week-end

青年がバケモノと一緒に週末をダラダラ過ごす成人向け小説です。

week-end


このページは全年齢。販売リンクは18禁

あらすじ

生きるために生きるのはもう止めて
人間らしく生きてみよう(笑)

週末はバケモノとH!

情報

  • 18禁
  • 挿絵なし

冊子版

week-endの冊子版の表紙

大きさ
A5の2段
ページ
32ページ
文字数
19,987文字
印刷
コピー本
部数
4部
情報
Webカタログ
メモ
表紙の印刷を失敗した。

登場人物

猫柳シシヤ
ねこやなぎししや
猫柳カジャ
ねこやなぎかじゃ
ヘーパイストス
ヘーパイストス

履歴

2019年03月15日
冊子の完成
2019年03月21日
第8回Text-Revolutionsで頒布
BOOTHで販売
gumroadで販売
2019年03月24日
PDFの差し替え
0000年00月00日
販売取下中

冒頭

 この物語はフィクションだよ。
 だって、君にヘーパイストスはいないから。

金曜日

「週の終わりな人間だからな。おまえは」
 そうそう。ボクは毎日が週末なので、平日の昼に届いた荷物を受け取ることなんて朝飯前だった。ところが、ワンピースに着替える途中で動転していたというのもあって、まあ責任問題でいうところの五パーセントぐらいを、やらかした。
「だって兄さんの荷物だと思ったんだもん」
「なんで私がこんなデカいもんを家によこさなきゃならんのだ」
「家具かと思って」
 ボクたちは一緒に、広いリビングの中央でデカデカと直立している包みを見上げる。もう二メートルはあるんじゃないかな。いったい、これを注文した人はとっても大きな家の持主なんだろうな。そもそも室内用なのかも知らないけど。
「しかし、こんなことあるか? 誰が送ったのかも、誰に送られたのかもわからないなんて」
 現実にあるのだからあるさ。言ったら殴られた。
「どこだった?」
「うーん。あ、そうだ。制服が長袖で暑そうだったかも。しかも燃えるように真っ赤。クーラーをガンガンに効かせていたとはいえ、なんだか気持ちが辛くなってきちゃったよ」
「まあいいや。明日にでも片っ端から連絡してみる。それまで、これは、放置」
「中身を確かめようよ。危険物かもしれないし」
「危険物だったらなおさら触っちゃダメだろ」
 変に開けてトラブルになったら困るからやめておけと兄さんが背を向けて手を洗いにいこうとした瞬間のことだった。ビリビリビリ。紙の破れる音。兄さんはすぐにボクをにらみつけて、首をひねり、後ろを振り向いた。
 包みから、緑色の腕が飛び出していた。
「危険物だったな」
「あおむけのときの胸みたいに動いているよ」
「呼吸しているみたい、でいいだろ」
「つまり、これには肺があるのかな?」
「つまり、生きているんだろ」
 ふたりで顔を見合わせた。兄はボクのことを無限に甘やかしてくれるし、ボクも兄に無限に甘えるが、ペットだけは飼わない約束をしているのだ。
「あ、あのね。ボク、大事に育てるよ」
「違う問題はそこじゃない。こんなサイズの生き物が存在するのか?」
「確かに、直立するタイプでこのデカさって。バスケットボール選手ぐらいなんじゃない?」
「一気に問題が矮小化したな……いや、人間が包みで送られるほうが問題か?」
 ボクたちの家はふたりで住むには広すぎるにしても、縦にも横にも広いバスケットボール選手を住まわせる義務はなかった。だから、お引き取り願おうということで、ジャンケンで決めて、ボクがめくれた端から引っぱって包みをビリビリビリと破った。
 最初に声を上げたのは兄だった。遠巻きに見ていたおかげで全体像をすぐに把握できたからかもしれない。ボクはというと、包みの一部が緑の手の先にはえている鋭い爪にひっかかってしまったことを申し訳なく思った。だってこれ、外的ささくれだろ?
 そんなボクを引っ張って、兄は荷物を指さした。見上げると、そこには緑色の……緑色の……。
「ねえねえ、目が十個あって耳が上向きにとんがっていて舌の長い緑色の生き物ってなあんだ?」
「なぞなぞ形式にされても答えられん」
 うね、うね。目前でたのしそうに刻む長いしっぽは猫のようでもあるし、舌をだしてよだれを垂らしているところは犬の親戚な気もするし、とてつもない円背姿勢であるとはいえ、二本の太い足でしっかりと立っているところは人間の息吹を感じられなくもない。十ある瞼が一枚一枚ゆっくりと下ろされて、開かれてを繰りかえしているところなんて、イルミネーションがグラデーションで消えたり点いたりするような、いつまでも眺めたくなる美しさがある。ボクがそう伝えると、兄さんは。
「これは、家具だ」
 と打ち切ったが、同時に緑色の何かが口を開いた。
「はじめまして」
「これは……喋る家具だ」
 押し切った。
 家具の名前は、知らない。家具の出身地は、知らない。家具の製造者は、知らない。家具は何も知らなかったけれど、ボクたちが人間であることと、自分が家具でないことだけは知っていた。
「ワタシは家具ではないと思います」
「おまえな、家具が何かを分かっているのか」
「エエと、ソコにある棚やテーブルのコトですよね。さすがにああいう無生物とはチガうような……チガいたいような……」
 兄はなるほよなるほよと雑な相槌をうったと思うと「家具風情に家具の何がわかる‼」と一喝した。
「あのな。人間ですらも家具になろうと思えば家具になれるのに、なんでおまえだけは家具になれないと謙遜するんだ? もっと自信をもつんだ。おまえは家具だ」
「ハ、ハア。人間は家具になるんですか」
「ああ、そういうジャンルを見たことがある」
 喋る家具はおろおろとして兄とボクを交互に見た。これじゃ、ボクまで放言を吐いているみたいだ。いくら週末人といえど初対面の家具を罵りはしない。
「名前をつけないとね。君は声がとても透き通っていて美しいから、シンバルという名はどうだい」
「アノ、よくワカリマセンが、シンバルは透きとおった音のする家具なのですか?」
「家具とは違うけど。みたいなものでしょ、楽器って。音楽なくして人生はないって言うしね」
 兄は鼻で笑って家具の腕をぽんぽんと叩いた。
「おまえの名前はヘーパイストスだ。次に出来た家族にはそう名付けるように決められているからな」
「よかったね、ヘーパイストス! もしやってくる時期が一世代遅かったら〈モジヤ〉か〈ツツヤ〉になっていたよ」
 十ある瞼がいっせいに下りて上がった。
「猫柳カジャだ。長男で、こっちは弟の」
「ししやだよ、猫柳ししや」
「オトウト……」
 ぱちぱちとカツラを外してカジャに被せる。身軽になったボクはヘーパイストスのもふもふな胸に飛び込んだ。
「よろしくね、ヘーパイストス!」