本を
読んだけど
わかんない
もしかして
女ってDTMができないのか
一生
思うと
絵やマンガを描いていた女の子はいたけど
DTMをやっている子は知らなかった
ピアノを習っている男の子は
おぼっちゃんと呼ばれていて
ピアノを習っている女の子は
ふつうにいたのに
DTMをやっているのは
だいたい男
もしかして
女ってDTMができないのか
一生
だいたい
女の子
歌っている
男がDTMで作った曲を
歌ってみた
歌っている
DTMで作られた音楽を聴いて
「あっ 感性!」
と思って作者を見たらまず女
もしかして
女って音楽理論がわからないのか
一生
そんなことはない
できている人はいる
偏見にすぎない
視野が狭い
自分ができないからってみんなできないと思うな
ばーか
でも人生ぜんぶそうじゃんかよ
思ったことで決めつけて
決めつけたことで狭めて
どうにか進んでみたから
生きられたんだ
宇宙を飲みこんでから
味噌汁を飲むやつがいるかよ
だからまずは第一章
女ってDTMができないのか
一生
ありがとうコンプライアンステスト
業務中のみなさん!
コンプライアンステストを始めます!
時代を反映した常識問題をお届け!
空き時間にかならず回答してください
それでは問題です!
化粧をしない部下に注意しました!
「女性らしく化粧をしなさい!」
これは正しい行いでしょうか!
全問正解おめでとうございます!
もちろん誤った行動ですね!
解説いたしましょう!
これは価値観の押しつけかもしれません!
ジェンダーハラスメントにあたるかも!
それにその女性の性自認が男性だったら!
女性らしさを強いられることで!
苦痛に感じてしまうかも!
コンプライアンステストで学べた
強いられることは
だれにとっても
苦痛だと思っていたけど
そうではなかった
コンプライアンステスト最高
コンプライアンステスト必要
コンプライアンステスト万歳
社会めった刺しにして燃やして殺す
長生きするリスク
もう明らかになった
統計や確率で示せるからリスクになった
災害により倒壊するリスク
投資で大損するリスク
生まれてくる子が先天性疾患をもっているリスク
知らない人を助けたらその人がとてもへんな人で玄関まで追いかけられてカーテンを開けると窓に這っているかもしれないリスク
よいことが定義されていて
そのよいことから離れていて
数字で根拠を示せるなら
すべてリスク
ぜんぶリスク
みんなリスク
それらのリスクを回避して
安心して気がゆるむことによって
発生するリスク
以下リスク
以上リスク
すばらしい人生を送るには
これだけのお金がひつようで
これだけの備えがひつようで
そのお金が尽きてしまうから
長生きするリスク
雨のように流れる
自転車かごに余り
風でとんでいった
レインコート
会社の駐輪場のたてどいを竿に
なびいておる
梅雨なのに
雨具がない
仕事なのに
雨具がない
予報も雨で
雨具がない
たてどいに掴まり
風でとんでいった
レインコート
会社の駐輪場の植えこみを枕に
ねむっておる
雨具がないのに
買いにいかない
知っているのに
拾いにいかない
自分のことでも
見て見ぬふり
明日のことでも
知らないふり
かなしいことはかならず起こる
毎日だれかが泣いている
来るとわかっていながら
見て見ぬふり
知らないふり
わたしと不審死
アリバイがない
犯行があったとされる時刻になにかに打ちこんでいた記憶がない
スケジュール帳に書かれていない
予定がない
実績がない
役割がない
社会にコミットしていない
だれにも覚えられていない
存在を証明できない
どこにもいない
もしかして
あの未解決事件を起こしてしまったのは
わたしではないのか
世間をうらんではいない
お金に困っていない
関係ない
動機はない
わたしはまだだれももやしていない
さしていない
しめていない
ころしていない
たぶん
慣れる人生、見慣れる光景
ペットボトルの捨て方、意外と高度
(1)ふくろを用意
(2)ペットボトルを用意
(3)排水口を用意
(4)蛇口を用意
(5)捻るやつを用意
(6)握力を用意
(7)捻る
(8)洗う
(9)流す
(6)握力を用意
(7)捻る
(6)握力を用意
(7)捻る
(1)ふくろを用意
(10)捨てる
(6)握力を用意
(11)はがす
(10)捨てる
(6)握力を用意
(12)潰す
(10)捨てる
(13)繰りかえす
(6)握力を用意
(14)結ぶ
(6)握力を用意
(15)持つ
(6)握力を用意
(16)上げる
(6)握力を用意
(17)運ぶ
(6)握力を用意
(18)開ける
(6)握力を用意
(18)開ける
(6)握力を用意
(18)開ける
(19)腕力を用意
(20)投げる
その他、インフラの用意
インフラにかかわる、すべての人間を用意
すべての人間の、衣食住を用意
きっと最初は、困難
手順が不明で、混乱
(13)繰りかえす
(21)慣れる
じつはできる、分解
じつはできる、作業
(1)ふくろを用意
(あ)生ごみを用意
(10)捨てる
(6)握力を用意
(14)結ぶ
(3)排水口を用意
(4)蛇口を用意
(5)捻るやつを用意
(6)握力を用意
(7)捻る
(8)洗う
(A)拭く
日常は、
(13)繰りかえす
(21)慣れる
新しいことも、
(13)繰りかえす
(21)慣れる
それでも、
(22)見つけようとする
(23)未知の課題を用意
それでも、
(13)繰りかえす
(21)慣れる
やりたいならやれ
やりたいならやれ
遊びたいなら遊べ
作りたいなら作れ
書きたいなら書け
眠りたいなら眠れ
食べたいなら食べ
死にたいなら死ね
だって
そうじゃないか
まさか
死にたいというつよい言葉で
人の気を惹きたいであるとか
死にたいというくらい言葉で
人より悩んでいると見せかけたいとか
死にたいというひろい言葉で
人たちの共感を集めるつもりでは
あるまいし
だってそれなら
かまってほしい
特別に思ってほしい
仲間がほしい
と言えばいいだけなのだし
やりたい気持ちを尊重したい
そんなの無理だと言いたくない
だれかに危害をくわえることでなければ
どのように生きても自由なはずだ
やりたいことをやろう
やりたいことがわからないなら
書きだそう
口にだそう
手をだそう
やりたいならやれ
愛したいなら愛せ
死にたいなら死ね
なんて言ったら怒るくせに
なんて言ったら怒るくせに
ごったごったごった
休日のフードコート
ごったごったごった
人の声ソムリエも首をよこにふる
列が並び
並ぶ列が
それでもなんでも食べられる
クッーこうそリ プん丼ざンドン
生ナラたーみク ーぽビうハーキ
コーーんガのス レんルょーネチ
ョドュさーバイ クゃカぎャモき
チルシくバサア 苺ち製きチレつ
ナプーたズ丼ラ ム菜特焼塩食骨
ナーャぎーつニ ー野ンきん定ム
バメチねチかバ リツメやど煮ー
ごったごったごった
列のいちばん短いところへ
ごったごったごった
声をかき消されそうになる
「チーズ牛丼をください」
すぐにでてきたチーズ牛丼をトレーに乗せ
一人用のカウンター席に座り
とろっとしたチーズと
とろっとしていないチーズの境をみる
いっぱい選べたはずなのに
まだまだ未知の食べものが
味わうことがなじむことが
いっぱい好きになれたのに
カレンダー(令和3年最新版)_20210101_決定稿 - コピー
「今年は五輪に合わせて祝日が移動しています
カレンダーには反映されていないので
みなさん気をつけてください」
えっ
カレンダーまで嘘をつくのかよ
印刷が間に合わなかったって
そんな問題じゃねえだろ
定規のプリントがうまくいかないからって
一センチが二センチになって
十五センチ定規が三十センチ定規になっていたら
社会がぜんぶ二倍の長さで回っていくんだよ
木の幹が
「ちょっとオレ生き方まちがえたかもしんねえ」
と言って勝手にポックリ折れたら
枝葉は死ぬんだよ
だれがカレンダーが裏切るって
思って生きてきたんだよ
みんなカレンダーを信じた上で
予定を立ててきたんだよ
※実際と異なる場合があります
だからなんだよ
それでも信じてきたから
カレンダーを壁にかけて
デスクの端っこに置いて
スケジュール帳を買ったんだ
信じられないなら買わないよ
印刷が間に合わないならデジタルでいい
すぐに差し替えられるし
すぐにアップデートできるし
そうやって速いものに
置き換えられて
なくなってゆくんだ
正しくないことはミスで
疑うことは面倒だから
会うより映像のほうが
書くより音声のほうが
人間より機械のほうが
速いし正しいし実情に即しているから
わたしたちはいずれいらなくなるんだ
作る理由
わたしが知るときはみながさらったあとだ
謳われたすばらしさが薄く広まったあとで
些細なおまけが売り切れてしまったあとだ
すべてを完璧に知るには遅い時期に
知るしかなかったわたしには
もう手に入らないバックナンバー
だれかのものになって古びて
それでも不在を取り戻そうとして
手に入れて手に入れられなかった
ある点が二方向に走り広い底辺を引いた
そこからあの点に向かっても
面積の最大値は求められない
わたしのものにならない定めだった
もう手に入らないバックナンバー
出会う前から好きだったらよかった